異世界旅行2-1 秋風吹きて夢心地 8
透き通るような強い声色。金髪碧眼と屈託のない笑顔。この人、見たことある。
そうだ。キッチン・グレンツェッタの後夜祭に暁さんの友人ということで参加したリリス・エヴァ・アルスノートさんだ!
気付くと同時に違和感を覚えた。あの時はたしか、暁さんはリリスさんにタメ口だったはず。なのにどうして、今は敬語なのか。
既視感がある。
嫌な予感というのはどういうわけかよく当たる。
あっけにとられるわたしたちを前に、秋色ワンピースの素敵レディがお姫様さながらの気品さとともに挨拶を繰り出した。
「改めまして、わたくしはリリス・エヴァ・アルスノート。聖アルスノート王国第一王女でございます。気兼ねなく、【リリス】とお呼びください♪」
お姫様に気兼ねなくできる自信がありません。
ともかく、挨拶をされたならこちらからも挨拶をするのが礼儀。なのだけど、今はそんな空気じゃない。暁さんが呆れた顔と、なにやってんだって顔を混ぜた変顔でリリスさんを睨みつけてるから……。
「ご到着の予定は明日のはずでは?」
「待ちきれなくて、空を跳んで参りました♪」
「従者も連れずになにやってるんですか?」
「あとで来るので問題ありません♪」
「自分の立場、分かって言ってます?」
「恋に恋する乙女です♪」
「アルマ、テレポートの準備をしろ。強制送還だ」
「わああああああああっ! 待ってください待ってくださいっ! 謝りますから! 謝りますから許してくださいっ!」
「謝ったら許されると思わないでください」
暁さんが本気で怒ってる。
でも彼女の怒りはリリスさんを思ってのこと。彼女のことを本気で想うからこそ、相手がお姫様だろうと本気で怒る。
怒りながらも、結局、暁さんはリリスさんの泣き落としに屈した。
「わかりました。こちらで護衛を付けます。ただ、護衛費用は後日、きっちり請求させていただきますからね?」
「よしなに♪」
暁さんは深い深い、深ーーーーいため息をついて追加のランチを注文した。




