異世界旅行2-1 秋風吹きて夢心地 34
扉を開くと巨大な養殖場。8の字の生簀が整列する。
エビ、ゴマサバ、真鯛、トラフグ。これにくわえ、先月移住してきた人種族の意向でチンユイとチョウザメが追加された。
チンユイは大型の淡水魚。1年物と2年物とを育てる形のサイクルを目指す。
チョウザメは雄が4年。雌7年を目途に育てる。雌からは上質なキャビアの採取が期待されており、長時間をかけて丁寧に育てられる。サメの皮は厚く頑丈で滑らかな手触りであることから、バッグなどの日用品に加工される。
生簀を見下ろすと魚影がたくさん見えた。
これが生簀。養殖場の見学なんて初めてだ。普通に生活してると見ることのできない物が見れて、なんだかちょっと楽しいな。お魚さんたちが大きく育てばエルドラドの人たちのお腹を満たす。なんて素晴らしいことだろう。
いったいどんな魔法技術が使われたのか。ぜひともお話しをうかがいたい。
最初に話しを切り出したのは小鳥遊すみれ。前回訪れた時よりもお魚さんたちがひとまわり大きくなってると大興奮。
「チョウザメは刺身、ムニエル、唐揚げと使い勝手がよくて素敵ですね。特にキャビアはサメの種類や餌や環境で味の良し悪しと品質が大きく変わってきますので、養殖で大切に育てられるチョウザメのキャビアは絶品でしょうね。チンユイは成長が早いので、この調子なら半年か1年で十分な大きさになりそうです。白身ですが濃厚な味わいなので、湯豆腐と一緒に鍋に入れるとおいしいかもしれません。素揚げもいいですね。コイ科なので洗いでもいけるかも。養殖なので臭みがないでしょうし」
すみれがリンさんに振り向くと、素敵な未来を想像するお魚大好きな獣人がよだれをたらりとしてみせた。
はっと気づいて口元を拭き、チンユイの生簀の前に歩み出る。
「はい、今から収穫がとても楽しみです。養殖場は魔鉱石を用いた設備を用いて運営されてます。龍脈と繋げて動力の確保をしてます。えっと、それから、養殖場自体の設備がどうやって作られたかは、暁さんに聞いてください。ええっと、それぞれの生簀に担当者をつけてお世話をしてます。記録を残してあるので、もしもエルドラドの養殖場をモデルケースにしてくださるなら、情報提供いたします」
これを聞いてインヴィディアさんがリンさんの手を取る。
「本当に素晴らしい場所だわ。人工的に安心安全な養殖ができるなら、不作や不漁も乗り切れるかもしれない。エルドラドの人たちの努力も、メリアローザの技術力も、グレンツェンの知識も、本当に憧れるわっ! ぜひともうちでも設営したい!」
褒められて、リンさんは嬉しそうに静かに笑った。
暁さんは、もちろんと叫ぶ。
ヘラさんはぜひともと手を取って、ひとつ、注意事項を伝えた。
「実はまだ試験運用段階なの、だからもし、今から実装するなら試験に協力してほしいんです。もしかしたら、場所によっては運用できない可能性もありますから。理論上は環境さえ整えてしまえば運用可能なのだけど」
「ええ、そういうことならもちろん協力いたします。もし我々にできることがあれば、なんなりとお申しつけください♪」
インヴィディアさんは力強く握手を握り返した。グレンツェン側の世界の知識で誰かが幸せになるのなら、これほど嬉しいことはない。自分のことのように少し誇らし気な気持ちになりました。




