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~小話・りんご味のかき氷~

以下、主観【レレッチ・ペルンノート】

 期待と不安を抱き、勇気をもって足を踏み出したのは正解だった。

 屋台の方向性は間違ってない。ブラッシュアップもご教授いただいた。ペーシェにはフライヤーを作ってもらって、クスタヴィさんは食品サンプルを作ってくれると約束してくれた。

 ヤヤちゃんは、はちみちゅダイヤモンドを卸してくれる。

 まさに僥倖。棚から牡丹餅。天は前に進む者に祝福を与えるのだ。


 気分もよく意気揚々とかき氷を作る。一人一人に配って感想を聞いて回ると、なかなか好感触の反応。

 ここまで色よい返事が並ぶと逆に疑わしくなってしまう。

 ともかく今はアドバイス通りにかき氷を作って練習あるのみ。


 果物氷の入ってるクーラーボックスの中がもそもそしている。何かが入り込んだのか。まさか黒い悪魔?

 いや、あいつらは寒い所は嫌いだから、わざわざこんなところに入り込んだりしないはず。

 恐る恐るカバーをめくると、照明に照らされて現れたシルエットは、プラムのようなかわいらしい容姿。

 真っ白な毛皮が生えそろい、小さな体で必死に氷漬けの林檎にかじりつく。

 それはもう一心不乱にかじかじかじかじかじりついていた。

 脊髄反射的に動画を撮ってしまうほどだ。

 ゆきぽんはどこだと探したすみれが気づき、真っ白な欲望の化身の姿を見て微笑む。


「あ、ゆきぽんったらいつの間にこんなところに。ごめんなさい。ゆきぽんはリンゴが大好きで、見つけるとすぐに抱きついちゃうの。お腹が空いてたらすぐにかじりついちゃって」

「そ、そうなんだ。それはまぁいいんだけど、この子、本当にかじりついて離さないわ。すごい執念ね…………かわいい」


 持ち上げても空で揺らしてみても離す気配がない。

 その小さな前歯であむあむする姿はかわいいのひと言しかない。

 自分の好物を必死に求めようとする姿。ベリープリティ。

 だけどこのままでは歯を痛めてしまうかもしれない。なにより氷のままはさすがにおいしくないだろう。

 しかし全く離す気配がない。どうしたものか。


 飼い主のすみれによると、ちゃんと言葉で話せばわかるらしい。マジか。

 うさぎに人語が分かるのか。分かるのか分からないが、とりあえず話しかけてみよう。


「えっと、ゆきぽん? 氷のままだとおいしくないから、こっちの機械で食べやすくしてあげるね。だから離してもらってもいいかな?」


 そう語りかけると不思議なことに、彼女は動きを止めて氷から手を離した。マジか。

 本当に言葉を理解してるのか。それともおそろしく空気の読める子なのか。

 とにかくかわいい。じゃなくて、これでかき氷を作ってあげられる。


 手に取って、機械に入れてボタンを押す。ゆきぽんは私の一挙手一投足を追って機敏に鼻先を動かした。必死すぎてかわいい。

 出来上がったカップを手前においてあげると、弾丸のように食らいつき、体全身で食べ始めた。

 まるで積もった初雪の上に転がる少年のように。


「ゆきぽんもおいしいって。ほら見て!」

「うん。それはなんとなく分かるよ」


 器の中でかき氷を食べては体をくねらせて喜びに悶え、また咀嚼しては狂い悶えるを繰り返す。

 その姿が面白くておかしくて、自分が抱えていた悩みなんてどうでもよくなってしまった。

 うさちゃんにも喜んで食べてもらえるなんて嬉しいことじゃないか。


 こんなにも無邪気に自分のしたいことができるなんて羨ましい。

 大人になるにつれて、自分のしたいことだけで世渡りができないことは分かってる。

 社会には他人と相手がいるのだから、調和を保つために配慮しなければならないからだ。

 だから息苦しい時もある。自分の思い通りにいかないこともある。

 でも今くらいはいいんじゃないだろうか。少しくらいは我を通していかないと、モノゴトってのはまかり通らないことも知ってる。

 ゆきぽんみたいに好きなことをして人を魅了できるようになれば一流なのかな。

 うさぎと人間では立場は違うよね。

 でもなんだか元気がでてきた。

 この調子で本番もがんばります!

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