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胸を張って夢を語ろう 1

天は進む意志のある者にのみ、試練を与える。

今回はベレッタ主観のストーリーです。

アルマと出会ったことで人生が加速していきます。

あとはしっかりチャンスを逃さず手に入れ、自分のものにしていけるかどうかですね。




以下、主観【ベレッタ・シルヴィア】

 ギリギリで間に合ったユノさんと助手のマルタさん。一緒についてきた2人組の女の子。思った以上に人が増える。

 アルマちゃんの魔法道具(マジックアイテム)を作ってくれた鉄の星(ステラ・フェッロ)の職人たちに加え、追加の机と椅子を準備してくれたリス(メゾン・デ)の家(・エキュルイュ)の面々。

 鯨の骨で作られたそれは、青白いグラデーションが美しい鏡面。ひんやりとしていながらも温かみを感じるそれらは、アイザンロックの人々の文化と笑顔を思い出させてくれる。


 最初は怖かった。大丈夫かなって心配だった。義兄(おにい)ちゃんに手を引かれて、仕事が忙しいとはいえ手が離れて。

 だけど、おぼつかない足取りのわたしをみんなが支えてくれた。およばずながら、たしかに仲間の力になれてると実感してる。

 わたしは、ベレッタ・シルヴィアは、今すごく楽しい!


