異世界旅行2-1 秋風吹きて夢心地 13
フェアリーは焼き芋の湯気の中で体をくゆらせて満面の笑み。
ふわふわ浮いて、深呼吸して、嬉しそうにほっぺを持ち上げてきゃいきゃいする姿たるや眼福のひと言。
かわいい。かわいいという言葉しか出てこない。
わたしがフェアリーと遊んでいると、嫉妬に駆られたレーレィさんがいいことを思いついてしまった。
「みんなー! 今朝作ったお芋のジャムがあるの。よかったら食べてみてくれるかな?」
「「「「「お芋のジャムっ!」」」」」
一瞬にしてフェアリーの気を引き、手元に集められてしまった。もう少し遊んでいたかった。でもひとり占めはダメだよね。焼き芋をぱくりと食べる。
悲しんでる暇はない。レーレィさんのジャムを食べるフェアリーたちの姿を脳裏に焼き付けなくてはならないのだっ!
レーレィさんは3つのタッパーを取り出してフェアリーに語って聞かせる。
「今朝作ったばっかりのお芋のジャムを食べてほしいの。これがシンプルにお芋を煮詰めたジャム。真ん中がバターをたっぷり使ったお芋バター。右にあるのが、お芋とバターとはちみつ、それからレモンをちょびっと使った、レーレィさん特製お芋ジャムだよ♪」
言うと、フェアリーたちは驚愕した表情を見せ、全身全霊全力全開で驚いた。
月下がたどたどしい足取りでお芋バターの宝箱を覗き込む。
「た、ただでさえおいしいお芋に、とんでもなくおいしいバターをたっぷり使うなんて……。いったいどれほどおいしいジャムになってしまったんだっ!」
驚き方も、驚く内容もかわいい。
続けてローズマリーがレーレィさん特製お芋ジャムにたどり着いた。
「それにこっちは、あろうことか、まさか、なんと、お芋にバターだけじゃなくて、あまあまなはちみつに、さっぱり爽やかレモンまで使ってるなんて……いったいどれだけおいしくなってるんだ…………っ!」
絶句。のち、振り返って、できうる限りの大声で注目を集める。
「いったいどれだけおいしくなってるんだあーーーーっ!」
思考停止するかわいさである。
食べたい。堪能したい。幸せになりたい。
そんな感情が彼女たちの笑顔から見てとれる。
計画通り、と鼻を鳴らすレーレィさんがスプーンを取り出して、すくって、フェアリーたちに差し出した。
「どうぞ、好きなだけ堪能してくださいな♪」
「いいの? こんなにも素敵なジャムを、好きなだけ堪能していいんですか?」
「もちろん。そのために作ってきたんだもん。みんなのために、ね♪」
みんなのために。それを聞いたフェアリーたちは大歓喜。お礼を言って、ほっぺにちゅーして、差し出されたジャムをひと口ぱくり。
咀嚼するごとに、たちまち笑顔になる月下たちの喜びの感情が伝播する。
なんていい笑顔なんだ。心が浄化されていくようだ。
お芋バター、特製ジャムと続けて食べる。当然のように満面の笑みを浮かべ、小躍りしては宙をふわふわと浮かぶフェアリーたちの幸せな顔ったら、永久保存決定です!
だけど、レーレィさんの強襲は終わらない。




