表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/1087

頼り頼られて、それがチーム 1

前祝いはまだまだ続きます。

久々に白鯨の話題が出てきます。

鯨の骨やひげなんかは工芸品として古来から親しまれ、印鑑とか杖とかに加工されていますね。

綺麗な白い色をしています。


アイザンロックの白鯨は全長1200mもあるので、その分、骨も巨大です。なので家具に出来る程の量がとれます。磨くと大理石のような輝きを放ちます。そのままだと耐火性がないので、雪りんごの木から取れる樹液を水で薄めて塗って、カルシウムの隙間や組織の穴を塞ぎます。すると耐火性が上がり、表面に光沢ができます。木工細工の仕上げに使うニスのような役割があります。

そういう設定です。




以下、主観【小鳥遊すみれ】

 運び込まれた白いテーブルは大理石のように滑らかに輝く。触れると優しい温もりを感じる。アイザンロックの伝統工芸品の一つとして勇名を馳せるそれは、白鯨の骨から切り出され、家具や食器、絵画の額縁など、いたるところに利用され、人々の生活の中で息づいた。


 白鯨の骨から作られたテーブルと椅子。この世のものとは思えない美しさを放っている。これを見ると、かの白い城を思い出し、あの日交わした楽しい(さかずき)が瞼の裏に蘇った。

 おいしいご飯に楽しい会話。人生二度目の大宴会。なんだかすっごくわくわくして心が躍ってしまうなぁ。

 マーリンさんの料理はなんでもおいしいし、レレッチさんのかき氷はキラキラしていて甘くて素敵。お酒はまだ慣れてないから嗜む程度だけど、いつか楽しく飲めたらいいな。


「あ、すみれちゃーん。これ見てこれ。すっごくかわいくない?」

「これは……ッ! すっごくかわいい!」


 金髪のお姉さんに差し出されたそれは1本のスプーン。白鯨の骨を削り丁寧に磨かれ、白く輝いている。柄の先にはハート型のカラフルな四つ葉のクローバーが埋め込まれていて、アクセントの利いたキュート&キュート。

 欲しい。すっごく欲しい。かわいすぎて心がドキドキしちゃう。


 これは以前にヘラさんが話していた、修道院の子供たちに商売の楽しさを体験してもらうための商材のひとつ。スプーンにくわえてフォークとお皿も販売されるらしい。白鯨の骨から生まれた食器でご飯を食べる。良い。すごく良い!

 自慢の宝石を手のひらに並べて、エキュルイュの女性職人は楽しそうに語る。


「とっても綺麗でしょう。当日はこれを子供たちに販売してもらう予定なの。で、今日は商材のお披露目と、白鯨を獲ってきてくれたみんなに先行して、好きなデザインのスプーンとフォークを1本ずつ配ろうってことなの」

「配るってことは、頂いていいんですか!? 本当にいいんですか!?」

「もちろんさ。正直言って、こんなんじゃ返しきれないくらいのものをエキュルイュは貰ってるからね。おっと、自己紹介がまだだった。私はエリザベス・サイモン。リス(メゾン・デ・)(エキュルイュ)で職人をやってるんだ。そのスプーンは私が作ったんだよ。かわいいでしょ?」

「すっごくかわいいです。四つ葉のクローバーがハート柄で、カラフルでキラキラしていて素敵です。ドキドキしちゃいます!」

「そんなに気に入ってもらえるとは、私も嬉しいよ」


 リスの(メゾン・デ・)(エルキュイュ)鉄の星(ステラ・フェッロ)と同じくチャレンジャーズ・ベイに居を構える工房のひとつ。木材を中心にした手作りの家具を製作していて、近年は材料に関係なく、デザイン性と機能性を追求した家具の製作。さらにビンテージ感のある食器や小物の製造に力を入れる老舗工房。


 今代の工房長はステラ・フェッロと古くからの幼馴染。好敵手と書いてライバルと呼ぶ仲。自分の方が優れていると鼻を鳴らしながらも、お互いの力量を認め合う仲良しさんなのだ。

 エリザベスさんはエキュルイュの中でも若手の女性職人。工房の中というのはどうしても古い考えがはびこり続ける傾向があるゆえ、新しい考え方に抵抗のない若い新人を取り入れ、新風を吹かすきっかけに、彼女を若い職人のまとめ役として抜擢した。

 英断が功を奏し、現代風なデザインと機能美を兼ね備えた商品を次々に世に送り出すこととなる。昔からの仕事として家具の製造ばかりを行ってきたけれど、近年では内装のデザインも依頼されるようになり、新しい仕事の足掛かりとして期待された。


 エリザベスさんの得意分野は小物や食器などの小型から中型のインテリア。人気商品はステラのミレナさんと共同で製作したカラクリ置時計が有名だ。

 時間によって時計下の回転盤が舞台のように回り、リスの人形が朝に目覚め、3時になるとティータイム。夜は星が瞬いておやすみなさいを演出するという、小さな子供のいる家庭に大人気の商品である。


