幸せ爆弾
近年、炭活というものが流行っているらしいので、粉末タイプの食用炭を購入してみました。
レビューにはヨーグルトとか味噌汁に入れていたので、試しにヨーグルトに入れてみるとあら不思議。真っ黒になっていくではないですか。実際にはグレーって感じがしますが、青いカレー並みにショッキングな光景でした。次に味噌汁に入れると、これは本当に漆黒。味噌色だったが黒くなって、知らない人が見たら、イカ墨でも入れたのかって思うかもしれません。
でも体にいいらしいので続けてみようと思います。
以下、主観【小鳥遊すみれ】
今日のおはようはいつものおはようとは違う。
身長191cmの背中に三つ編みを揺らすハティさんと、小さいのにしっかり者のヤヤちゃんが朝食の準備のために早起きをした。
2人におはようを言って、ここには見知った顔がないことを再認識してしまう。
少しだけ寂しさを感じた。だけど、心の中で3人におはようを言うと、なんだかちょっとだけ笑顔になる。おばちゃんたちも、きっと同じ空の下で元気にしてるに違いない。
歯磨きを終えてリビングに出ると、ヤヤちゃんが楽しそうに躍り出る。
「すみれさんは何になさいますか? ハティさんはバターコーヒー。私はミルクとトーストにしようと思います。すみれさんはいつもどんな朝食を召し上がってますか?」
自前のエプロンに身を包んだヤヤちゃんが大人びて見える。
「えっと、玄米に炭噌汁。それから夕飯に残ったおかずが並んで、時々、納豆や卵かけご飯。それから御猪口一杯の肝油」
「ん~、どれも用意がありませんね。申し訳ございません」
「そんなことないよ。謝らないで。私はヤヤちゃんと同じものが食べてみたいな」
「かしこまりました。トーストの厚さはどれくらいにしますか? それからトッピングはいかがいたしましょう。アップルバターにバニラアイス。蜂蜜、マーマレード、グーズベリーやカシスのジャムもありますが」
まるで魔法の呪文のようだ。
かろうじてアップル、アイス、蜂蜜はわかる。とりあえず、トーストとやらと一緒に食べるものだろう。
分からないので正直にわからないと伝えましょう。
「その、ごめんね。トーストっていうものが分からなくて、どうしていいか分からないんだ」
「かしこまりました。では、私のオススメをご賞味下さい。すぐに作りますから、しばしお待ちを」
お礼を言ってすれ違いざまに耳元で、『自分の味覚は一般的なものだと自負してますので、安心して下さい』と囁いた。
小声でこれを言うということは、この中に変わった味覚の持ち主がいるということか。
多分、アルマちゃんかな。
2人分のミルクを準備してテーブルにしつらえた椅子に座り、カウンター越しにキッチンの電化機器を使いこなすヤヤちゃんを眺めていると、遅れてキキちゃんとアルマちゃんが登場。
まだ眠そうに瞼をこすりながら、お姉さんの質問をはねのけて、朝食は自分で支度すると妹がつっぱねる。
やんちゃで無邪気な印象のあるキキちゃん。自分のことは自分でできる、お姉さんと同じでしっかりしてるなと感心してしまう。
アルマちゃんも同様に自分で支度すると言うと目が覚めた。
そして、小さな声でつぶやいたひと言で、なにやら暗雲立ち込める思いになったのは間違いではない。
曰く、『ヤヤちゃんにご飯を頼むと芸術家になっちゃうからなぁ』。
芸術家とはいったい。
もちろんアートでファンタスティックな人たちの総称であるということは知っている。
だからこそ、なぜ芸術家になっちゃうのか。
朝食の芸術家。なんだか素敵かも。
ふわふわな妄想の中にいる私の思考にキキちゃんが入場。
「すみれお姉ちゃんはミルクだけ?」
「ううん。グレンツェンの朝食がどんなのか分からないから、ヤヤちゃんにお願いしたんだ♪ あ、ミルクとってくるね」
「「わぁーお。それはやっちゃったかも」」
キキちゃんとアルマちゃんの台詞と表情がシンクロした。
大根を引っこ抜こうとして、力ずくで引いたがために真ん中からぽっきり折れて、『しまったやってしまった』というような顔。
そんなに大変なことになっちゃうの?
