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嚙み合う歯車、リズムを奏で 6

 小休憩を挟んで次の話題へ。置時計のアンケートについて。

 腕時計の細かなデザインの指定から察するに、置時計も相当なこだわりがちりばめられてるに違いない。

 さぁてどれどれ。お手並み拝見といたしましょう。

 やべえ。一瞬見ただけで分かる。これはおかしい。


「ガラス無し。ダイヤルもムーブメントもむき出しのスタイル。針の代わりに滑らかに突出する杭の連続で時間を表示する。ん? 杭? 動力は絡繰り式。エネルギーの供給源は魔力。使用する金属は全てギベオン。ギベオン、好きだなぁ。で、え? 文字盤から突出する杭は隙間なく、全ての杭が引っ込んでる場合、一枚板に見えるようにする。一枚板に見える時、杭の存在が認識できるような継ぎ目は無し。んん!? 杭は文字盤から切り出して、模様に違和感がないようにする。んんんッ!?」


 文字盤と杭に隙間無し。隙間無し。いや、いやいやいや、切り出した時、レーザーで切断した部分が消滅する形になるんだから、隙間は必ずできるでしょ。

 なんてことだ。これは無理――――――――いや、半年くらい前に倭国に行った際、分子レベルで金属を切断する会社があったはず。そこに依頼すればあるいは……?

 わからん。文字盤が回転する回盤時計ならともかく、杭を出し入れして時刻を表示する時計は見たことも聞いたこともない。

 からくり機構については、あたしが製作するからくり絵本の技術を応用できるかもしれない。


 デザイン画だけ見ると、めちゃくちゃ面白そうな時計なんだが。やってみたい。しかし絡繰り機構を作るのがたいへんそうだ。頭を悩ませると、アルマは思い出したようにライブラから設計図と、とりあえずのたたき台を取り出した。


「こちら、華恋さんから預かった置時計の模型です。模型なので木製ですが、絡繰り機構自体はこれのまんま使えるはずです。ただ、『とりあえず』で作っただけで、杭が一周する秒数はテキトーです。そのへんの調整をしていただきたいということです」


 丸い板の裏に幾重にも重なった絡繰り機構がせわしなく動く。

 からからからから。

 かたかたかたかた。

 じゃりしゃじゃりしゃじゃりしゃ。

 積み重ねた先人たちの知恵と努力の結晶が収束して、美しく荘厳な音色を奏で動く。


「なんて、なんて美しいんだ……」


 息を呑むとはまさにこのこと。平面の歯車が立体的なゼンマイ駆動のおかげで前後の動きにすり替わり、文字盤に埋め込まれた杭が出たり入ったりして時刻を報せる。

 浮いては沈み、沈んでは浮き、正面はもちろん、横からも、裏側から見ても飽きない姿は機械仕掛けの神のよう。


「華恋という人物は、絡繰り機構にも精通してるのか!?」

「いえ、アイデアは華恋さんですが、絡繰り機構の設計をしたのは職人さんです」


 違ったみたいだ。だけど、アルマの友人はこんなにも素晴らしいアイデアを思いつく人なのか。これは絶対に会わなくてはならない。

 これほど鮮烈なアイデアは久しぶりに見た。彼女はどんな仕事をするのだろう。どうすればスカウトできるだろうか。彼女が食いつくアイテムを持参しなくてはならない。

 ひとまず、ステラで作った時計を何本か持って行こう。それから彼女のデザインを死ぬほど褒めよう。褒め殺そう。

 念のため、アルマにアレを確認しておこう。


「その華恋って人、既婚者?」


 突然の質問に、アルマは一瞬考えて素直な答えを述べた。


「既婚者ではないです。恋人はいます」

「うぅむ……」

「どうしてそんな質問を?」

「いや、独り身なら移住しやすいと思って」

「はぁ…………」

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