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ゆきぽんふぃーばー

雪うさぎのゆきぽんが久々に登場です。

小動物は好きなのですが、飼うとなるとハードルが高いです。作者はペットが死亡した時のショックを考えると精神的に破滅的なダメージを受けることを分かっているので飼えません。

子供の頃にハムスター♀、名前はゴエモン。を飼っていて寿命を迎えた時はそれはもうたいそうショックでした。以来、動物は見るだけにしています。

とにかく癒しが欲しいです。




以下、主観【シェリー・グランデ・フルール】

 私は人気者だ。ベルン王国騎士団長の称号もさることながら、何度もファッション誌の一面を飾った。ベルンの広告にも掲載されている。街へ出れば誰からも声をかけられ、黄色い声援が飛び交う。

 自慢するわけではないが容姿も端麗。頑張って体型をキープしてるだけあって、引き締まった体を維持してる。

 というか、戦闘を主にするのだから勝手に体作りは行われるものだ。いざという時に動けなければ死ぬのだからな。わりとガチで。


 しかし今はどうだ。登場するなりざわざわと騒ぎになったものだ。それからハティと呼ばれる背の高い女性が注目され、観衆のいる中であるというのに人の目から解き放たれた感覚。

 ただの女の子に戻った気分になれて実に清々しい。

 ちょっと寂しいという心の隙間もあるけれど、こうやって誰の目も気にすることなくいられる時間というのはいいものだ。


 今日はベルンからユノとマルタが参戦してる。日々仕事に追わる2人を労いに行こう。


「ユノにマルタもキッチンに参加してたんだな。今日まで知らなかったよ」

「あ、私は運転手兼ユノ先輩の介護です」

「介護!?」

「私たちもシェリーさんが空中散歩に参加されてるだなんて知りませんでした。騎士団長様もフラワーフェスティバルの運営側に回ることがあるんですね」


 以前、食堂でフラワーフェスティバルの企画運営について非を唱えた私がここにいてマルタは驚いていた。

 そりゃそうだよな。はっきりと、やってみたいけど立場があって難しいって言ったもんな。


「ああ、ちょうど時間に余裕ができたもので。と言うのも君たち宮廷魔導士に負担ばかりかける形で得た時間だから、申し訳ないことなのだが」

「いえいえ、こっちはこっちで好きなことをしてるだけですから。それにいつもは騎士団の方々に助けられてばかりですからおあいこです。でももしも、申し訳ないと思っていらっしゃるなら、ユノ先輩にひと言言ってあげてください。この人ったら気絶するまで仕事の手を止めようとしないんです」

「うぅ……もう分かったから。反省してるからぁ……」


 死にかけじゃないか。

 龍脈の研究の根幹は宮廷魔導士の仕事。実地でのフィールドワーク以外で騎士団が動くことはない。なのでほぼほぼ宮廷魔導士の仕事。

 ユノをここまでしてしまった一端は私にもある。とはいえ騎士団にできることは可能な限り行った。

 じゃあこれはもうどうしようもないやつだな。でも今度、仕事の見直しをしたほうがいいかもしれない。


「ここへ来た時からぐったりしてるようだけど、大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないです。気絶する以外は仕事しかしてません」


 本当に大丈夫じゃないやつだった。


「ユノ…………気持ちは分かるけど、もう少し周囲の迷惑も考えなさいよ」

「はい……」


 ユノの過労が噂にはなってたが、真実だったとは。ずっと仕事詰めで寝るのも職場。食事はビタミン剤。

 カフェインで眠気をごまかして白目をむきながら働いてるとか。

 こうまでされると不必要な働き方改革を行うきっかけになってしまう。

 無理して有給をとらせたり、秒刻みでタイムカードを押したりだとか。きっちりするのは好きだが、ギチギチしてるのは面倒くさくて絶対嫌だ。


 仕事モードに入った私を見て、マルタが休日スイッチを押しにきた。


「まぁまぁ、仕事のことなんて今は忘れてパーッと飲んで騒ぎましょう。今日はタダ酒にタダ飯が頂けるんですから楽しみましょう。あ、シェリーさん。仕事詰めで廃れた心に必要なのはなんだと思いますか?」

