異世界旅行2-1 秋風吹きて夢心地 29
ミレナさんは場を取り持とうとして暁さんに待ったをかけた。
「ま、まぁたしかに難しい仕事かもしれない。でも、だからこそ成し遂げたい。それに職人として、華恋の情熱に応えたいんだ」
「ミレナさん……っ!」
「それに華恋のデザインは工房でも超高評価なんだ。できることなら、ステラの企画部で活躍してもらいたい」
「わぁおっ!」
褒めてもらえて嬉しい華恋の隣で、暁さんが苦笑い。
「華恋のことをよく思ってくださるのは嬉しいのですが、彼女を連れていかれると困る仕事が山ほどあるので、それは勘弁願いたい」
勘弁してほしい暁さんをよそに、ミレナさんは勧誘を続ける。
「華恋はどう? 1年くらいインターンってことで来てみない?」
「事務仕事に、趣味の宝飾に、時計のデザイン……興味があるしやってみたいには、やってみたい、ですが…………」
華恋はちらりと恩人の表情を窺う。
暁さんは華恋にとっても人生の恩人。極力、彼女の意向に従うつもりでいる。
期待を込めた眼差しを受けた暁さんは、諦めのため息をついて肩を落とした。
「華恋のやりたいことをやればいい。華恋の人生は、華恋のものなんだから」
「暁さん……っ!」
「ぃよしっ!」
「でもさすがに異世界間交流が始まってからにしてくださいね。いろいろと不都合とか、あんまり流出しすぎると、ハティの魔法でカバーしきれなくなるかもしれないので」
「ハティの魔法?」
ハティさんの【細かいことが気にならなくなる】という極大魔法。
一見すれば、『ふざけてる』としか言えない。でもそんなふざけてることを平然とやってのけるのがハティさん。
みんなは過去を反芻する。すると、思い当たる節がごまんと出てきた。
ラムさんはキッチン・グレンツェッタのことを思い出す。
「全長1キロ超えのサイズの鯨ってなんだよッ!? 角が生えてるしッ!」
今になって初めて常識の外の存在だと認識できた。
ミレナさんもラムさんに続く。
「そう言われれば、しゃべる恐竜なんてありえないよな。なんで今まで疑問にも思わなかったんだ? 本当にハティの魔法が原因なの?」
聞かれ、答えたのはアルマちゃん。
「はいっ! ハティさんの極大魔法で間違いありません。ちなみに、ハティさんにとって最も大事なことは、『大切な家族や友人と一緒に楽しい食卓を囲むこと』です。なので、それ以外は『細かいこと』です!」
「細かいことの範囲の広さたるや!」
驚愕するミレナさんの言葉に、わたしは忍び足をして近づく。
「実はなんですけど、ハティさんが龍脈に魔法を流したおかげで、世界的に魔獣の発生件数が激減しました。前提として、魔獣が発生する原因は負の感情が龍脈に混じり、動物に影響を与えるためとされます。それが、ハティさんの清らかな魔力のおかげで龍脈の魔力が浄化されたため、魔獣の発生が抑えられたと考えられます。個人の魔法の影響だと知られるとパニックになるので、ここだけの話しですが……」
「とんでもねえ『ここだけの話し』をしてくれたな……」
「すみません。こうなったら言っておかないと、と思いまして」
微妙な空気になってしまった。世界を揺るがす秘密を知って、どうしようもないけど、どうしたらいいんだと頭を悩ませる。
考えてもどうしようもないことは考えない派のヘラさんが手を叩いて、最後の1人に注目を集めた。
「それじゃ、最後にすみれちゃんね。恋の行方はどうなのかしら?」
「どきどきっ!」




