異世界旅行2-1 秋風吹きて夢心地 46
わたしは口を真一文字に結んだ。
それを見た暁さんは安心したような笑顔を見せる。
「よろしい。でもまぁ、本音を言えば、綺麗ごとばかりで世渡りしたいよ」
「ははは、まったくだ」
サンジェルマンさんも笑って頷く。全くその通りだ。誰もが思う。
さて、と切り返した暁さんは身内の3人に向き直った。安寧の地を手に入れても強者との邂逅を望む武人。生粋の戦闘民族。
解放のために戦った獣人の戦士。
かつて将軍と呼ばれた武人。
強さを追い求め、異国に渡った求道者。
とはいえ、サンジェルマンさんは暁さんの客人。おいそれと危険な目に遭わせるわけにはいかない。
「まぁいいんじゃない?」
軽いっ!
暁さんは続ける。
「ぶっちゃけ、エルドラド周辺には人間に相当する知的生命体は確認されてない。だけど、もしかしたら遠くの地に人がいるかもしれない。みながみな、友好的とは限らない。だからエルドラドの人たちにも、自衛の手段を用意しておいてほしい。世界中を見て回れればいいんだけど、さすがにそういうわけにはいかないからなぁ」
それはごもっともです。
「それと、サンジェルマンさんの言う通り、出せるだけのお互いの手札は確認しておきたい。特に武力や戦闘力に関するところだ。そういうわけで、個人的にはエルドラドに移住した人だけじゃなく、魔剣持ちを含めた冒険者たちとも手合わせしてほしいと思ってます」
むしろ戦うの肯定派だった!
ここでシャルロッテ姫様が手を挙げる。
「そうですよ! もっとお互いのことを知りましょう! わたくしは主にフェアリーについて知りたいです。ので、彼女たちとの交流を密にするべきかと存じます!」
欲望丸出し!
でもそれは大賛成です!
情熱の矛先にいる太陽の女性は満面の笑みで答えた。
「それはこちらとしても本望です。彼女たちも、友達ができることを嬉しく思うことでしょう。できれば異世界での景色を教えてあげてください。彼女たちは好奇心旺盛ですから。それと同時に、彼女たち視点でメリアローザのことを聞いてみてください。きっと素敵な発見がたくさんありますよ」
「是非もありませんッ!」
この機を逃すわけにはゆかぬ。わたしも声を大にして前のめり。
「わたしもフェアリーたちのことをもっとよく知りたいので、ご一緒してもよろしいでしょうか!」
「もちろんですっ!」
きゃいきゃいする我々の間にサンジェルマンが現実を突きつけた。
「ベレッタくんは完全にプライベートだけど、姫様は親善大使なので一応、公務ということで来訪してることをお忘れなく」
「フェアリーとの交流は立派な公務ですっ!」
「魔法技術の視察もお忘れなく」
「はい、もちろんです」
最後の返事に感情が乗ってない。
親善大使ということは、ベルンの顔であるということ。なにかやんちゃをしないか心配だ。前科もあるし。
彼女を知る誰もがそう思うように、この後、彼女は、いや、姫様たちがとんでもない行動に出ることを、まだ誰も知る由もなかった。
認識が甘かったのだ。公務で来たのだから、常識で考えて無茶なことなどしないだろう、と。