「こんなにたくさんあるんですね。どれもキラキラしててかわいくて迷っちゃいます」

「あっはっはっ。すみれちゃんはメルヘンでかわいらしいなぁ。お祭り当日はキッチンの横で修道院の子供たちに売ってもらうから、気に入ったのがあればその時にまた買えばいいよ。当日はスプーンとフォークの他にお皿も出すつもりなんだ。丸皿とか深皿とか、四角い長皿とか色々ね。一律300ピノでお値打ち価格だよ。スプーンとフォークは100ピノの予定ね」


 お宝を見つけたジュリエットさんが体をぐいぐい押し込んできた。


「これ……これを100ピノで販売するんですか? 1本1200ピノくらいしてもおかしくない出来栄えなのに」

「おや嬢ちゃん、目が肥えてるね。普通に販売するなら、付加価値と技術量、材料費……は、まぁこれはタダに等しいけど、その他諸々の諸経費こみこみでそのくらいはする。でも、このお祭りはあくまでチャリティーフェスティバル。商売のきっかけは子供たちに社会参加を促すこと。っていうのがお題目だからね。それに工房からしたらこれは呼び水。この商品を手に取って興味を持った人に、本館の即売会に参加してもらえるようにってね。それに工房としてはキッチンのおかげで黒字を出させてもらってるは、面白い仕事させてもらったはで感謝してもし足りないよ。動物の骨を使って仕事をするっていうのは、もう殆どないからね。材料がなかなか手に入らないから」


 ひと昔前は象牙で工芸品を作ったり、巨大な魔獣の討伐の折りに素材をかき集めて仕事をした時代もあったらしい。

 昨今では乱獲を防ぐために、一部を除いて動物の殺傷を禁じている。魔獣の亡骸は魔術の触媒になるので、国際魔術協会に全て接収された。

 どちらも仕方のないことなのだけど、職人としては少し残念だと寂しそうな表情を浮かべる。


 そんな顔をするエリザベスさんのため息を横目に、ジュリエットさんは宝石箱のようなバッグの中を覗いて瞳を爛々と輝かせる。

 女の子ならそうなるのも仕方がない。だって磨き抜かれた鯨の骨は白磁のように滑らかで、掘り起こされ細かい彫刻、色付けされた日用品はまるで芸術品。宝石を散りばめたかのような魅力を放っているのだから。


 ここでジュリエットさんは体だけでなく、気持ちもぐいぐい押し込んでくる。


「これ貰ってもいいんですか!?」

「うん。キッチンと、それから空中散歩のメンバーの人たちなら」

「ふぐぅっ!?」


 地に崩れ伏した彼女の顔は青ざめて涙が頬を伝う。なんせジュリエットさんは飛び入り参加だから宝石を手に入れる資格がない。上げて落とされる姿を見たのは今日で2度目。なんとかしてあげたいものだけど……そうだっ!


「あのあのっ。これ、私と同じ四つ葉のクローバーのフォークなんだけど、よかったらこれあげる。私は2本もらえるから、1本あげるね」

「いいの? 本当にいいの!? わぁ~ん、ありがとうっ!」


 ジュリエットさんの悲しみの涙が喜びの涙に変わった。だけど、と待ったをかけたのはお友達のフレイヤさん。


「本当にいいんですか、すみれさん。当日購入すれば手に入るので無理なんてしなくていいんですよ」

「ちょっ、フレイヤ。余計なことを言わないで!」

「いいじゃない。どうせお祭りには遊びに来るんだし。ここですみれさんの取り分を横取りするみたいなことをしなくても」

「横取りじゃない。善意のおすそ分けだからっ!」


 私はここで大事なことに気が付いた。ジュリエットさんだけに渡すのは不公平だ。フレイヤさんにもあげないと。だけど、数が、足りないっ!


「はっ! ジュリエットさんの分と、それからフレイヤさんの分……数が足りない…………」

「いや、すみれさん。お気持ちだけで十分です。かわいがっていたペットと死別するみたいな泣きそうな目で私を見ないで下さい。そのスプーンを渡す必要はないので」

「いや……でも…………」

「フレイヤがすみれを泣かした!」


 ジュリエットさんが謎の悪ノリ。

 フレイヤさんは呆れ顔。困った表情を見せたのはエリザベスさん。


「あぁ~……いじわるなことを言ってすまなかった。子供たちみんなにあげるよ。余分に持ってきてるから好きなのを持っていってくれ」


 歓喜の叫び声になんだなんだと人だかりができ、事情を聞くと争うように宝石箱に群がってしまって選ぶどころの騒ぎじゃない。

 ヘラさんの号令で年下順に整列したのち、私とエマさんを呼んだヘラさんは妙にいい笑顔を向けた。これはなんというか、何か裏があるやつだ。

 話しのきっかけこそ労う言葉を並べるが、そこからさらに何かを被せようとしてる気がする。女の勘というやつだろうか。なんかある、と思った予感は当たるもの。


「で、実はみんなにお願いしたいことがあって~♪」

「「そんな気がしてました」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