異世界旅行2-1 秋風吹きて夢心地 10
ここにはすみれを狙う人が2人。彼女を取られまいとガードに入る厨房のパラディンが1人いるんですから。
ほらもうレーレィさんが怖い顔をして睨んでますよ?
「ちょっと、レオくん? すみれちゃんを引き抜こうだなんて1000年早いんだけど?」
次に太陽の女性がいやらしい笑顔でレオさんを一瞥。
「そうですよ。アルマたちの留学が済んだら、すみれも一緒にメリアローザに移住するんですから」
そんな話しは聞いてない、と、レーレィさんの殺気が暁さんに飛ぶ。
漁夫の利が如く、ラムさんも割って入る。
「グレンツェンほど楽しい場所は、世界広しと言えどありませんよ。ねぇ、ヘラさん? すみれは将来、グリレで働いてくれるんですから」
群雄割拠の中、当のすみれは困惑が隠せない。
「あ、あれれ? そんな約束はしてないはずなんですが……」
全員自分の願望最優先。引っ張りだこは嬉しいけれど、喧嘩はやめてほしいと萎縮した。
すみれは凄い。お料理が上手。新しいものにも果敢にチャレンジする。プロの料理人が惚れるほどの幸せなひと品を創り出す。アルマちゃんと同じくらい、わたしが尊敬する女の子。
わたしも彼女たちのようになりたいな。
3人の押し相撲が終わったところで料理に集中しよう。ちなみに、レオさんは早々に土俵から辞退した。
山の幸盛りだくさんの炊き込みご飯。キノコ、にんじん、里芋、ゴボウなどなど、かぐわしく素晴らしき大地の恵みに舌鼓。箸を入れるとふわりと浮かぶ湯気の香りのなんと芳醇なことか。
噛みしめるごとにお野菜の旨味が口いっぱいに広がっていく。生きる喜びを教えてくれるよう。
サンマの塩焼きはメリアローザの秋にかかせない味覚。山を越えた先の海でしか獲れないサンマは、暁さんが商人としての力量をいかんなく発揮した成果である。交易品のひとつとして輸入される秋のサンマは、メリアローザの人々の楽しみのひとつ。
贅沢に半身を使った大葉とともに巻かれたサンマ巻き。脂の乗ったサンマと爽やかな香りの大葉のコントラストが心に沁みる。
じゅわりじゅわり。旨味の波に押し流されるような感覚に襲われた。
筑前煮はいろんな食材が入っていて、いろんな食感を楽しめる。決して色鮮やかとは言えないけれど、お互いの長所が絡み合ったひと品は食べるごとに新しい発見がある。
すみれ曰く、筑前煮は全体のバランスを考えて食材を入れないといけないから、なかなか難しい料理なんだそう。ポイントは、味付けはやや濃いめに。アルマちゃんの大好物でもある。
最後の松茸のお吸い物はすっと体に馴染むような、ほっとする味わい。あったかくておいしくて、水っぽいほどにさらさらなのにしっかりと味がある。
寒い時期にポットに入れて持ち運ぶとよさそうな気がする。
はふーっ。
ひと息ついて涼しい秋の風に身を委ねる。そして目を瞑ると猛烈な眠気に襲われた。
秋なのに、春眠暁を覚えずとはこれいかに。
眠気眼のまま、呆然と全体を見渡すと、視界の奥に見覚えのある横顔があった。
しっとりと濡れた赤色の髪の女性。アルカイックスマイルが素敵なセチア・カルチポアさん。
アルマちゃんも彼女を見つけたみたい。焼き芋を選びに行こうと、わたしの手を引いた。