それはそれで見てみたい。
トースターから飛び出したパンをお皿に乗せて、ヤヤちゃんのためにトーストにバターをぬりぬり。コップにミルクを注ぐ。なんだかちょっとお姉さんになった気がする。
しかもコーヒーを飲むのはお姉さん。ということは私は妹。姉と妹という両方の属性を持ち合わせてしまったのではないか。
家族?
これって家族?
ほわわ~。なんだかとっても楽しいな!
今までずっと一人っ子。年近い人と同じ屋根の下で暮らしたことなんてない。同じ屋根どころか、視界に入ったこともない。
早朝に訪れた寂しさなんてとうに通り過ぎてしまうほど、彼の日に抱いた理想の光景が目の前に広がってることが奇跡的で、どうしようもなく愛おしい。
愛おしいヤヤちゃんが満面の笑みで朝食を作ってくれた。
それだけで嬉しくて仕方ない。
さぁさぁ一般的な朝食とはいったいどんなものなのか。
「おまたせしました。ヤヤ特製【モーニングハニートースト】~バニラアイスとグーズベリーの結婚式、ミツバチの贈物を添えて~。でございます」
わ…………わっ、わっ、わっっっ、わぁーーーーーーおっ!
10cm四方のこんがりトーストの上に、月のようなまんまるアイス。甘酸っぱいグーズベリーがふんだんに散りばめられた朧雲のような景色。金色の蜂蜜がキラキラとまばゆく光る芸術品。
これはまさに、そうまさに、カロリーと幸せの爆弾ッ!
「わぁー……ヤヤちゃん、気合い入ってるねぇー……(棒)」
「わぁー……さすがヤヤ。ちょーあまとー……(棒)」
なるほど2人が言ってたのはこういうことか。
お皿の上の芸術品。最高じゃないかっ!
ナイフを手に取り、ひと口大に切り分けてフォークに刺してぱくり。
カリカリこんがりトーストのこうばしさは未来への喝采。
あまあまバニラに甘酸っぱいグーズベリーのフレンチキス。
新郎新婦を祝福せんとやってくるミツバチのフラワーコール。
幸せが、幸せが口いっぱいに広がっていくよぉ~~!!
「いかがですか。お口に合いましたでしょうか?」
「すっごく、すっっっっっっっっごくおいしいッ!!」
「そうですか。それはよかった!」
おいしい。おいしすぎて涙が出て来た。
気付いたらお皿の上は空っぽになって、お腹がいっぱいになって動けない。
はぁ~~……朝からこんなんじゃ、夜には幸せで、ばたんきゅうかもぉ♪
~~~おまけ小話『ほっぺたもちもち』~~~
すみれ「ハティさんはバターコーヒーだけですが、それだけで足りるんですか?」
ハティ「大丈夫。朝はあんまりお腹が空いてない。それに食べすぎると身長が伸びるかもしれない」
キキ/ヤヤ「「羨ましい」」
ハティ「2人もこれから成長する。でもあんまり大きくなっちゃダメ。そんなにいいことはない」
ペーシェ「ある程度の身長は欲しいけど、ってやつですね。見た目はいいけど私生活が大変なやつ」
アルマ「シェアハウスの選択肢も少なくなってしまいましたしね。むしろこんなにいい物件があったことが幸運です。ヘラさんさまさまです」
ヘラ「いいえ、このくらいのことはお安い御用よ。キキちゃんたちは育ちざかりだから、栄養バランスよく、しっかり食べて、しっかり学んで、しっかり遊んで、しっかり寝て、しっかり青春しましょうね♪」
キキ「やることいっぱいでわっくわくだ♪」
ヤヤ「さしあたって引っ越し祝いのティーパーティー。いっぱい食べて、いっぱい食べて、いっぱい甘いものを食べましょう♪」
キキ「食べすぎ! ほっぺたもちもちになっちゃうよ!」
ペーシェ「ほっぺたもちもちってかわいいな」
ハティ「ほっぺたもちもちが、かわいい?」
アルマ「ハティさんがほっぺたもちもちになろうとしている!? それはダメです!」
すみれ「任せてっ! お料理は大好きだから、みんなにおいしいご飯を作って笑顔にしちゃうぞ♪」
スイーツ爆弾と呼び声高いハニートースト。
糖質と炭水化物の塊は美味しさの塊。
つまり幸せの塊ということです。
こんなものが朝食に出てきた日にはテンションマックスなのは間違いありません。
間違いありませんがこんなものが毎日出てこようものなら、幸せがお腹にたまりすぎて大変なことになってしまいそうですね。