もんすたー・ぱぱぱぱにっく! 28
それにしても、と切り出して、アーディさんがルールーさんに言葉を投げた。
「レナトゥスや騎士団、図書館とか病院とか、大学もそうだが、ベルンの公共施設で使われてるセキュリティシステムって世界屈指の実力のはず。検知もバスターも。それをかいくぐってウイルスを仕込むなんて、相手は相当ヤバいハッカーかプログラマーだな」
ルールーさんは天を仰いで頭を抱える。
「そっなんすよ。今、セキュリティを管理してる部署は呼吸器使って血眼っす。怠慢してたわけじゃないけど、セキュリティを抜かれたんから。アタックが外からなのか、内からなのか。っかし、みんなはセキュリティの強さを知ってるんで、今回の騒動もバグって暴走した産物って認識に至ってないみたいっすわ。結果オーライというか、棚から牡丹餅っつーか……」
「それはそれで怖いですね。本チャンのウイルスだった時に対応が遅れそう」
ルールーさんは腰に手を当てて地面にため息を吐いた。今回はアウトラインすれすれで人的被害がなかっただけ。もしも悪意あるウイルスだったらと思うとゾッとする。
例えば、幻影のモンスターが実体を持って顕在化する、とか。物理的に人と物に危害が加えられるようにデータ・魔法陣を書き換えられてたらと思うと――――大事に至らなくてよかったーーーーーーーーっ!
ウイルスを撒いたやつ、見つけたらぶん殴ってやるッ!
♪ ♪ ♪
さぁさ頑張った人たちにはご褒美があります。
実際にご褒美ってわけじゃないけど、スイーツのお時間がやってきました。場所はフィエリテ。『誇り』を意味する店名は店主さんの故郷の伝統的なスイーツに対する尊敬と、変わりゆくも素晴らしい未来を創造する決意を表してる。
店長が女性なせいか、内装はおしゃれで華やか。豪華ではなく、おしとやかさと気品に満ちていて落ち着いた雰囲気。誰にでも優しく物腰柔らかな店長さんの性格が店全体に散りばめられてる。
店長が女性だからか、働くスタッフも女性がかなり多い印象。女性に好かれる女性はほんとうに素敵な人なんだろう。
実際、会ってみて分かった。すんごい母性的でおおらかな性格をしてる。
「いらっしゃいませ。今回はパレスミステリー【お菓子の家】に参加させていただき、ありがとうございます。我々【フィエリテ】と、【ショコラ】を除く、【ベルガモット・フレイ】【紅葉庵】【ルゥリエ】から試作のスイーツを預かっておりますので、そちらもご一緒にお召し上がりください」
柔和な笑顔とおっとりとした口調が印象的な店長さん。ミラベラ・プリニティ。
高貴そうな空間に慣れてない、かしこまった様子の双子を気遣って声をかけてくれる。
「そんなにかしこまらなくって大丈夫だよ。リラックスしてね♪」
「「ふぁ、ふぁい……」」
異様に緊張した双子にミラベラさんは優しく微笑みを贈り、ひとつお礼をしてスイーツを取りに背を向けた。
そわそわする双子に今の心境を聞いてみよう。
「孕子と孕伽はこういうところは初めて?」
聞くと、緊張しながらも素敵な出会いに恋焦がれる少女の表情を見せてくれた。
「はいっ! こんなに明るくてきらきらしたところは慣れてなくて、とっても緊張します。だけどなんだが、とっても綺麗で、まるでお姫様になったみたいで楽しいですっ!」
「私もとても楽しい一日です。たくさんの絵本があって、おっきな建物があって、きらきらなお菓子がいっぱいあって、まるで夢の国にいるみたいですっ!」
瞳をきらきらさせちゃってもぉ~う、かぁわいぃんだからぁ~♪
続いてハティさんが双子を見て微笑む。
「みんなにはもっともっと世界を知ってほしい。世界にはたくさんのわくわくがある。素敵な出会いがたくさんある。おいしいものも、綺麗な景色も、温かな人たちにも、たくさん出会ってほしい」
我が子を愛する母親のような眼差しを双子に贈り、双子もハティさんに感謝の言葉を贈る。
ハティお姉ちゃんと出会えたことが、なによりの幸運であると。
なんていい子たちなんだ。許されるなら妹に迎え入れたい。




