子は似なくていいところばかり親に似る
すっぽんの生き血を使ったゼリーを食べたことがあります。
ただただ苦いと言うかなんというか、作者の口には合いませんでした。
あの有名な百味豆というやつも食べたことがあります。某テーマパークの奴と海外旅行のお土産にもらった百味豆。合わせて二百味豆。すっぽんゼリーよりマズい思ひ出があります。
それを会社のお土産に持っていって、誰も食べないので冷蔵庫で保管していたら、それを見つけた上司が口に流し込んで、マズすぎて吐いていました。
中身だけを見て判断してはいけないという教訓ですね。
以下、主観【ヘラ・グレンツェン・ヴォーヴェライト】
みんなが杯を掲げる最中、閉じている扉から聞き覚えのある声が聞こえた。
おっと、もう嗅ぎつけてきたのか。さすが仕事の出来る男は行動が早い。呼ばなくても予想はしてたから、待ってましたと戸を開けてみると、なんとそこには見慣れた光景と一緒に沢山の動物たちが集まって、まるで動物園の様相を呈しているではないか。
いったい何事か。
目の前の細身の男が連れてきたのか。
いつのまにビーストテイマーに転職したのか。
「どうもこんにちは。グレンツェン・タイムズのティーバン・レイスガイです。ちょっとお話しよろしいですか?」
眼前にカメラを構えたナイスガイ。
「あらやだ、ナイスガイじゃない」
「その呼び方は嬉しいですけど、レイスガイですぅ。というかヘラさんがいらっしゃったんですか。関係者以外立ち入り禁止って張り紙があったんですが、なんか面白そうなことが起きてそうだったんで戸を叩かせてもらいました。取材、よろしいですか?」
なんか面白そうなこと。
どうも小鳥や猫ちゃんたちが集まってるのは彼の仕業ではないらしい。
きっと動物たちはハティちゃんの神気を察知して集まったのだろう。彼女は常軌を逸して動物に好かれる体質だからなぁ。
具体的な理由は分からない。子供の頃からこんな感じらしい。
いや、命を捧げる動物が現れるレベルっていうのは、もう好かれるっていう次元の問題じゃないか。
それはさておきブンヤのティーバン。彼でなかったら門前払いをするところ。ここは好機と捉えて交渉するべきだろう。
というのも、彼はマスコミという人種の中では稀有な存在。誠実な記事を書くことで有名だからだ。それに面白い記事を書いてくれる。
月刊グレンツェンの編集担当。おまけ的なコラムが地味に人気。街の小動物コーナーでは、コアなファンを獲得するほど、人の琴線に触れる感性の持ち主なのだ。
「取材ですか? 一応、招待客だけの宴会の予定なんですけどぉ」
まずはやんわりお断り。押せば開くと思わせる。
「そこをなんとか。雑誌に載せるには時期が合わないですけど、ネット記事に出して宣伝しますんで。ひとつお願いしますよぉ。ここってアレでしょ。SNSで話題になってるっていうキッチン・グレンツェッタチーム。どんなことをしてるのか見てみたいなぁ!」
「そうですねぇ。エマちゃーん。飛び入り参加のおじさんが来たんだけど、どうする?」
事情を説明すると人のいいエマちゃんは、宣伝をしていただけるなら是非にと二つ返事で了承してくれた。
なんとまぁ優しい子でしょう。私なら1つや2つ、無理な要求をしちゃうね。
あくまで彼女がこの企画のリーダー。エマちゃんの判断を尊重しましょう。
「その代わりというか、参加者にはアレを飲んでもらうことになりましたので」
エマちゃんが指差したそれは、宙に浮かんだ球体の中身のこと。
大の大人とはいえ中身を聞いて驚くも、理由を聞いて納得すると一気飲み。
取材の了承をとったらさっそく仕事にとりかかる。まずはリーダーの称号を持つエマちゃんを急襲。
「エマちゃんはキッチンのリーダーって聞いたよ。どうしてリーダーになったんだい? 他にも年上の人はたくさんいるようだけど」
