宝石の輝きの先に 55
ブラードさんの血液診断を聞いて、面白いと瞳を輝かせたのはカルティカさん。本当に血液の声が聞こえるのか興味津々。
「なんでも分かるんですか? 健康状態とか内臓の状況とか」
「なんでも分かります。血液ちゃんたちは体の隅々まで巡ってますから、なんでも知ってます。その人の健康状態から片思いの相手まで、なんでもです」
それは嘘でしょ。
嘘であってくれ。
「それじゃ、ティカの片思いの相手を聞いてみて」
「えっ、ティカって好きな人いるの?」
「ノーコメント」
アルマさんの言葉を制してカルティカさんがブラードさんを試す。
ブラードさんはカルティカさんの腕を掴み、看護師が注射を打つ前に血管を浮かび上がらせるためにする、腕の内側を向けさせて肌をこする動作をした。
浮き上がった血管を見て、ふむふむと頷く。
「ティカさんの片思いの相手は、まだいませんね」
「すごい! あたってる!」
すんごい意地悪な質問をしたもんだなぁ。
「強いて言えば、アポロンという男性に好意を寄せてますね」
「まじか! それも当たってる!」
嘘でしょ!?
「残念だけど、アポロンさんはハティさんにゾッコンだから諦めろ」
「……………………」
カルティカさんの表情から生気が失せる。アルマさん、そういうのはもう少しオブラートに包みましょう。
あまりにも気の毒です。
「まぁまぁ、ロイヤルミルクティーを淹れましたので、これを飲んで元気を出してください」
ちょうどノルンの紅茶の準備ができた。本来なら上座の暁さんからだが、状況が状況なのでカルティカさんを優先させる。目配せをして、先に淹れてやってくれのサインが出た。
ティーカップになみなみと注がれ、カップの持ち手に指をつっこんだ瞬間、ローズマリーが止めに入った。
「待って、カルティカ。ノルンの紅茶を飲む前に言っておかなきゃいけないことがあるの!」
「ふぇっ!? なにっ!?」
びっくりして即座にカップから指を話す。
真剣なローズマリーがカルティカさんの顔の前まで浮遊して、とても真剣な面持ちで注意事項を語った。
「ノルンの紅茶はおいしすぎて、びっくりしてひっくり返っちゃうかもしれないから気を付けて!」
おいしい注意報だった。
フェアリーのみんなはおいしくてびっくりして、ぽーんって空中に飛んでちゃったもんね。
ぐぅかわっ!
フェアリーのおいしい注意報を聞いて、カルティカさんが目を見開く。
「な、なんと……紅茶マイスターの紅茶は一杯2000ピノもするって聞いてたけど、ひっくり返ってしまうほどおいしいとは。ではさっそく、冷めないうちに」
すすす……。
飲み下して、彼女の表情に生気が宿る。
「うまいっ!」
「「「「「おぉ~~~~っ!」」」」」
続けて上座の暁さんとセチアさん。
「うまいっ! メルティさんの淹れてくれる紅茶もうまいが、これは全然違うな。これが異世界の紅茶。すごい……」
「ノルンさんの淹れてくれる紅茶は本当においしいよ。ミルクティーもなんだけど、ストレートティーもほんとうにおいしかった」
ノルンはひとつ微笑んで、自慢げに語った。
「ありがとうございます。最高の紅茶で最高のティータイムを体験していただく。それが紅茶マイスター協会のモットーですから♪」
「彼女がいつもおいしい紅茶を淹れてくれるから、毎日のブレイクタイムは最高の時間なのです。ほんとうに、いつもありがとうございます」
フィアナお嬢様もご満悦。彼女もノルンの紅茶を体験してからは市販の紅茶が飲めなくなってしまった犠牲者の1人である。
フェアリーたちもお気に入りのティーポットに紅茶を淹れて、ティーカップに注いで優雅な時間を楽しむ。
はふーっと息を入れて表情が緩んだ。かわいいっ!




