異世界旅行2-1 秋風吹きて夢心地 38
拍手が収まったところで前菜が並べられる。と同時に、下座に2人の取りまとめ役が正座した。
一人はウェアフェイスの女性。
二人目は中華戦国時代に出てくる文官のようないで立ちの男性。
2人はうやうやしく首を垂れて、すっと背筋を伸ばす。
「初めましての方々もいらっしゃいますので、改めて自己紹介を。私はエルドラドで取りまとめ役をさせていただいております、白幸と申します。バイとお呼びください。このたびは遠いところからわざわざのご足労、誠にありがとうございます。エルドラド一同、心よりの感謝と歓迎を」
そう言って、バイと名乗る犬の獣人さんは小さくお辞儀をした。
次に文官さんが続く。
「初めまして、先月より暁様に仕えさせていただいております、|顧《こ》礼白と申します。どうぞお見知りおきを。ささ、此度は宴。できうる限りのおもてなしをいたしますゆえ、存分に楽しんでいってくださいませ。まずは前菜でございます」
膳に配された料理は精進料理とでもいうべきか。どこか奥ゆかしい姿を見せる。
すみれの料理に似てる気がした。食材への加工は最低限に、食材の良さを最大限に生かす料理。
対面にいるすみれは当然のように大興奮。
「むむむっ! 湯豆腐に小松菜、ほうれん草、パプリカのおひたし。食前に嬉しいお野菜たっぷりです♪」
ヘルシー文化に乗っかった店を新装開店したラムさんも注目する。
「これが湯豆腐。お湯の中に豆腐がまるまる入ってる。ある意味ではインパクト抜群。それではさっそく、ぱくり」
食べて、昆布出汁と手作り豆腐の旨味が口いっぱいに広がる。
おいしい。出汁の旨味が豆腐独特の甘みを包みこむ。小松菜もほうれん草も、パプリカも食材本来の味をストレートに感じた。
お野菜ってこんなにおいしいんだ。
そう思わせる魅力に溢れてる。
シンプルだけど、満足感たっぷりの前菜に箸が進む。
あっという間に食べきった。自然の香りがまだ鼻に残る。これはわたしも作ってみたい♪
副菜はモクズガニの酒蒸しとあら汁。
これまた強烈な香りを放つ料理がやってきた。あつあつのモクズガニの酒蒸しは甲殻類独特の磯の香を放つ。あら汁は魚の旨味をたっぷりと詰め込んだ海の宝箱のよう。
米焼酎によるお米の香りとモクズガニの風味が全身を駆け巡る。半分食べたのち、残りをカニミソと混ぜて食べる。一度で二度おいしい。前菜同様、シンプルに素材の味を最大限まで引き出す料理は、また食べたいと思わせる魅力に溢れる。
あら汁はさらっとした舌触りでありながら、香りも味もしっかりしていておいしい。荒波を乗り越えたお魚たちの力強い生命力を感じます。