「実は最初は違ったんです。始めはユノさんとアーディさんがリーダーをしてました。けれどお仕事が多忙ということでアーディさんにリーダーを勧めていただいたんです」
「なるほど、そうだったのか。アーディさんは彼女のどんなところを評価して推薦したんですか?」
矢印をアーディくんに向けて取材開始。
「実は最初、ユノさんと相談してリーダーにしようとしたのは小鳥遊すみれでした。個人個人にですけど、周囲の反応を聞いて、明らかに成長途中だけど、一生懸命に頑張ってる彼女が何かをもたらしてくれる期待を込めて。それを事前に本人に確認したんですけど、彼女はまだ自分には早いと。期待をかけてくれるのは嬉しいけれど、こんなに大勢の人を導く自信がないと正直に打ち明けてくれました。だから、人を導くなら誰がいいか聞いてみたんです。そうしたらエマの名前が出てきました。彼女はエマと同じで、キッチンにいる彼らのことをよく見ていました。一人一人の性格をよく観察して、その上でエマを推薦してくれたんです。正直言って驚きました。俺やユノさん以上にチームに目を配ってたんですから。実際、彼女の審美眼はたしかなものでしたよ」
むむっ!
意外にもすみれちゃん推しだったのか。ちょっと意外。
エマちゃんも寝耳に水。認められて、信頼されて嬉しくて、身を縮こませながら頬を染めた。
「そうだったんですか!? すみれさんが私を、なんだかとっても、こそばゆいというか、嬉しいです」
「きっとすみれをリーダーにしてもうまくいっただろう。だけど、今はエマにしてよかったと思ってる。結果論と言えば結果論なんだがな」
アーディくんはすみれちゃんを見て、次にエマちゃんを見直して微笑んだ。
ティーバンは素晴らしいと褒め称える。
「それはとても素晴らしいことだね。是非、リーダーになってからのことを聞かせてもらえるかな?」
頬を赤らめて緊張しながら、でも誇らしげな笑顔を見て私まで微笑んでしまう。
無茶振りをしたこちらからすれば、無理難題をふっかけたのだから、文句のひとつも言われて当然と思ってた。
それなのに、彼女たちは楽しそうに日々を過ごしてる。これほど嬉しいことはない。
彼らの笑顔は誰が欠けても得られなかっただろう。
ついついスキップしてしまいそうだ。
ティーバンの話しもひと段落。それでは、ハティちゃんをグレンツェンに紹介してくれた彼女に挨拶に行きましょう。
出会った頃から変わらず元気でやってるようで良かった。
彼女は宴会の支度が終わるまでの間、アルマちゃんお手製の空中散歩を楽しんでいる。
大事にしてる子の成長を実感して、それはもう嬉しそうに褒めちぎって抱き着いた。
今回の催しは本来、キッチンのメンバーだけで行われるのが筋。だけど、飛び入りのマーリンさんと空中散歩に携わってるベレッタちゃんの橋渡しもあって、合同で前祝いをしようという声が上がったのだ。
彼女たちのプレイベントという名目で。また、完成した空中散歩を体験したいという私の下心も働いてのこともある。
冷蔵庫の中身を消化したいキッチンの思惑。お祭りの間は殆ど遊ぶ暇がなくなるのが分かってるメンバーの、とにかく遊びたいという願望も考慮されていた。
空中散歩チームとしては、できるだけ多くの人の感想が欲しいという事情もあって、お互いの利害が一致する点においても素晴らしい出会いである。
「こんにちは、暁ちゃん。ひさしぶりね」
「おひさしぶりです、ヘラさん。お元気そうでなによりです」
固い握手を交わし、再会を喜ぶ。
「元気も元気。元気だけが取り柄だから。どう? アルマちゃんの成長ぶりは。グレンツェンに来てまだ日は浅いけど、随分と大人っぽくなったんじゃない?」
