宝石の輝きの先に 62
差し出されたプリンは真っ白。シフォンケーキは黄身だけを使ったスイーツ。プリンは白身だけを使い、バニラを混ぜ合わせたクリーミーで淡泊な甘さが特徴のバニラプリン。
真っ白なプリンは初めて見た。
雪のように白いプリン。星空のように輝くきらきらな黒いローズシロップ。かわいらしいフェアリーたち。ここには素晴らしく美しいものばかり。
白いプリンは滑らかで甘く、バニラの香りが口いっぱいに広がる逸品。単純だけど秀逸。素朴にして極上の時間が味に深みを与えてくれる。
フェアリーたちもめいいっぱいに今を楽しんだ。プリンの白さに感動し、滑らかなくちどけに頬を緩ませ、バニラの味に喜び震える。
なんてかわいいんだ。もっとずっと一緒にいたい。
「はっ! とんでもないことを思いついてしまったかもしれないっ!」
なにか閃きがあったのか、ローズマリーは立ち上がって真剣な面持ちになる。
突然の大きな声に一同は沈黙し、彼女の言葉を待った。
体を震わせ、身を縮ませ、拳に力を入れた彼女の言葉に他のフェアリーたちは驚愕する。
「おいしいプリンに、とんでもなくおいしいノルンのロイヤルミルクティーを淹れたら、とてつもなくおいしいプリンになるかもしれないっ!」
「「「「なっ、なんだってーっ!」」」」
なんだってーって驚くハードル低っ!
でもそこがまたかわいいっ!
しかし、ここで問題が発生する。ノルンには紅茶にこだわりがある。普通の人からすればくだらないこと。だけどノルンにとっては大事なこと。
曰く、『紅茶は紅茶として楽しむべき。クッキーに混ぜたり、パンに混ぜたりするべきではない』という。
つまりローズマリーの閃きはノルンのこだわりにぶち当たるということ。
「素晴らしいアイデアだわっ! さっそく新しい紅茶を淹れてくるから、ちょっと待っててくださいね♪」
あれーーーーーーーーっ!?
一瞬でこだわりを捨てたーーーーーーーーっ!
フィアナお嬢様でも崩せなかった牙城が一瞬で崩壊したーーーーーーーっ!
恐るべし、フェアリーのかわゆさっ!
ノルンが紅茶を淹れるまでプリンを食べることをやめよう。私も彼女たちと同じものを食べ、喜びを共有するのだ。
プリンに紅茶を直入れしたことはない。が、おそらくめっちゃおいしいだろう。
ノルンが紅茶を淹れにウッドデッキに向かうと同時に、白雲と赤雷が席を立って東の空に手を振った。
「「みなさんありがとうございまーす。こちらにおいでくださーい」」
フェアリーに双子がいるのかどうかわからないけど、色が違うだけで容姿が全く同じ白雲と赤雷の言葉がシンクロする。
彼女たちはなにを見てるのだろう。東の空を見ると、空に真っ白に輝く5羽の鳥がいた。
白鳥のように白く輝く鳥はなにかをくわえている。大き目の木の実かなにかをくわえてこっちに向かっていた。
どうやらフェアリーたちがなにかを持ってくるように頼んだらしい。
カフェテラスを囲う柵にとまった純白の羽を持つ鳥は、あけびの実を運んでくれた。
セチアさんとペーシェさんが彼らの運んだあけびの実を受け取り、フェアリーたちはありがとうと声をかける。
異世界にファンタジーが存在した。なんて素敵な非日常。
飛んできた鳥はまさかの鶏。空飛ぶ鶏とは恐れ入る。
「あけびか。ぷっくりと膨らんでいい艶のものだな。鶏たちにあけびの選び方を教えたのか?」
暁さんがナチュラルに常識外れなことを聞いた。鶏たちにあけびの選び方を教える、というか、鶏たちにあけびの良し悪しの判断ができるのか。いろいろとつっこみたいところはある。だけど、つっこんでたらキリがない気がしたのでスルーしよう。
人生にとってスルースキルの高さは人生を円滑に過ごすための大切な知恵である。
当然のように赤雷が答えた。
「はい。この時期はあけびの実が生るので、熟したあけびの実を取ってきてもらえるように、どんなものがよいものかお伝えしました。あけびの実のなる土地はここからかなり遠いので、コッコさんたちに取ってきてもらえるように」
「それは素晴らしい。赤雷たちにはいつも助けられてばかりだな。もちろん、鶏たちにも。本当にありがとう」
「とんでもございません。我々フェアリーは本当に小さくて、力も弱くて、こんなことしかできませんが、お役に立ててるようで嬉しいです♪」
なんて謙虚でかわいらしいんだ。脳が蕩けるようだ。




