異世界旅行2-1 秋風吹きて夢心地 35
インヴィディアさんは改めて生簀を見渡して、ヘラさんに質問を投げる。
「ところで、環境さえ整えばということですけれど、基本的にどんな生き物でも養殖可能なのでしょうか?」
「基本的には大丈夫ですけれど、養殖しないほうがいいものや、養殖できないものもあります」
「例えば?」
「生態がよくわかってないものや、採算に合わないものなどです。前者は育てるのに必要な知識がないからです。後者は餌代が高かったり、膨大な量が必要でコストが見合わない場合です。あとは後ろ向きに進むイカとかですね。壁に激突して死にます」
「そ、それは残念ですね……。アンモナイトの肝を使ったパスタが好きなので、いつでも食べられるようにできたらと思ったのですが」
「え、アンモナイト!?」
考古学大好きなヘラさんの目が開眼した。
そうとは知らないインヴィディアさんがアンモナイト事情を語る。
「メドラウトの東海岸には産卵を控えたアンモナイトが浅瀬にやってくるの。身も鰓もおいしいんだけど、濃厚な肝を素揚げした野菜とパスタに絡めて食べると絶品なの♪ あ、そうそう、暁ちゃんにも食べてもらおうと思って、冷凍した身と肝をアイシャちゃんに預けておいたから、また今度食べてみてね」
「それはわざわざありがとうございます。アンモナイト? っていうのはメリアローザにはいないので、どんな味がするのか楽しみですね」
「身はイカとホタテを合わせたような味で、肝は濃厚でクリーミーな味わいがするの。きっと暁ちゃんにも気に入ってもらえると思うわ。できれば新鮮なものを食べてほしいから、いつかメドラウトに来てくれると嬉しいわ」
「ほたてっ!」
「それは是非に! アルマがテレポートを使えるので、予定を合わせましょう。あたしもメドラウトに行ってみたいです」
暁さんの旅行予定にヘラさんが乗っかりたいと手を挙げる。
「はいっ! はいはいっ! 私も、私もメドラウトに行きたい! 絶対行きたいッ!」
ヘラさんが必死すぎる。無理もない。古代のロマンに心を燃やして発掘隊に混ざり、ティラノサウルスの頭部を掘り起こしてグレンツェンに持ち帰るような人だから。
気圧される形でインヴィディアさんも暁さんも快諾。ヘラさんは子供のように喜び勇み飛び跳ねる。
その姿を見て、スカサハさんがわたしに質問した。
「ベレッタさん、もしかして外世界、グレンツェンにはアンモナイトはいないのですか? それとも、単純にヘラさんがアンモナイト料理がお好きで?」
な、なるほど。事情を知らないとそういう質問の切り口になりますよね。
「えっと、グレンツェンの世界にアンモナイトはいました。でもそれは3億年以上前の話しとされます」
「3億年!?」
「今は化石として残るだけなんです」
「化石……とは…………?」
そこからだったか。
これが異世界間ギャップのひとつ。わたしたちの常識が通用しないやつ。




