ホムパより、愛を込めて 17
名残惜しくも最後の月餅をぱくり。バラ餡の月餅がこんなにおいしいものとは知らなかった。ローズシロップを練り込んだ小豆餡、超おいしいー!
もったいないのため息と、おいしくてほっこりするため息が同時に出る。
今日は満月。涙をこぼさないように上を向いて歩こう。
とするあたしの決意を打ち砕こうとしてくれたのか、すみれさんからお菓子の肴が提供される。
「みなさん、もしお時間よろしければ、少しご相談に乗っていただきたいことがあるのです」
「あたしたちでよければもちろん。もしかして、恋の悩みですか?」
だったら面白いな、と思って口に出した言葉が的に刺さった。
「そうなんです。イラさんに告白を断られたのですが、どうしても諦められなくて。もしかすると彼からしたら迷惑かもしれないのですが……」
瞬間、その場にいた全員がすみれさんに振り向いた。
恋バナ。それはどんな酒の肴にも勝る極上のつまみ (←超失礼)。
人類みな共通して恋バナが大好き。すみれさんの恋バナといえば、イケメンの彼、イラさん。あれだけアタックを受けて断るとは、万死に値する蛮行。彼女のどこに問題があるのか。
これほどまでにおいしい料理を毎日食べられるというのに。
彼女の真心を独占できるのに。
太陽のように明るい笑顔を、陽が落ちても見られるのに。
イラさんに向けたい罵詈雑言を膵臓の裏に隠して彼女の言葉を待とう。
やっぱ無理。待てないっすわ!
「諦めたらそこで終わりですよ! すみれさんの真心はきっとイラさんに届きます! 善意ある想いは世界だって変えられますよ!」
何言ってるのか自分でもわからなくなってきた。だけど、とにかく、すみれさんには幸せになってほしい。
誰がために尽くす彼女に、不幸だなんて似合わない。
「ありがとうございます。諦めるつもりはないです。でも、このままじゃ平行線かなって。料理でダメなら、別のアプローチが必要なんじゃないかって思って。でも私は料理以外にたいしたことができなくて。そこで、今日は男性が多いので、男性が女性に求めるものを聞きたいんです。個人的な主観でいいので、教えてもらっていいですか?」
白羽の矢が男どもに刺さった。当然と言えば当然の相談。性別による価値観の違いは歴然として存在する。決してジェンダー差別をしたいわけじゃない。幼子が父に父性を、母に母性を求めるのと同じくらい、生物として当然の感性だ。




