嚙み合う歯車、リズムを奏で 10
スマホの中身を見終わったと同時にランチがやってきた。マーガレットは配られたパスタを眺めてひとつひとつ指を指す。
「カルボナーラ。アラビアータ。コシャリ・ファルファッレ。フィデオア。ラビオリ。全部おいしそう!」
妹のあとを姉が追う。
「カラフルなファルファッレが綺麗だね。ツイストファリーヌのフィデオアは魚介たっぷりで食べ応えがあって好き♪」
鑑賞もいいが、あたしは空腹で待ちきれない。なので、足早にフォークを取らせてもらおう。
「アルマの希望でカルボナーラとアラビアータを濃いめの味にしてもらったぞ。これはなかなか濃厚そうだな。それじゃ、さっそく食べるとしよう」
通常、料理は味の薄いものから食べ始めるもの。そう思って見渡すと、どれも濃い味つけの料理ばかり。よし、好きなものから食べていこう。
カルボナーラは卵とチーズの濃厚ソースを絡めた定番料理。
アラビアータは限界まで煮詰めたトマトソースの旨味と、パンチの効いたにんにくが癖になる。
野菜を練り込んだカラフルなファルファッレに、3種の豆とさくさくフライドオニオンの食感が楽しいコシャリは絶品。
フィデオアはパエリアの香りと魚介の旨味がたっぷり。
ラビオリの中身はひき肉、細切りタマネギ、きのこ、チーズのカルテット。
うまい。どれをとっても絶品である。さすが、『ランチに迷ったらツイストファリーヌに行け』とまで言われる名店である。
食べ終わったから場所を移そう。グレンツェン大図書館の裏庭のベンチにもたれかかってランチの余韻に浸る。
残暑の残る9月は大図書館が作る巨大な影に抱かれようと、多くの人が裏庭に集まる。静けさがありつつも、人ごみは賑やか。鮮やかな花々は心を晴れやかな気持ちにさせてくれた。
よし。ひと呼吸整ったところで、アルマのクリスタルパレスの話しを聞こうじゃないか。
「お菓子の家で作られるスイーツは分かった。アトラクションはどんななの?」
「お菓子の家の妖精たちと一緒にスイーツを作るアトラクションです。低年齢かつ親子向けのアトラクションで、いろんなギミックを操作して妖精たちが食べるためのスイーツを作ってあげるんです。最後にお礼として、小袋に入ったお菓子をプレゼントします」
ここであたしの口から大人の容赦ない論理が飛び出す。
「お菓子の妖精にお菓子を作ってあげるのに、最後にお菓子をくれるの? そもそも自分で作れるのでは?」
「そこはっ! そこはアトラクションなのでっ!」
アルマを狼狽させてしまった。
エリザベスがドン引きする。
「姉さん……子供向けアトラクションですから…………」
「す、すまん。つい……」
ついつい理論武装を展開してしまった。
アルマがお菓子の家のアトラクションについて補足してくれる。
「お菓子の家のスイーツを作るギミックが故障したってことで、アトラクションに参加した子供たちにスイーツを作ってもらうように頼むんです。そういう流れなので。流れなのでっ!」
「わ、分かった分かった。ごめんて」
いかん。これ以上は聞けない雰囲気になってしまった。
そんな微妙な雰囲気をライラックがバッサリ切ってくれる。
「ほかのアトラクションはどうなの? アルマのおすすめは?」
「ライラックにおすすめできるのは、ないな」
「ないの!? 5つもあるって言ったよね?」
「ベルン高校ミステリー研究会の企画は、謎解き要素満載のアトラクションなんだけど」
「けど?」
「ホラー要素がある」
「よし、その話しはいい。あとは?」
ライラック、本当にホラー系がダメなんだな。




