ホムパより、愛を込めて 10
ナッツ入りも小豆入りも美味。丁寧に濾された餡は滑らかで甘すぎず甘くなさすぎず、ちょうどよい塩梅である。
誰かのために心を込めてなにかをする。それができるキキちゃんとヤヤちゃんはいいお嫁さんになるだろう。
それにしても、キキちゃんのテンションが少し低い気がした。
不機嫌でも、体調不良でもないテンションの低さ。なにかメンタルブレイク事件でもあったのだろうか。心配だ。ここはお姉さん力を見せつける絶好のチャンス。
「なんだかキキちゃん、元気ないね。なにかあったの?」
聞くと、キキちゃんはエクトプラズムした魂を体に入れ直した。
「あ…………ちょびっと、悲しいことがあって………………」
ちょびっとって感じの表情じゃねえな。
思い出して涙をこらえるキキちゃんに代わり、どういうわけか上機嫌のヤヤちゃんが事の顛末を教えてくれる。
「実はですね、先日、暁さんがキキちゃんに男性を紹介したんです」
「「「「「「男性を紹介!?」」」」」」
言葉が重なった。兄とエミリア。隣の席のミラベラさん、アクエリア、シルヴァさん。6人の心がシンクロする。そりゃそうだ。10歳の少女に男性を紹介するなんて近代に於いて非常識。
そしてなにより、男性を紹介されたというのに気分がブルーということはッ!
この先、地雷原厳重注意報ッ!
それでも、ヤヤちゃんは嬉しそうに語り始める。こうなったら止められない。引き返せない。今ほど時間を巻き戻したいと思ったことはないッ!
「キキにはまだ早かったんですよ~。お相手は18歳のイケメンだなんて、キキには分不相応だったんですよ~」
ヤヤちゃん、なんていやらしい笑顔をするんだ。失恋した妹の傷口に塩を塗るのは姉の所業ではない。どうして彼女はこんな態度をとるのだろう。
当然だが、キキちゃんが今にも憤怒爆発しそうな表情で姉を睨む。怖っ!
つまり本気で恋しちゃったってことか。反応から察するにそういうことだろう。
本気の恋に失恋した女の子に対して、あたしたちはどう声をかければいいのだろうか。
失恋どころか恋愛もしたことのない6人には難易度不可能クラス。
ヤバい。ヤヤちゃんが意気揚々と話しを進めてしまう。
「暁さんにも困ったものです。性格が合うからとか、早い方がいいからとか、暁さんにもいろいろと考えがあってのことだったのでしょうが、結果的に時期尚早だったということです。そもそも男性には片思いの相手がいたのですから、いくら一夜を共にしたところでキキを女性として見るはずがありません」
「「「「「「一夜を共にしたッ!?」」」」」」
なんてことだ。10歳の少女になんて経験をさせたんだ。一夜を共にさせておいて、相手はキキちゃんを捨てたというのか。万死に値する暴挙。
怒りと同時に落胆とも、絶望とも、嫉妬ともとれない感情に襲われる。
あたしだって意中の相手と一夜を共にしたことなんてないのに。
意中の相手がいたためしすらないのに!
困惑する我々の熱を冷ますために、アルマがこそっと大事な注釈を入れてくれた。
「ちなみに、一夜を共にしたっていうのは同じベッドで睡眠したってことで、そういうやつじゃないから」
「「「「「「はぁーーーー……………………」」」」」」
アルマの耳打ちに超深い溜息が出た。安堵100パーセントのため息。ここまで深い溜息をついたことはない。
そういう関係に発展はしなかった。よかった。最悪の事態は避けられた。
が、しかし、どうしよう。キキちゃんを慰めようにも言葉がない。
慰めるどころか、ヤヤちゃんのデリカシーのない発言に怒り心頭。キキ火山がボルケーノ寸前。噴火を鎮めるにはどうすればよいのか。
とりあえず、ヤヤちゃんの暴言を止めよう。
「ヤヤちゃん、キキちゃんがナイーブになってることだし、そのくらいにして月餅食べよ? あと、キキちゃんはキキちゃんなりに本気で恋したんだろうから、失恋を喜ぶようなことは言わないようにしよ?」
「そうですね。まぁきっといい出会いがありますよ」
この子、全然人の話し聞いてねえ!




