嚙み合う歯車、リズムを奏で 4
簡潔に説明を終えると、拍子抜けするくらい簡単に了解が出た。
ただし、現代社会において物々交換はちょっと……ということなので、ギベオン隕鉄の塊を金銭に替えて清算するという形で決着がついた。
なにはともあれギベオンが手に入るのは嬉しい。鉱石を専門に扱う業者ではなくても、意匠を取り扱う時計屋としては手に取って育ててみたい商材に違いない。
支払いの方法が確定したところで腕時計のオーダーに戻ろう。ギベオンの問題は片付いた。残る問題は針のデザインについて。
「アンケート用紙によると、針の部分は金を、しかも自然金を使用して、自然金独特の模様を楽しみたいってことなんだけど、これは直接、クライアントに確認したい。ステラの理念は一生使いしたくなる時計を製作することだ。クライアントのこだわりが強いなら、なおのこと相談しながら仕事をしたい。クライアントにステラに来てもらうか、こちらから出向きたいんだが、どうにかならないか?」
問うと、アルマは渋い顔をして天を仰いだ。返答やいかに。
「そう、ですね。華恋さんにはなにかとお世話になってますし、ミレナさんには最高の仕事をしてもらいたいです。ちょっと待ってください。確認をとってきます」
それから、と続けて、アルマは電話をするために席を立つと同時にとんでもないものをあたしの目の前に置いて行った。
「これが華恋さん指定の自然金です。目印の入ってる部分を切り出してほしいということです。では、少し席を離れますね」
お会計はこれで、と言わんばかりの手つきで部屋の隅へ走って行った。
アルマを見送って、彼女が置いていった物を見てみよう。
なんて見事な自然金。大きさも、エッジの利いたデザインも、世界に二つとない自然の御業。人工的な方法で加工されたような滑らかさはない。ゴツゴツとして、肌触りも荒い。しかし、だからこその迫力と、何億何万の時をかけて形作られた自然の威光を感じることができる。超かっけー……。
巨大なギベオンと拳大の自然金を所持するクライアントの懐事情よりも、あたしは、なんてロマンチックでセンスのある人間なんだと感動を覚えずにはいられなかった。
俄然、会いたくなる。
どんな人なのか。
どれほどの情熱を持ってるのか。
きっと楽しい会話ができるだろう。
そんな人に、一生の思い出になるような時計を作ってあげたい。
なにがなんでもアルマの故郷に、アルマの友人に会いに行かなくては!