 前祝いの準備もそこそこに、大勢の人々が集まった。

 世の中にはこれだけの人たちがいて、それぞれ違う仕事をしてる。

 違う仕事をして、1つのことに向けて大勢の人たちが心血を注ぐ。

 その中の1人として今ここにいられることに胸が熱くなる。

 きっと、突然現れた彼女もその熱を得たいと思って訪れたのだろうか。

 大きな機材を携えて、得意満面な笑みを向けた。


「ここがティレットのいるっていうキッチン・グレンツェッタかしら?」


 彼女の名はレレッチ・ペルンノート。過疎化の進む村を救った父を持ち、果樹園の発展を目指してグレンツェンに勉学に来た頑張り屋さん。

 ティレットさんとは近所で幼馴染ということで、彼女曰く大の親友だと言う。

 フラワーフェスティバルでは、実家の果樹園から送ってもらった果物を使ったかき氷を出すそうだ。

 甘い物が大好きな人々と、スイーツ大好きっ娘が期待の眼差しを送りながら詰め寄っている。今にも飛びかかりそうな勢いで。


 今日ここにレレッチさんが現れたのは、何かきっかけがないと友達と遊びに行けないと思い込んでるシャイな性格がゆえの行動。

 風の噂で仲間内で食事会をすると聞きつけ、それならと、自分の出し物を使って一緒に遊びたいと勇気を振り絞ったのだった。


 招いてない客を前に、エマさんは申し訳なさそうな態度になる。


「あの、申し訳ございませんが、招待客だけのパーティーなので、飛び入り参加は遠慮してるんです」


 露骨に絶望。真っ白になって崩れ落ちた。

 わざわざ当日にレンタルする機材を急遽借りて来て、小さな体で押してきて、やっとこさ辿りついたのに門前払い。地にひれ伏して大粒の涙をこぼす。

 エマさんがついさっき見た景色。

 後ろのスイーツ大好きボーイズ&ガールズも落胆した。なんとかできないものか。

 エマさんは考えて、お嬢様と面識があるし、知ってる人だし、悪い下心のある人じゃないし、なんとかならないだろうかと思考を巡らせる。


 みんな人がいい。お互いの出し物を提供し合うという形でならギブ&テイクが成立するからよいのではないだろうか。

 しかしジュリエットさんたちを滑りこませた時、これ以上の飛び入りは無しと決めてしまった。

 だけどそうすると、お嬢様とレレッチ嬢との関係に亀裂が入るのでは。

 涙に弱いエマさん。なんだかんだ理由をつけて参加決定。


「ウォルフさん。レレッチさんとはどういう方なのですか? ティレットさんとお友達のようですけど」


 わたしは恐る恐るウォルフさんに聞いてみた。というのも、レレッチさんの態度が随分と前向きな物言いで緊張感を感じるのだ。

 偉そうで高圧的な態度。ティレットさんには悪いけど、ちょっぴり苦手なタイプ。


「あぁ、ヘイズマン家とレレッチ嬢のところは二人三脚で商売をしてるところがあって仲良しなんです。それでティレットお嬢様とは幼馴染でよく遊ぶ仲です。レレッチ嬢は大人たちに囲まれて育ったためか、小さい頃から背伸びをするところがあるらしく、自分を大きく見せようとするきらいがあります。悪い人じゃないんですけど、同年代の人付き合いが苦手で口調が、俗に言うツンデレってやつです。お嬢様はインドア派で積極的に遊びに来てくれるレレッチ嬢を親友だと思ってます。さらにお人良しなんで、普通の人が鼻につくような言動をされても全てプラス思考で受け入れます。2人のやりとりはなんていうか、ほわっとしていて面白いので見てて下さい」


 それでは見てみましょう。

 さっそくティレットさんがレレッチさんに言葉をかけに行きました。


「まぁ、レレッチじゃない。先にグレンツェンに来てたのになかなか会えなくて寂しかったわ。今度一緒に遊びに行きましょう」

「そ、それは別に構わないけどっ! それより、今日は私がフラワーフェスティバルで出す予定のスペシャルなかき氷を食べさせてあげるんだから感謝しなさい。これはアレよ。やっぱりご飯の最後にはおいしいデザートが必要だと思っただけで、その、なんていうか、ティレットに会いたいとか貴女のためって訳じゃないんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!」

「それは素敵なアイデアだわ! みんなとっても期待しているようだし、すごく楽しみね。ほら、もうすぐパーティーが始まるから一緒に食べましょう。貴女に話したいことが沢山あるの」

「ま、まぁ……ティレットがそこまで言うなら仕方ないわね。みんなにも振舞ってあげても構わないわ。でも」

「でも?」

「でも、一番にティレットに食べて欲しいから……ずっと隣にい、いてよね」

「ええ、もちろんよ!」


 ふわぁっ!

 なんだろうこの人。素直じゃないのか素直なのか分からない。だけど受け身の自分からすると、こうやって積極的にアタックしてくれる友達がいるのは羨ましい。

 グレンツェンに滞在したレレッチ・ペルンノート。なんとか友達になるきっかけを作れないだろうか。

 かき氷を出してくれればそれをきっかけに話しが盛り上がるかもしれない。しかし旧友は2人で話しっぱなしで割って入る隙がない。

 そもそも人が話しをしてるのに、横から会話に入ったりとか、ペーシェさんみたいに、『なんの話しをしてるの』と言ったように人の輪の中に入るのも、迷惑しないだろうかと思って気が引けてしまう。


 結局どうすればいいか分からなくて隣にすり寄ることもできなかった。

 キッチンのメンバーも、常に誰かと会話を楽しんでいて居場所がなかなかできない。

 またこのまま1人?

 いいや、もっとちゃんと人と関わるって決めたんだ。

 自分から積極的に行かなければ。

 待っていても何も始まらない。


 わたしの心の声が届いたのか、カウンターにやってきたアルマちゃんを発見。大好きなモツ料理を注文してるようだ。

 初めて見た時はびっくりした。勧められるままに食べてみるとすっごくおいしかった思い出がある。

 よし、これでいこう。


「アルマちゃん、お疲れ様。空中散歩の調子はどう?」

「お疲れ様ですベレッタさん。おかげさまで順調です。マーリンさんに進むきっかけをもらって、シェリーさんにヒントを頂いて、ベレッタさんがいてくれたから職人さんに会えて、本当に感謝の言葉しかありません」


