もんすたー・ぱぱぱぱにっく! 16
ペーシェさんが大きな声を出すと同時に、アルマちゃんとマジカルガーデンの間に流れる魔力の流れを絶った。するとマジカルガーデンは光の粒となって消える。どうやら強制的にシャットダウンできたようだ。
ほっと胸を撫でおろして顔を上げると、目の前に鶏がいた。鶏の頭部は人間の頭と同じくらいのサイズ。そういえば、ベルン芸術学部の隣には医療学科も併設しており、動物医療の学部があるんだった。
逃げ出した鶏なのか。否。どう見てもサイズがおかしい。動物医療っていうか、マッドなサイエンスの結果、巨大化した家畜を生み出したとか、そんな想像を掻き立てられる迫力。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」
脊髄反射的に声を出したのはペーシェ・アダン。叫ぶと同時に鶏に全力パンチ。しかし、拳は鶏の体に埋まってしまう。手応えがない。幻を殴ったようだ。
「手応えがねえ! これ、ゴッドブレスで用意したバジリスクだ! ということはパレスミステリーで使うマジカルガーデンが暴走してるってこと!?」
「ぎゃあああああああああああああああッッッ!」
今度は外から悲鳴が聞こえてきた。窓の外には、あらびっくり。ドラゴン、コカトリス、ムシュフシュ、ケツァルコアトルその他諸々、モンスターたちが元気いっぱいに闊歩しているではありませんか。
「やべえ。暴走してる……」
絵に描いたようなクライシスワンダーランド。
どうやって収束させよう……。
そもそもどういう状況?
解析に入ったアーディさんが説明してくれる。
「どうやらマジカルガーデンにウイルスのようなものが紛れ込んでたらしい」
「ウイルス!?」
ペーシェさんが驚いて声を出す。
解析結果をアーディさんが告げた。
「取り付いたシステムを強制起動させたうえ、プログラムの最後に到達するまでシャットダウンも電源オフもできないらしい」
「なんですか、その謎ウイルス。つまり、跳梁跋扈するモンスターを討伐し終わらないと、事態は収束しない、と?」
「おそらく。あとは動力である魔力がゼロになるか、だな。アルマの魔力をほぼ全部吸ったってことだから、いつ終わるか分からんが……」
「討伐しに行ったほうが早そうですね」
ペーシェさんがため息をつくと同時に、部屋に設置されたスピーカーからルールーさんの声が聞こえた。火災や事件などの緊急事態を報せるための放送機材は全ての部屋はもちろん、学内のいたるところに向けられてる。
つまり、彼女の声が大学内にいる全ての人の耳に直撃した。
『緊急クエスト! 緊急クエスト! 学内にモンスターが出現しました! 学内に点在する光る文字を組み合わせてモンスターを討伐してください! なお、モンスターにはポイントが割り振られており、最も多く討伐した人に金一封を差し上げます』
なんかとんでもないこと言い出した!
「もしかして、マジカルガーデンが暴走したことを誤魔化そうとしてますかね?」
僕の疑念にペーシェさんは肯定して答える。
「でしょうね。素直に暴走しましたって言ったほうがいいと思うけど。幻だから実害は無いし」
そうです。リアルなモンスターの造形だけど幻影なので被害はありません。心理的な圧迫感的なアレはあるでしょうけど。
ここでペーシェさんの電話が鳴る。ルールーさんからだ。
『とりま学生全員に事態収束の協力とりつけたっしょ♪』
「今のでっすか!?」
いや、事情を詳しく説明しましょうよ。
あとで知ったら怒るのでは?
『大丈V。全員ノリいいっちゃけ。ぶんぶんぶん回してモンスター討伐してくれるって。あとなんか噴水んところにランキングが表示されてるんけど、マジカルガーデンの調整ってできぽ?』
「アーディさん。マジカルガーデンに仕組まれたウイルスってどうにかなります?」
超忙しくマジカルガーデンのコンソールを操作してる彼は目をかっぴらいて必死の形相。
「できる! 今、モンスターを全部討伐したらシステムが終了するように改変してる。ランキングが表示されてるのはキッズ用のシステムが紛れ込んでるからだ。こいつを逆手にとって緊急クエストってのはいい案かもしれんが、その後の責任を俺はとれんぞ?」
「なるへそ。とりあえずモンスターを討伐すれば丸く収まるんで、さっきの調子で煽ってください」
『おけまるー♪』
アルマちゃん、なぜ煽る?




