宝石の輝きの先に 48
きちんと返答できるだろうか。フィアナお嬢様のメイドとして、ふさわしい立ち居振る舞いをしなくては。
「とっても素敵な体験をさせていただきました。特製のローズシロップを使ったアロマソープを、みなさんの分も作ってきたんですよ。フェアリーたちの作ってくれたシロップが本当においしくって」
「わっ! わわわぁ~っ! 待って待ってください! ノルンが紅茶を淹れるまで時間があるから、ゲームをして遊びたいですっ!」
「ゲーム?」
ローズシロップの話しをしようとして月下に止められた。
これからなにがしかの楽しいゲームをするようだ。だけどわざわざシロップの話しを遮らなくてもよいのではなかろうか。
彼女たちだってローズシロップは自慢の品のはず。なるほど。自分たちが作ったものなのだから、自分たちで自慢したいのか。これは失礼なことを言ってしまった。
月下がちょこちょこと歩いてみんなの前に出てお辞儀をする。フェアリーだから飛べるのに、歩くのは人間を羨ましいと思ってるから。
ティーパーティーもそう。人間を愛してるから。
わくわくを用意した小さくて大きな愛の持ち主は、我々に素敵な提案をする。
「ノルンが紅茶を淹れるまで時間があるので、みんなでゲームをしたいと思います。その名も、『ローズシロップゲーム』です♪」
なんだそのおしゃれなゲームは。貴族の間でも聞いたことがない。
「ここに私たちが作ったローズシロップがあります。黄色のサングリア。白の白沙羅。ピンクのロゼ。赤のレッドローズ。黒の星空。それぞれに果物の果汁が入ってます。それを当ててみてください♪ あ、ノルンとマリアとカルティカとロリムは答えを知ってるから、ちょっとの間だけ、しーっ、ね♪」
ウィンクしてスマイルして人差し指でしーっのポーズ。一挙手一投足がかわいい。脳内でセロトニンを放出しすぎて死ぬかもしれない。
月下たちは一生懸命にローズシロップゲームの準備をする。自分たちの体よりも大きなサイズの瓶をライブラから取り出し、2人がかりで蓋を開け、専用のマドラーを用意した。
ひとりひとりに手渡して、食べて食べてと催促する。もちろん、既に味わった私たちも平等に味わう機会を与えてくれた。
何度味わっても心が蕩ける。
夢見心地にさせてくれる。
自分も、誰かをこんな気持ちにできるかな、って思っちゃう。
さぁさぁフェアリー主催のゲームが始まった。当てたからって賞品があるわけじゃない。だけどみんな本気だ。当てたなら、フェアリーたちはきっとすごいと言って飛び跳ねるだろう。見たい。喜び勇んで満面の笑みを咲かせる彼女たちの姿を!
なので、みなさん頑張って当ててください。
黄色のバラに入ってる果汁を当てるのはさすがに難易度高すぎですがっ!
「うむぅっ! バラの華やかな香りとほのかな酸味が明るい夏空を思い出させてくれる。これは柑橘系の香りがするのう。みかんの果汁を使っとるのか?(バスト)」
「おしいです。柑橘系の果汁は正解です(白雲)」
「これは……タルトタタンの仕上げに使ったら絶品スイーツになりそうだな(シェリー)」
「実はこのまえ、白沙羅のローズシロップを梨のタルトタタンに塗ってティーパーティーしました。ちょーおいしかったです!(ペーシェ)」
「絶対おいしいやつじゃないですかっ!(マリア)」
「マリアさんはタルトタタンがお好きで?(ラダ)」
「甘い物全般大好きです♪(マリア)」
「こっちのバタークッキーも食べてええかのう?(エイリオス)」
「もちろんです。とってもおいしいのでぜひ。ローズシロップを塗って食べてもおいしいですよ♪(月下)」
「エイリオスさん、ほんとに自由でらっしゃる。果汁を使ったローズシロップってたくさんの種類を作るよね。みんなで相談して決めたの?(アルマ)」
「うん。みんなであれやこれやしながらいっぱい作った。八朔も金柑も大好評だった!(ローズマリー)」
「ということは、目の前にあるこれは八朔でも金柑でもないのか(アルマ)」
「アルマ、外堀からにじり寄ろうとしたのか。誰からそんなことを教わったのやら(暁)」
「「「「「……………………(全員)」」」」」
「なぜあたしを見るんだ?(暁)」
初対面でも分かる。それを学んだのは貴女の背中からだと。
フェアリーたちも、リィリィちゃんも、紅暁を見て沈黙した。