「いきなりだな。廃れた心とはまた。そうだなぁ、癒しとか?」


 疑問符を唱えた瞬間、ユノが余計なことを口走る。


「廃れた心を癒すには、欲しい結果を手に入れることです」


 ダメだこの子。仕事に取り憑かれてる。


「ユノ……お前、ひと段落がついたら長期休暇を取れ」


 私の言霊に続いてマルタがユノを見下す。


「ユノ先輩は黙っていて下さい。そうです癒しです。たとえばあんなの」


 あんなのと言って指さした先は、フードの付いたジャケットを着た少女。

 小柄でかわいらしい容姿。癖っ毛のついた三色の髪が特徴的な女の子。たしか名前を小鳥遊すみれと言っただろうか。

 アルマやキキたちと一緒にシェアハウスをしていて、キッチンの中心的なメンバーだとか。


 純粋で女の子らしい反応がかわいらしい。自分にもあんな年頃があったのだろうか。

 そう思うと涙が出てくる。哀愁を誘うというか、懐かしさが胸をいっぱいにするというか、少女時代にかわいいものに沢山触れておけばよかったという後悔が胸を締め付けた。


 こんな時には、そうだなぁ、かわいい小動物に頬ずりでもしてもらえたら最高だなぁ。

 子猫ににゃーにゃー鳴いてもらって、お腹をこちょこちょしてみたいなぁ。

 ベルンにはペットショップはあるけど、猫カフェとかってないんだよなぁ。

 フクロウカフェはある。でも鳥じゃないんだよなぁ。毛皮がもふもふの獣がいいんだなぁ。

 いっそのこともう獣人のウォルフでも良いのでは…………。


 さすがにそれはまずいな。

 思ってる最中、物怖じしないマルタがすみれに突撃。


「すーみーれーちゃーん。フードの中にいる子を見せてもらってもいーい?」

「はぁーい。どうぞ、ゆきぽんですっ!」


 満面の笑みで振り返る少女のなんて輝きに満ちた目だろう。

 手のひらの上で、もふもふちょこちょこと細かく動く。


「この子ってホッキョクウサギ? 耳が短くってちっちゃくって真っ白でワンダフルかわいいですぅ!」

「この子は雪うさぎのゆきぽんです。好物はリンゴ。好きな場所は冷蔵庫。将来の夢は忍者うさぎです」

「忍者うさぎ? かわいい! かわいすぎます! たくさんもふもふしててもいいですか? それではまずシェリーさんから」


 そうやって差し出したるは雪うさぎのゆきぽん。

 まさに青天の霹靂。天が地上に落ちて来たかのような衝撃。

 いいの?

 こんな私がもふもふしていいんですか?

 体長5cmほどの小さな命。よちよちと手の平に歩み寄って親指の付け根をすりすりしてる。もふもふしててふわふわしてて、はわわわわわわわわわわわわわっ!


 ヤバいこれ。

 心地よすぎて昇天しそう。

 夢にまで見たもふもふ。

 こんなところで夢が叶うだなんて思いもしなかった。

 一生もふもふしていたい。


「シェリーさん? 大丈夫ですかシェリーさん。はぁ~。騎士団にも癒しが足りてないようですね」

「そ、そんなことはない。日々は充実してる。ただ、なんていうか、小動物はかわいいだろう。だからなんていうか、たまにはこうしてもふもふしたかわいい動物をなでなでしたいわけだ。飼いたいけど、うちのアパートはペットにあまり寛容ではなくて」

「引っ越せばよいのでは? シェリーさんくらいなら一軒家くらい買えるのでは」

「いや、独り身なのに一軒家はないだろう。ペット可のアパートに引っ越すのもいいんだが、ちょっと色々と問題があってだな」

「独り暮らしだとお世話が雑になりがちというのはよく分かります。でもシェリーさんってたしか修道院育ちですよね。だったら子猫や子ウサギを買って、修道院に預けるというのはどうでしょう。動物を飼うのは人に良い影響を与えると言います。動物セラピーって言って、動物によって精神を安定させる効果があるんですよ。子供たちに命の大切さを実感させるという名目なら、了解してもらえるのではないでしょうか」

「その手があったか!」

「よかったら母がペットショップをしてますので、良い子を紹介できますよ」

「是非頼む!」


 まさかそんなアイデアがあったとは。

 修道院には恩返しをするため、月一で訪問してる。

 子供たちも優しい子たちばっかり。小動物を預けても大丈夫だろう。彼らならきっと大切に育ててくれるはず。

 ベルンに帰る前に神父と相談してさっそく飼おう。


 ユノをほったらかしにして、マルタと取り合うようにゆきぽんの毛並みをふわふわする。

 撫でてる最中、なんだか少し感触が変わったような気がした。触りすぎて硬直してしまったのかな。機嫌を損ねてしまったのかもしれない。

 よく見ると固まって微動だにしてなかった。というか微動どころか全然動いてない。動いてないというか、息してなくない?

