宝石の輝きの先に 53
ローズシロップゲームが終わって一拍置いて、ノルンの紅茶が出来上がると同時に新顔が2人訪れた。
蝶貝のピアスをした綺麗系女子、鬼ノ城華恋。
血の匂いを漂わせる赤毛の少女、ブラード・スインラ。
後者の子は絶対にまともじゃない!
「お待たせしました、フィアナさん。宝石魔法用の追加の宝石をお持ちしました」
鬼ノ城華恋氏は暁さんの宝石金庫番。暁さんの金庫から宝石魔法に使うための宝石の選別を行ってるそうだ。たしか宝石に魔術回路を刻むための技術の参考にした人、だったはず。
お嬢様とは面識があるらしい。しかし、メイドとして、少し彼女の人と成りをみておきたい。
「華恋さんは宝飾関係のお仕事をされてるのですか?」
「私の本業はギルドでの事務仕事です。趣味で宝飾のデザインをしてまして、暁さんの金庫に収めてある宝石の管理も任されています」
なるほど。大金を生む宝石の管理を任されてるということは、それ相応の信頼があるということ。紅暁はこの世界ではかなり地位の高い位置にいる。それでいて、部下の責任をハラキリで収めようとする覚悟の持ち主。
暁さんが信頼する人は信用して大丈夫でしょう。
問題はプリマちゃんと戯れてる赤毛の子。恐ろしいほどに血の匂いがするんですけど!?
この世界にはダンジョンを攻略する冒険者と呼ばれる職業の人間がいるようだ。もしやすると彼女もその類の人間なのだろうか。
「ブラードさんも華恋さんと同じ事務のお仕事をされてるのですか?」
プリマちゃんをもふもふする彼女の手が止まる。
「いいえ。私は病院で看護師をしてます。華恋さんとはスイーツ仲間です。簡単な内科の診断はできますね。それと、献血するのが大好きです!」
それですんごい血の匂いがしたのか。
しかし献血するのが大好きな看護師って、聞いたことがないんだが。
「今日は暁さんのお呼びで、猫ちゃんの診察をしに参りました。スイーツも奢ってくださるということなのでっ!」
「なるほど。スイーツは大事ですね! 猫ちゃんの診察ということですが、なにかあったのですか?」
「魔法の実験中に大爆発があったということで、猫ちゃんの体に異常がないか診てほしいと頼まれました」
「大爆発……? えぇと、いったいなにが? お嬢様は怪我などされてませんか?」
そんなこと初耳なのだが。もしもお嬢様に怪我でもあろうものなら、私の首が飛びかねないのですが。
「結果的に大丈夫です。結果的には。クリアしないといけない課題が見えたので、結果的には大丈夫でした」
メイドとしてはめちゃくちゃ心配になるやつー。
「あまり無茶はなされぬよう、お願いしますね。フィアナお嬢様の情熱に水を差すつもりはありません。ですが、貴女は大事なエヴェリック家の長女です。なにかあったら旦那様も奥方様も心配されます」
「承知しております。今回のは、本当に事故でして、本当はそんなことがあってはならないのですが、未知の冒険にトラブルはつきものなわけで」
どんどん目を逸らしていく。でもまぁ、お嬢様がこういう言い訳を連ねる時はどうしようもなかった時だ。釘は刺したし、問い詰めるのはやめて労うにとどめよう。
続いて、話題を掘り返されぬように別の話題を切り出そう。
「ブラードさんは獣医師でもあるのですか?」
「いいえ。私は血液ちゃんの声が聞こえるんです。なので、プリマちゃんに流れる血液ちゃんの声を聞いて、健康状態を調べてます」
――――――この子はなに言ってんだ?
「ふむふむ。にゃんにゃん。なるほど。筋肉や骨、内臓に異常はありません。後遺症の心配もありません」
「そうか、本当によかった」
「ですが、今晩は鯖缶が食べたい気分だということです」
「そうか。帰りに鯖缶を買って帰ろう」
なんでそんなこと分かるんだ?
シェリーさんも信じてるし。