 彼女に笑顔を向けられると胸がきゅんきゅんしちゃう。

 かわいくて、嬉しくて、もっと彼女のためになりたいと思ってしまう。


「そ、そんな。お礼なら頑張ってくれた工房の人たちと、お義兄(にい)ちゃんに言ってあげて。私はただ仲介しただけだから」


 わたわたすると、隣にいたマーリンさんに肩を叩かれた。


「まぁまぁベレッタちゃん。そこは素直に受け取っておけばいいのよ? 貴女がいてくれなかったら、こんな素敵なアイテムが生まれなかったんだから。大きな橋も小さな橋も、架かってなかったら先に続かないってね」


 続けてアルマちゃんが前のめり。


「そうです。それにベレッタさんはアルマの企画を素敵だって言ってくれました。アルマはすっごく嬉しかったんです!」

「それは……アルマちゃんが本当に輝いてて、憧れるほどキラキラしてたから。お礼を言わなきゃいけないのはわたしのほう。アルマちゃんを見てたら、なんていうか、勇気が湧いてくるの」


 マーリンさんとアルマちゃんに褒められて、今にも舞い上がってしまいそう。

 彼女たちの言葉に勇気づけられる。

 彼女たちと言葉を交わすだけで、心が温かくなった。


「いやぁ青春してるね! 私にもそんな時代があった気がするー」


 収集がつかなくなりそうになった話題をぶった切ってシェリーさん登場。

 ほろ酔い気分でやってきた彼女は、いつの間にか空中散歩のメンバーになってた。

 今日、屠殺ショーにやってきて初めて知ったものだから、みんなが驚いた。

 ベルンの有名人も、フラワーフェスティバルの運営側に参加するんだ。グレンツェンで1年の殆どを過ごすわたしたちのような人には、お祭りに訪れる国王様の警護をしてる姿しか見たことはない。

 あとは雑誌の表紙とか、騎士団募集の広告塔として見かけるくらい。


 修道院育ちのわたしは、月に1度の頻度で恩返しに来る彼女と食事をともにしているけれど、何を話せばいいか分からなくて、直接触れ合ったことは殆どない。


 プライベートの生騎士団長。それもこんなに近くにいる。

 いつも遠くから見るだけ。やっぱり近くで見るとすっごく綺麗な人だ。

 凛々しい目元は涼し気でカッコいい。

 自信に満ちた心は背筋をピンとさせている。

 ハキハキとした声は大きくて笑顔がとってもキュート。

 ふわぁ~、見てるだけで幸せになっちゃうなぁ。


「2人は宮廷魔導士になる予定ってあるのか? 2人さえ良ければ私が推薦するよ」


 爆弾投下。

 騎士団長のシェリーさんから見れば至極当然の質問。

 アルマちゃんは魔法が大好きで、魔法で人々を笑顔にしたいと胸を張っているのだから、知識や経験を得たいと思うなら、宮廷魔導士に身を置くのが最も近道なのは間違いない。

 わたしも幼い頃に推挙された経緯がある。アルマちゃんのようになりたいという気持ちから予測すれば、魔法関係の職場を経験したほうがいいに決まってる。


 だけどやっぱり、宮廷魔導士と聞くと過去の暗い影がちらついてしまう。

 アルマちゃんはどうだろうか。グレンツェンに知己を得に来たと言ってたけど、宮廷魔導士を目指すのだろうか。

 できることなら行かないで欲しい。

 グレンツェンに残っていて欲しい。

 憧れが遠くに行ってしまうようで寂しいから。


「評価していただいてありがとうございます。でもアルマはグレンツェンに留学するように言われて来て、ここでまだまだ学びたいことがあります。それに暁さんに拾われた時から、彼女と彼女の大好きな人たちのために尽くすと決めました。なので今のところ、宮廷魔導士になる予定はありません。ごめんなさい」


 なにはともあれベルンには行かないんだ。よかった。胸をほっとひと撫で。安堵のため息がこぼれた。

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