宝石の輝きの先に 60
ローズマリーは空中でくるくると回ってその時を待つ。フェアリーのお願いは断りづらい。
シェリーさんは思う。彼女たちに嫌われたくない。本当は今日知っただけの異性とほっぺぷにぷにし合うだなんて嫌だ。しかし、どうしてもできないほどのことではない。
絶妙に断りハードルを越えない要求に迷う。するべきか、難癖つけて断るか。
ジャックさんは思う。一目惚れしたシェリーさんとほっぺぷにぷにしたい。連絡先を交換したい。宝石魔法の研究に協力するため、拠点をベルンへ移そう。彼女は猫好きだから、猫の里親になるための免許を取ろう。同棲を視野に広い部屋を借りよう。
ともあれ彼女は躊躇してる様子。ここでがっつくと嫌われるかもしれない。ほっぺぷにぷにしたい。どうやって誘導しようか。どうしてもほっぺぷにぷにしたい。どうしても!
ジャックさんの願いが天に、星に、神に届いたのか、お団子ヘアーのアルマさんから援護射撃が飛んできた。
「王様の命令は絶対。シェリーさんもそうおっしゃいましたよね?」
「ぐっ!」
退路が無くなった。見事なまでの墓穴である。そうして、外野も含めてみんな同じ言葉でほっぺぷにぷにを促す。恋に恋する乙女がやいのやいのと騒ぎたてた。
無論、私もノルンもフィアナお嬢様のメイドとしての立場も忘れて。
ぷにっ。
両名顔を真っ赤にしてほっぺぷにぷに。
恋仲同士でもないのに、異性とほっぺぷにぷにしてるところを見て恋に恋する乙女たちは大興奮。なんかもう自分でもよくわかんないけどきゃーって叫んで天に吠える。
どうしてなんでしょうね。とにかく胸がきゅんきゅんするんですよっ!
きゅんきゅんするんですよとにかくっ!
はぁ…………大満足です。
すんごい楽しいです。
今日はもう紅茶を飲んでお風呂に入ってあったかいお布団にくるまって寝たらそれはそれは素敵な夢が見られる気がします。
そんな気持ちで余裕ぶっこいてたら、次に王様になった白雲皇太后様から落雷の魔法が発動される。
「マリアとラダがお互いのほっぺをぷにぷにしてください♪」
「Блин!」
いかん。母国語が出てしまった。私の出身国はベルンってことになってるのに、ボルティーニ語が出てしまった。
しかもあんまり綺麗な言葉ではない。ので、なんと言ったかはお察しください。
今はそんなことより!
ジャックさんとシェリーさんのほっぺぷにぷにをはやし立てた手前、断るという選択肢はない。案の定、シェリーさんが見たこともないようないやらしい笑顔を向けてる。
この人、こんな顔するんだ。
じゃなくてっ!
「えぇと……これは…………」
ラダさんを見て、彼も困った表情を見せる。
「この状況で断るというのは、ちょっと…………」
ですよねー。
無理ですよねー。




