異世界旅行2-1 秋風吹きて夢心地 2
異世界はともかく、フェアリーとの交流を強制的に絶たれた時のマルタさんの死んだ目が怖かった。それからというもの、なんとか日付を変えられないか、代役を立てられないか、あれこれするも徒労に終わる。
ごめんなさい、マルタさん。わたしは貴女の分まで楽しんできます。と言うと、死ぬほど、親の仇を見るような、殺意で人が殺せそうな、そんな勢いで悔し涙を流された。
後ろ髪を引かれる思いで足早にその場を去る。
曇天の空はマルタさんの心のようだ。いや、彼女の心象風景は世紀末も真っ青なディストピアかもしれない。
逃げるようにバスに乗り、ティラミスの演習場へ赴く。アルマちゃんの話しでは、ここからハティさんのワープを使ってメリアローザに、異世界へ行くらしい。
人払いの済んだ演習場には旅行仲間がわくわくした面持ちでいる。
騎士団長にして、義姉のシェリー・グランデ・フルールと猫のプリマ。
第二騎士団副騎士団長のサンジェルマン・アダンさん。
第三騎士団副団長のレオ・ダンケッテさん。
寄宿生2年生のニャニャ・ニェレイ。
寄宿生1年生のリリィ・ポレダ。
ベルン第一王女シャルロッテ・ベルン。
「姫様ッ!?」
聞いてない。お姫様が一緒だなんて聞いてませんッ!
驚くわたしに同調するかのように、寄宿生の2人は静かにうなずいた。どうやら彼女たちも聞かされてなかったようだ。
人の驚きをよそに、姫様は屈託のない笑顔で握手を求めてきた。
「おはようございます、ベレッタさん。これから7日間、よろしくお願いしますねっ!」
「あ、はい、こちらこそ、よろしくお願いします!」
緊張で声が上ずってしまった。
硬直するわたしの気持ちを慮ると同時に、シェリーさんがお姫様に大事な釘を刺す。
「姫様、一応伝えておきますが、ベレッタはプライベートで、貴女は公務でメリアローザへ赴くことをお忘れなく」
「もちろんですわっ! とっても楽しみですね。早くティーパーティーがしたいですっ!」
ティーパーティー。その言葉が出るということは、フェアリーのことを知ってるということ。同調したい。けれど、寄宿生2人の反応を見る限り、フェアリーのことを知らない様子。
知ってたら今みたいにローテンションでいられるはずがない。はずがないのだっ!




