もんすたー・ぱぱぱぱにっく! 11
ワールドストリート。世界中から数多の文化、食材、伝統工芸品が並ぶベルン屈指のカオス市場。毎日が熱気に包まれ、活気に溢れた音が轟く。
ここには前から気になってた店があった。古今東西のマジックアイテムを揃えた魔法雑貨店。土着の魔法を集めた唯一無二の存在。グレンツェンのような研ぎ澄まされた最先端の魔法ではない。だけど、代々受け継がれ研鑽を継がれた魔法だって美しい。
楽しみだ。いったいどんな魔法と出会えるのだろう!
「と、その前に、腹ごしらえをしなきゃね。孕子も孕伽もお腹ぺこぺこみたいだから」
ペーシェさんに肩を掴まれて屋台に体を向けられた。いかんいかん。合流したハティさんと双子と、アーディさんと一緒にお昼ごはんにするんだった。
魔法のことになると我を忘れてしまいますな♪
「しまいますな、では困るんだが…………」
アーディさんはお疲れの様子。2日前にサマーバケーションから帰ってきてすぐに仕事。そのうえ、バスに乗ってるだけでいいとはいえ、揺られ揺られて2時間かかるベルンへ赴くのだ。疲労は溜まってるだろう。
お腹ぺこぺことなればなおさらである。
お腹ペコペコ双子は屋台の大鍋に流し込まれ続けるカリーに釘付け。大量のトマト。カボチャのペースト。山のような香辛料。大鍋で炊かれた米の塊。とんでもない量の肉と野菜。
物珍しくて、料理人の一挙手一投足に感嘆のため息をつく。ハティさんの肩の上で。
双子を抱えるハティさんも限界を迎えそうな勢い。轟くほどの腹の虫がアンプのように鳴り響く。このままでは腹の虫の音で地鳴りが起きかねない。
よだれで海が作れてしまうかもしれない。
「ここのカリーは野菜たっぷりなうえ、香辛料もハーブもたっぷりでちょーおいしいんだよねー。あたしもほぼまいまいワールドストリートでランチなんにゃー♪」
ワールドストリート常連のルールーさんが手慣れた様子で注文をつける。完成した料理をパックに入れてもらって、双子とハティさんに手渡した。
屋台御用達の簡易テーブルについていただきます。
「「おーーーいしぃーーーーーーっ!」」
双子、満面の笑みで舌鼓。幼くてかわいいうえに双子という希少性にテンションを上げるルールーさんが、お姉さん風を風速100メートルでぶん回す。
「よかったらこれ飲んちゃって。あたし激推しのトロピカルジュースじゃんよ。甘酸っぱくてちょーうまうまっしょ♪」
「「あまぁーーーーーーいっ!」」
双子のテンションMAXである。かわいいっ!
「もぐもぐもぐぐもぐぐもぐもぐっ!」
ハティさんもご満悦。空腹はなによりのスパイスだと言う。
続いてアルマもペーシェさんもぱくり。野菜の旨味たっぷりなカリーは絶品のひと言。
「グレンツェンにあるナマスカールとは違う傾向の味付けと具材だね。スパイスより野菜の味が強め?」
「そんな気がします。これは本当にうままうまうま♪」
よし。調理過程の動画はばっちり撮影した。これがあればすみれさんは完璧に再現してくれるだろう。次のホムパが楽しみですな!
気をよくしたルールーさんは双子とハティさんを連れてあっちへこっちへ千鳥足。シャングリラの子供たちが押し寄せたらたいへんなことになりそうだ。
微笑ましい光景とともに食後のジェラートを食べる。ラズベリーとミントのダブル。冷たくて甘い極上スイーツである。
微笑ましい姿を見つめながら、アルマはわくわくを言葉に乗せてアーディさんに本日の予定を確認する。
「今日はこれからクリーチャーデザインを確認して、アーディさんにプログラミング言語で構成されたクリーチャーを魔法陣に変換してもらって、それをアルマがパレスミステリーに必要な魔法陣に再構築。今回の試みは生まれて初めてなのでちょーたのしみです。ふっふっふふひゃほほいっ!」
「アルマのテンションもヤバいな。今回は攻撃系の魔法じゃないから大丈夫だと思うが、また魔導防殻をぶっ壊したりしないでくれよ?」
「なんで知ってるんですか!?」
「トップ記事になってたぞ。みんな知ってる。またアルマがやらかした、って」
グレンツェンに戻ったら速攻でヘラさんと個人面談するやつじゃん!
絶対怒られる。帰りたくない。でも逃げたらもっとたいへんなことになるやつ。甘んじて怒られよう。選択肢はない。
一気にテンションが下がってしまった。
ジェラートが異様に冷たく感じるのは気のせいではない。




