異世界旅行2-1 秋風吹きて夢心地 11
焼き芋。グレンツェンやベルンなどの欧州にもサツマイモはある。中身がオレンジ色で水分たっぷりの秋の味覚。でも、それらはスープ向けが一般的。芋を丸ごと焼いて食べるという習慣はない。
いったいどんな出会いが待つのだろう。
倭国には黄色や紫色の芋があるという。メリアローザにもそういう珍しい芋があるのだろうか。
アルマちゃんに連れられて、まずはセチアさんに挨拶だ。
「セチアさん、お久しぶりです。ベレッタ・シルヴィアと申します。セチアさんたちが作ったというバニラビーンズは本当に素敵でした。本当にありがとうございました」
「ベレッタ。アルマがよく話してる子ですね。改めまして、セチア・カルチポアです。今日はこのあと、私の工房で石鹸づくりの予定ですよね。どうぞ、メリアローザを楽しんで行ってください」
丁寧に頭を下げる。起き上がって、満面の笑み。わぁ~、すっごく綺麗で素敵な女性。
わたしもこんなふうにセクシーになりたいなぁ。
見惚れて、呆然とするわたしの前に元気な声色の女の子が現れた。
眼前に、すごく近くに、小さな命が飛翔する。
「貴女がベレッタって言うの? ベレッタもバニラ大好きなのっ!?」
衝撃の邂逅。
全長15センチほどだろうか。
秋色ドレスに身を包み、背中にバニラの花の幻像を背負う少女。
フェアリーだ。本物のフェアリー。バニラの花から生まれたフェアリー。
驚きと、感動と、喜びが混ざった感情のまま、わたしは彼女に笑顔を向けた。
「うんっ! わたしもバニラが大好きだよっ!」
♪ ♪ ♪
ほくほくの焼き芋が配られた。16時間もの間、丸石の上でじっくりゆっくり焼き上げられたそれは料理の時間芸術のひとつ。
遠赤外線による熱を利用したがゆえ、外はほくほく、中はしっとりほくほくになった極上の焼き芋。両の手でぱっくりと割ると、ふわりと浮かぶ湯気がかぐわしい。
メリアローザの人たちに大人気のスイーツ。
もちろん、フェアリーたちも大好き。
そんな彼女たちが初めましての人間たちに挨拶するため、横一列になって手を繋ぐ。
「私はローズマリー。ローズマリーのお花から転生したフェアリーなの。よろしくね♪」
「私は月下。月下美人から生まれたフェアリーです。果物も焼き芋も大好きっ!」
「わたくしは赤雷と申します。赤い彼岸花から生まれたフェアリーです」
「わたくしは白雲と申します。白い彼岸花から生まれたフェアリーです」
「バーニアはね、バーニアって言うの。バニラの花から生まれたフェアリーなんだ。よろしくね♪ みんなのお名前を教えてほしいな」
かわいい。徹頭徹尾可愛い。天真爛漫な笑顔。小柄な容姿。幼子のような無垢な魂がわたしたちの心を惹き付ける。
人間側の簡単な挨拶ののち、バーニアがバニラビーンズの束を抱えて臨戦態勢。
バーニアは自信満々な笑顔を浮かべ、己が抱く野望を語る。
「バーニアには夢があるの。人間全員をバニラ大好きにするんだっ!」
「「「「「世界平和待ったなしッ!」」」」」
全員の心がハーモニクスした。仕方ない。これは仕方ない。世界人類が平和になるための希望がここにあるのだからっ!