 すみれに見せると、それはゆきぽんに似せて作られたフェルト人形。

 ゆきぽんはその場から逃げたい時、ティレットが作って与えた人形を変わり身として使うらしい。

 忍者か!?


 あまりのかわいらしさに我を忘れてもふもふしすぎてしまったようだ。

 一番して欲しいのは肩に乗って頬に頬ずりしてもらうこと。だというのに、機を逸してしまった。

 こうなると心が落ち着くまで当分姿を現さないらしい。

 困った。このままでは心残りができてしまう。

 ここから果てのないかくれんぼの始まりだ。


 すみれのフードに入って眠ってるのかと思ったら、寝息を立ててるような姿を模したフェルト人形。

 寒冷地に生息してたからか、よく冷蔵庫にいるというから扉を開くと、ぐったりと背伸びをしてくつろいでいるゆきぽんを発見。と思ったら精巧なフェルト人形。

 インテリアにとダイニングに並んでるフェルト人形を1体1体確認するも、全てフェルト人形。


 一体何体のフェルト人形を作ってるんだ、ティレット・ヘイズマン。

 しかもまるで本物のような見た目だ。人形なのに生き生きしてるもんだから、遠目で見ると生きてる本物のうさぎにしか見えない。

 毛並みのふわふわ感といい、瞳の輝きといい、肉球のぷにぷに感といい、クオリティが高すぎる。

 1個いくらで売ってるんだ。

 全部買い取りたい!


 あっ、そうじゃなくて。本物のゆきぽんを探してるんだった。危うく目的を見失うところだった。

 まさかこれはゆきぽんの策略?

 なんという恐ろしいうさぎか。伊達に忍者うさぎを夢見てないということか。

 ゆきぽん……恐ろしい子…………ッ!


 その後も延々と探し続けるのだが見つからず、ゆきぽんに似たフェルト人形の存在も相まって、ゆきぽんゲシュタルト崩壊が起きる。

 もうなんか人形でもいいや。

 毛並みはふさふさしてるし、見た目はかわいいし、よしとしようじゃないか。ふふっ♪




~~~おまけ小話『忍者うさぎ』~~~


暁「おーい、アルマ。もしかして、ゆきぽんに潜伏(ハイド)空間転移(テレポート)魅了(チャーム)を教えたのってお前か?」


アルマ「アルマとハティさんで教えました。ゆきぽんは強い戦士を目指してるということなので、できそうな魔法から教えてみました。ちなみに肉体強化(パワード)もろもろ他にも芸を仕込んでます」


暁「教えてみましたで覚えられるもんじゃないと思うが。それにしてもアルマは教え上手だな。さっすがアルマ。かわいいやつめ~」


アルマ「えへへ~ (照)。それほどでも~」


暁「それにしてもゆきぽんは賢いな。まさかシェリーさんのフードの中に隠れてるとは本人も思うまいて」


アルマ「本当ですよね。灯台下暗しとはまさにこのことです。そしてかわいいは正義ですっ!」


暁「だなっ!」


ウォルフ「ゆきぽん……いつのまにそんな魔法を…………というか覚える魔法のラインナップが戦士っていうか暗殺者……あ、忍者を目指してるなら間違ってないのか。獣人のあたしなんかよりもよっぽど魔法が使えるのでは?」


ティレット「もしや嫉妬?」


ウォルフ「いや、そういうわけじゃないんだけど」


ゆきぽん「(ぷにぷに)」


ウォルフ「いつの間にか肩に乗ってほっぺたぷにぷに! まったく気づかなかった」


アルマ「一緒に頑張ろうって言ってますよ。きっと」


ウォルフ「そうか? なんか『落ち込むことないよ』って言われてる気がするんだけど」


ハティ「……………………」


ウォルフ「絶対そうだよな?」


ハティ「……………………ううん」


暁「ハティは嘘が下手になったな」


ティレット「下手になった?」


暁「それについてはハティから直接聞いてくれ。言わないだろうけど」


アルマ「ミステリアスなハティさん。そこに痺れちゃいます憧れちゃいますっ!」

この世界では魔法を使う動物というのは少々珍しい部類です。

他に小精霊や召喚獣などもいます。彼らは別世界から召喚される存在で魔法をバンバン使います。

過去には神獣化して動物が人化した事例もあります。獣人とは別物です。いつかそうなれるよう、ゆきぽんは頑張っています。

がんばれゆきぽん!

かわいいよゆきぽん!

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