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ホムパより、愛を込めて 24

 話しの流れのまま、兄貴はすみれさんに名刺を渡す。誰でもではない。兄貴が名刺を渡すのは気に入った相手にだけ。つまり、すみれさんのことを気に入ったということだ。当然だけどねっ!


 名刺をもらったことのないすみれさんはどう対応していいか分からない様子。華国の慣習を知らない彼女に耳打ちをしておこう。


「それ持って兄貴の店に行ったらタダで飲み食いさせてもらえるよ」

「嘘教えるな。それができるのは俺が同伴してる時だけだ。でもそれをスタッフに見せたら俺のところに電話が来て、それ相応の返事をするから、ぜひ華国に遊びに来てね♪」

「華国にっ! 私も世界中を旅行しておいしいものを食べてみたいです。その時はぜひ、よろしくお願いしますっ!」

「そうなった時はあたしが故郷を案内してあげるから。絶対声かけてね!」

「よろしくお願いしますっ!」


 よっしゃあ!

 すみれさんと一緒に旅行じゃひゃっほい!


 お開きの時間が近づいてきたので、残念ながら質問タイムもあと1人。

 すみれさんと仲良しのエマさんに白羽の矢が立った。

 矢を放ったのは意外にも黒崎華縁さん。従者同士で話し合う際、お互いの好きな料理の話題で盛り上がる時、決まってすみれさんの名前が出てくるのだ。

 それ以外にも理由がある。今日開催されたお食事会は貴族同士の合コン的な性格があった。ティレットさんと渚さんは両親の意向で強制参加。親のメンツを守るための出席。でも実は、渚さんはエマさんに好意を寄せてるのだ。

 だから華縁さんはなんとか理由をつけてエマさんに理想の男性像を語らせようと、チャンスと睨んで矢を撃ち込んだ。


 乙女としっかり者を足して2で割ったようなエマさんの理想の男性とはいかにっ!

 渚さんがエマさんに好意を寄せてることを知るティレットさんと華縁さんはどきどきが止まらない。

 隣人の恋模様がどんな色なのか、本来の趣旨を忘れたすみれさんも心臓バクバク。

 当の本人である渚さんは心臓どころか内臓も血管もはち切れそうなほど緊張した。

 意を決したエマさんの理想とはっ!


「えぇと、そうですね、私の料理をおいしいって言って下さる方だと嬉しいです。それと、欲張りかもしれませんが、やっぱり自分のバルを持ちたいので、私の夢を支えてくれる男性がいいですね。相手方にも理想とか、夢とか、あると思うので、私も未来の旦那様の理想を叶えられる女になりたいですっ!」


 言い放って、恥ずかしさと緊張で顔真っ赤になるエマさんかわええーーーーっ!


 ここで優秀な料理人の顔をした兄貴がつっこんだ。


「エマちゃんってたしか、フラワーフェスティバルでキッチン・グレンツェッタのルーラーをしてたよね。その延長線?」

「えっ、ルーラーをしたってご存じだったんですか?」

「若手の料理人と一緒にフラワーフェスティバルに来たからね。飲食店と屋台は全部制覇した。ひと際、キッチン・グレンツェッタは盛況だったし、忙しくも楽しそうに仕事してるのが印象的だった」


 そして、兄貴がぽつりと、印象に残った他の部分を小さく呟いた。


「それに、このメンツがそっくりそのまま俺の店の近くに来たら、相当ヤバそうだなって思った」

「こういう時の兄貴の小声は本音だから、誇っていいっすよ」


 あたしは今年のフラワーフェスティバルには不参加だった。兄貴がそうまで言うとは。一生の不覚っ!


 気を取り直した兄貴が笑顔で勧誘に走る。


「俺の弟がホテル経営してるんだけど、優秀なバーテンダーはいつでも募集してるから、グレンツェンで学び終えたら修行と思って来てみなよ。紹介するから♪」

「ユーゼェァ兄貴が経営してるホテルでバーが入ってるところって、たしか……」

「国際ホテル」

「「「「「国際ホテルッ!?」」」」」


 国際ホテルと言えば、五つ星ホテルである。その国最高の宿泊施設。

 酔ってるとはいえ、兄貴はこういう時に軽口を叩かない。きっと裏をとってるな。


「ねぇもしかして、グリレに行った?」

「行った。俺がアジア系って分かって、荷物と身なりで観光客じゃないって分かって挑戦的な一杯を出してくれたよ。『ここは貴女のお眼鏡に適う街ですよ』って。本当によく見てる」


 満足した表情を浮かべる兄貴に対し、エマさんは記憶を思い出して、失礼じゃなかったかと反省しながら緊張した。


「えっ、あっ、あの時の!」

「おいしくて面白い一杯だったよ。グレンツェンに来た時は必ず寄らせてもらうね」

「あ、ありがとうございますっ!」


 お酒で語り合う世界の話しのようだ。とかく兄貴が満足したようでよかった。エマさんは優しくて、それでいて芯が強いから、まっすぐで温かい味がしたのだろうか。それはとても気になるな!


 エマさんにお酒の話しをさせると長くなるので、ウォルフさんが話題をぶった切る。


「申し訳ないんですけど、スカウトならラムさんがいるところでやってください」

「え、どうして?」

「エマはラムさんの弟子なので」

「なるほど。近いうちにまたグリレへ行こう」


 ここであたしの強欲発動。


「じゃあ、明日のランチは兄貴の奢りで」

「言うと思った。いいけど」


 さすが兄貴。太っ腹。

 ついでに友人のランチも奢らせよう。

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