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宝石の輝きの先に 46

「次は白バラのローズシロップをどうぞ。白沙羅のシロップにはほんのり甘くて優しい香りのリンゴを使用しております。百合の花のような気品と、はんなりしちゃう甘さをご賞味ください♪」


 白雲はそう言って素敵な笑顔を向けてくれた。くっかわっ!


 白はさっぱりとした甘さの中に気品ある爽やかな香りを感じさせる。

 ピンクのバラはロゼ。果汁は桃。甘いのと甘いので味が喧嘩すると思いきや。甘いと甘いを足してあまあまな香りになった。脳と舌が蕩けちゃう。

 レッドローズは情熱的で濃厚な香り。と同時に、いちじく独特の甘さを感じる。言うならば、情熱的で男勝りな女性が、意中の相手の前では乙女になる。そんな印象。


 最後は黒いローズシロップ。我々の認識では黒い食材というのはあまり歓迎されない。文化的にか、習慣的にか、黒色とはつまり腐ってるとか、毒だとか、ネガティブなイメージがある。


 が!

 フェアリーに差し出されて!

 食べないわけにはいかないっ!

 間髪入れずにぱくりっ!


「んんん~~~~~~っ! レッドローズよりずっと深い味わい。それでいて芳醇な香りと、ブルーベリー独特の甘さが心に潤いを与えてくれる。おいしいっ!」

「「「「「やったーっ!」」」」」


 フェアリーたちはハイタッチ。

 続いて私たちともハイタッチ。

 ハイタッチのどさくさに紛れて、手のひらの中で最も柔らかい親指の付けをぷにぷに。

 くっかわっ!


 こんなに幸せな時間はいつぶりだろう。私が所属してた暗殺組織が崩壊して自由を手に入れた時以来かもしれない。

 私の名前はマリア・パプリポッポ。なんでこんな名前に改名したのかって?

 その当時、暗殺しかしてこなかった私は致命的に常識というものが欠落してたからだ。女の子なのだからかわいくなりたい。語感を重視したんだった気がする。


 今はフィアナお嬢様付きのメイド兼護衛。毎日がゆるふわな出来事で埋め尽くされてる。

 今日は一段とゆるふわ。ゆるふわすぎて時の流れを忘れてしまう。


 気付いたらアロマソープをしこたま作ってティータイムの時間になってた。


「記憶が飛んだ気がするっ! 楽しすぎてっ!」

「楽しいならよかった!」


 ローズマリーたちも楽しくて楽しくて仕方ないみたい。ぴょんぴょん飛び跳ねて、ふわふわ浮かんで、ほっぺをぷにぷにしてくれる。

 せろとにんがだいばくはつっ!


 ひと呼吸ついて椅子に座る。差し出された紅茶はノルンが淹れてくれた最高級のロイヤルミルクティー。

 彼女は紅茶マイスターの資格を持ち、ただのティータイムを最高のティータイムに変えてくれる。それがゆえにフィアナお嬢様のメイドに抜擢されたのだ。


「さぁさ、ロイヤルミルクティーができました。バタークッキーと一緒に召し上がれ♪」


 フェアリーたちは人間用のティーカップに注いだロイヤルミルクティーをフェアリー用のティーポットに移し替える。魔力で適量のミルクティーを浮かべ、わざわざティーポットに入れるのには理由がある。

 フェアリーたちは人間が大好き。だから人間のまねっこをして、人間のするようなスタイルを体験したいのだ。


 ポットに入れたミルクティーをフェアリー専用のティーカップに注ぐ。

 わくわくとどきどきを胸に抱き、彼女たちはノルンのロイヤルミルクティーをすする。

 かちゃりと音を立ててティーカップを皿に置き、大きな声で叫んで後方へとすっ飛んでいった。


「「「「「うわあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」」」」」

「「「なんでッ!?」」」


 宇宙空間で推進剤を誤って操作した宇宙飛行士のように、あらぬ方向へ飛んで行くような、そんなふうにしてぶっ飛んでいった。

 私たちは驚きながら、脊髄反射的に彼女たちをナイスキャッチ。ローズマリーを手の中に収めた私は彼女の無事を確認する。


「大丈夫? ミルクティーになにかあった?」


 ローズマリーは硬直して、目を見開いて微動だにしない。口に合わなかったのか。人間目線のロイヤルミルクティーはフェアリーにはおいしくなかったのか?

 疑問を口にして数秒後、きらきらした瞳を向けてひと言。


「おいしいっ! こんなにおいしいミルクティーには出会ったことがないほどにっ!」


 超気に入ってくれたみたい。

 続けて、ふっとんだ理由も教えてくれた。


「あまりにおいしいからびっくりしてひっくり返っちゃった!」


 いやもうひっくり返るとかそんな次元を超越したリアクションだったけど。

 かわいいからオールオーケー!


「おいしいならよかったです。みんな一斉にぴょーんってなったから、私たちも驚きました」

「えっ! みんなもひっくり返ったの!?」


 みな一様に同じ反応を見せる。かわいい。

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