「ええ、メリアローザにいた時も頑張り屋さんで立派な子でした。久しぶりに会って、もっといい顔になってます。これもヘラさんをはじめ、周囲の仲間たちのおかげです。お礼と言ってはなんですが、今朝獲ってきたホノオガニを持参したので、みんなで食べましょう」
「まぁ、それは素敵ね。気を遣ってくれてありがとう」
若干20歳にしてさすがギルドマスター。その辺の心配りができる人がいったいどれだけいるだろうか。
彼女と出会ったのはおよそ20年前。行方不明になった恩人と友人を探していると、時空の歪みに吸い込まれて、うっかり異世界転移してしまったのがきっかけだった。
それから1か月ほど過ごし、なんとか元の世界に戻ってこれた。あの時はさすがに焦ったなぁ~。
でも今思えば、今日の良き日のための布石だったのかもしれない。
みなそれぞれに楽しい時間を過ごしてる。
気絶したユノも正気を取り戻してくつろいでいた。
ひと回り年の離れた子供たちも、キッチンのお兄さんたちに囲まれて遊んでる。
ただ問題なのは、突如現れた2人組。
ジュリエット・ロマンス。
フレイヤ・パッショーネ。
相当に高度な隠蔽魔法を駆使してた。だけどね、私クラスの人間には通用しないの。
悪意が感じられないので騎士団長のシェリーちゃんも気付いてはいるが、口出しをしてない様子。
彼女たちの自己紹介を聞いた時、セチアちゃんが背中に手を回した挙動から見ても、彼女たちが色々と嘘を吐いてることが分かる。
セチアちゃんの固有魔法は、【嘘を吐いた相手を問答無用で両断する】という恐るべき能力。
だから嘘を吐いた相手を切りかかろうと動作してしまうのだ。
とりあえず、セチアちゃんが悪鬼羅刹にならないということは、悪意のある嘘ではない。それはそれで問題だけど。
まずはシェリーちゃんに現状確認だ。
「ねぇねぇ、シェリーちゃん。あの2人なんだけど、私の目に狂いがなければ、あっちの赤髪の子はお姫様なんじゃないかしら? 隣の子の魔法は看破できないけど、十中八九、侍女のソフィアちゃんよね?」
「おそらく、というか間違いありません。姫様で間違いありません…………どうしましょう」
ということは、シェリーちゃんが護衛役ということで随伴してるわけではない。随伴してるわけではないというまさかの事態。
護衛も連れずになにしちゃってんの?
まぁもう来ちゃったもんは仕方ない。
「とりあえず、それとなく見守っておけばいいんじゃない? お忍びみたいだし。お姫様のお忍び散歩みたいだし」
「大問題なんですけど」
澄ました顔してお転婆なんだろうなぁと思ってはいた。
まさかグレンツェンにまで来るなんて驚きだわ。
でも、彼女も羽を伸ばして自由に遊べる時間が必要なのよね。そのために変装魔法まで習得して、それも並みの人間には看破できないほどの厚化粧。
おいそれとバレることはないだろう。
と思ったら、
「あの、ヘラさん。ジュリエットさんとフレイヤさんなのですが」
「大丈夫。メリアローザのお姫様もあんな感じでしょ。どこの世界のお姫様も外へ飛び出したくなるものなのよ。だから今はジュリエットとフレイヤということにしておいてあげて」
暁ちゃんがやってきた。
次に、
「すみません、ヘラさん。あの2人、嘘を吐いてるのですが」
「あぁうん、大丈夫。たしかに人を騙す嘘かもしれないけれど、悪意はないから。だから斬らないでね。発作的に刀を抜きそうになるかもしれないけれど、我慢して」
絶対に嘘を吐いちゃダメなやつ。脊髄反射的に目が血走ってる。彼女の嘘アレルギーは半端ないらしい。
なんとかなだめて落ち着いてくれた。と安心してると、
「ヘラさんヘラさん。あっちのお姉さんの背後霊なんだけど、ベルンの綺麗なお姫様と同じのが憑いてる」
「う、うぅん!? ごめんね、私には見えないみたい。でももしその背後霊さんたちがいい人たちなら、あの人たちと仲良くしてあげて欲しいわ」
超変化球!
