噛み合う歯車、リズムを奏で 2
己の願望を喉の奥に呑み込んで、本題の商談といきましょう。
一対一のテーブルを選ぶと、アルマは辺りを見渡して別のテーブルを袖差した。
「できれば4人掛けのテーブルでもいいですか? 持参したものをお見せする必要があるのですが、ちょっと大きくて。あと、重量もあるので」
「そうなの? 分かった。じゃあ奥のスペースを案内するよ。今日は腕時計と置時計の依頼だよね。知り合いから頼まれたって聞いてるけど、アルマは自分の時計を作らないの? アルマになら割引できるよ。空中散歩に必要なマジックアイテムの製造を全部ステラに任せてもらえたからね。チャームもすごく人気なんだ」
「それはよかったです。アルマのアイデアで誰かに喜んでもらえたなら、アルマも幸せです」
これなんだから、まったく、アルマには頭が上がらないなぁ~。
ステラの企画課に就職してくんないかなぁ~。
事あるごとに勧誘するも、見事に断られるんだよなぁ~。
アルマに背を向け、見られてないと思ってため息をもらす。背中でバレてるとも知らず。
席に着き直して、さぁ仕事をいたしましょう。
事前に記入してもらったアンケート用紙を拝見。恐ろしく細かく書いてあるな。アルマの友人は超几帳面な人間のようだ。
「全体の色合いはプラチナピンク。バンドは細い数珠式の金属。クラウンとベゼル、ケース、ムーブメント、ラグはギベオン。インデックスは無し。ムーブメントが映えるようにしたいから、文字盤はベゼルとガラスが重なる部分に。針は細身でゴールドを使用。裏面にアルマが開発した『パピヨン』の魔法を付与。なるほど。めちゃくちゃこだわりの強い人だね」
「あ、はい。そうだと思います。メリアローザの職人界隈では知らぬ者のいない無茶振りクイーンです」
「無茶振りクイーン!」
とんでもないあだ名だな。しかし、まぁ、これを見せられたら、そんなあだ名もしっくりくる。
「結論から言おう。無理ではない。無理ではないが、素材を集めるのに時間がかかるかもしれない」
「素材、ですか」
アルマは魔法に一日の長がある。だが、素材や鉄鉱石については門外漢だろうから、簡単に説明しておこう。
「ギベオンというのは隕石のことだ。つまり、人工的に製造できない。今回は直径3センチの時計だから、時計の中では少し小柄だ。だが、それでも、それだけの大きさのギベオンの流通量が少ない。既に塊が小さく加工されてるからだ。まとまった大きさのものを揃えるのは時間がかかる。しかも、ベゼルだけならともかく、ケースもムーブメントもってなると、使う量は小さくとも、それを切り出すギベオンはそれ以上の大きさが求められる」
残念だが、どこかで譲歩してもらうところが出てくるかもしれない。ひと呼吸置いて残酷な現実を言い放とうと間を置くと、あたしより先にアルマが口を開いた。
「それなんですが、ええと、ステラって素材の持ち込みオーケーでしたよね?」
「もちろん、大歓迎だ。え? ギベオンの持ち込み?」
聞くと、まさかのイエス。アルマの友人は相当な物好きで、かなりのコレクターらしい。




