異世界旅行2-1 秋風吹きて夢心地 32
テレポートサークルのある丘を降りて大食堂へ向かう。
すると同時に畑仕事をしていた子供たちが一斉に押し寄せてきた。彼らの目当ては本のお姉さん。ヘラさんである。
「本のお姉ちゃん、久しぶり! 今日は宴会なんだよね。いろんなお話聞かせて!」
「聞いて聞いて! 私ね、いっぱい文字の読み書きができるようになったんだよ。だから私も外の世界に行ってみたい!」
「今日はご本持って来てくれた? どんな本があるの?」
「あらあらあらあら♪ みんな元気みたいでなによりだわ。今日も本を持ってきたよ。図鑑と絵本をたくさん、ね♪」
「「「「「やったーっ!」」」」」
喜び勇む子供たちに囲まれて、ヘラさんは笑顔でいる。
だけど、仕事をほっぽりだすわけにもいかない。食堂から出てきた長髪の女性が手を叩いて子供たちの注目を集めた。
「みんな、ヘラさんに会いたい気持ちは分かるけど、まずは仕事をひと段落させてからだよ。それと、いい子にしないとヘラさんが困っちゃうから、ヘラさんの言うことをきちんと聞くのよ?」
「「「「「はーい!」」」」」
子供たちが全速力で畑に戻った。すぐに仕事を片付けて、彼女の膝元に集まりたいと思ってる。異世界でも大人気だなんて、さすが我らが市長。尊敬します。
遊びたい盛りの子供たちがいなくなったところで、獣人の女性がヘラさんへ向き直った。
「ヘラさん、お久しぶりです。それとすみません。子供たちが急に集まってしまって」
「いいのいいの。それよりみんな元気そうでなによりだわ。私もエルドラドに来るのがとても楽しみだったから」
「そう言ってもらえると嬉しいです。今日は初めましての方々もいらっしゃるのですよね。初めまして、私はリン・ランコォンと申します。暁さんからエルドラドの案内役を仰せつかりました。どうぞよろしくお願いします」
リン・ランコォンと紹介された彼女は猫又の獣人。もっふもふなお耳と優しそうな目元が印象的。柔和な笑顔は世の男性の心を射止めるに十分な威力を誇る。
緑と茶色を基調にした厚め生地のカーディガンとスカートが大人かわいいを演出する。すごく琴線に触れるカラーコーディネートとエスニックな柄。わたしも一着欲しい。
フィアナさんが自慢したスカーフは彼女が作ったもの。機織り職人のリン・ランコォン。彼女にテーブルクロスを作ってもらいたい。