マーガレットちゃんから投げられたボールがワンバンしたのに、ストライクをカウントされたかのような驚き。
畳みかけるように、
「あ、ヘラさん。あの2人なんですけど、変装魔法使ってますよ。一応魔力の流れを視てみたんですけど、どうやらベルンのお姫様みたいですね。どこの世界のお姫様もアグレッシブですね!」
「えぇ…………きっと周囲の了解はとってないだろうから、そっとしておいてあげて。シェリーちゃんにも頼んだけど、一応、お姫様だから護衛というわけじゃないけど、目を向けておいてもらえると嬉しい」
トドメと言わんばかりにヤヤちゃんのユニークスキルが炸裂。
バレバレだった。
暁ちゃんとセチアちゃんはともかく、まさかマーガレットちゃんとヤヤちゃんにまで見破られるだなんて。
それにしても、マーガレットちゃんの看破の仕方が特殊すぎる。この子、霊感があるんだ。
いつも明後日の方向を見てるマイペースな子だと思ってた。まさかそんなものを見てたとは。とんでもないカミングアウトです。
大人の2人は口が堅い。子供の2人はどうだろう。
お姫様をカミングアウトしなければいいけれど。
本音を言うと、即バラして強制送還したい。だって問題が起きたら私の責任じゃん。
でもなぁー、お姫様の気持ちも分からなくもないからなぁー。
でも黙認しておけば後々、お姫様に借りができるしなぁー。
こういうところが娘に遺伝しちゃったのかなぁー。
腹黒いところがなぁー。
子は親に似るっていうけど、そんなところまで似なくていいのになぁー。
特に好きな男の子の落とし方が母親そっくりなんだなぁー。
いかんいかん。方法はどうあれ、お互い好きあってる。母親としては娘の幸せを祝ってあげないとね。
ちょうどいちゃいちゃしてるじゃない。
ちょっかい出しに行きましょう。
「ねぇねぇ。2人はもう、ちゅー、したの?」
「は、ははぁあああああッ!? ちょ、いきなり何言ってんの?」
2人の焦る顔が面白い。
「だってぇ、付き合ってるんでしょ? アダムくんとローザ」
「え、やっ、僕とローザは野外演習で一緒になることが多いだけで。付き合ってるとかでは」
「そんなこと言って、顔真っ赤っか。かぁわいぃんだぁからあああああああああッ!?」
気付くと腹パンが入っていて地面に横たわる自分がいた。
我が娘ながら恐ろしい子。容赦なく母親の腹に鉄拳を入れるだなんて、さすが我が娘。
だけどめげない諦めない。
娘の幸せのため、母親として彼氏との距離を縮める手伝いをぅむぎゅう。
「いい加減にして! 悪ふざけがすぎると頭を踏んづけるからね!」
「もう踏んでる。踏んでるからッ!」
あいたたたたたたたたたたたた!
まさかここまで逞しく育っていたとは。
親の知らないところで子供は大きくなっていくもんなんだなぁ。
私の知らないところで……きっと大人の階段を…………ふふっ♪
子供は親の行動をよく見ています。
オリジナルになるために、まずは親のモノマネをするんですね。そうやって個性が生まれていきます。
ヘラは夫を洗脳と恋愛のギリギリの部分を攻めて落としました。それが娘に遺伝したんですね。彼女もギリギリのところを攻めながらアダムを口説き落としています。その辺に関してはフラワーフェスティバルが終わってから、個別のキャラ紹介的な感じでやろうと思います。




