宝石の輝きの先に 52
ひとつ感謝の言葉を述べて、最後の問題を引き出そう。
「最後は黒バラのローズシロップですね。名前は星空と言うんですよね。どうしてその名をつけたのですか?」
私の質問に答えてくれるのはバーニア。5人のフェアリーの中でひと周り小さな彼女はバニラの花のフェアリー。黒バラのローズシロップの瓶に抱き着いて、頬ずりしながら微笑んだ。
「黒バラに朝露が乗っかっててね、その姿がきらきらしてて、まるで真昼に咲いた星空みたいだったんだって。だから星空って名前がついたんだって!」
なんてロマンチックな由縁。名付け親のご尊顔を拝見したい。
「名付けたのはセチアだったよな。メリアローザに来てすぐの」
暁さんの視線の先にはフェアリーたちの長、セチア・カルチポア。しっとりと濡れた真っ赤な髪の大和撫子はアロマソープ作りの時も素敵レディだった。
丁寧で、優しくて、フェアリーたちが上手にできたこと、頑張ったこと、全部を褒めて笑顔を向ける。とっても素敵な頼れるお姉さん的存在。
ウッドデッキの内装も、ガーデンテラスも彼女が考えたという。センスの塊である。
「ええ。黒はネガティブな印象があるけれど、素敵な黒もあるんだって知って。それにメリアローザに咲く黒バラは本当に香りが強くて深くて、どこか大きなモノに包まれるような安心感があるんです。どうぞみなさま、ご賞味くださいませ」
勧められて、本日2度目の星空のローズシロップ体験。
深い深い味わいと、ブルーベリーのフレッシュで濃厚な甘さが舌に残る。
「レッドローズは鮮烈だったが、星空は強烈だな。しかし深いだけじゃなく、瑞々しく華やかな印象を感じる。最後に残る濃厚な甘さは果汁によるものなのか?」
シェリー騎士団長の問いに、バーニアがわくわくしながら語る。
「最初はすんごく深い味わいだったんだけど、ブルーベリーの果汁を入れたら瑞々しくなったの。濃厚な甘さを残しながら、舌にすっと広がっていくようなフレッシュさが素敵でしょ?」
「あらら。星空のローズシロップが好きすぎて、答えを言ってしまいましたね」
「え? あっ!」
ロリムの指摘にバーニアが、しまったと驚いて空中を滞空した。
彼女の反応が純粋で、かわいくて、みんな揃って笑ってしまう。
バーニアはやってしまったと頭をかいて、それでもみんなが満足してることに誇らしげ。
「えへへ。うっかり言っちゃった。でもみんなに気に入ってもらえたみたいでよかった」
「ええ、どれも本当に素晴らしい逸品です。ところで、在庫がまだあるということでしたが、どのくらい残っているのですか?」
フィアナお嬢様が面白いものを見つけた奥方様と同じ目をしてる。
これはあるだけお買い求める時のやつ。
「在庫があるとはいえ、大人気商品だからそんなに残ってはない。譲るのは構わないが、手加減してくれると助かるよ」
「はい。承知しておりますっ!」
あ、これ絶対承知しないやつ。こういう時は従者が止めに入らないといけないやつだ。




