宝石の輝きの先に 43
次は正拳を撃っても壁は破砕しなかった。横から見てるからわかるが、魔法自体はしっかり発動してる。
壁の反対側に魔法の起点を作ることで、モンスターの外皮を抜けて内部に直接のダメージを与えることができるということの証左である。
これには冒険者のアルマが大喝采。
「通常の魔術師なら、魔法を発動する際の起点をある程度操作できます。それを近接戦闘を主とする戦士職が行えるのは素晴らしいことです。それもフレイムスピアのような中・長距離射程の魔法を戦士職が使えるようになるなんて、メリット満載ですな!」
「俺たちのような近接戦士職にとって、『攻撃が届かない』ってのは永遠の命題だからな。魔術師と同様の仕事を、自分のタイミングでできるってのはすげえ助かるぜ。これで複数同時発動もできたら、より魔術師っぽくなるのにな」
「それをやられると魔術師の立場がなくなっちゃいますよ。しかしいいところに目をつけましたね」
ふふん、と鼻を鳴らすアルマは得意げに宝石魔法のメリットとデメリットの説明を始める。
「宝石魔法は少量の魔力、ある程度の練度で素早く運用できます。が、魔術師のように同時に複数の魔法を放てません。同じ宝石を複数個所持してるならともかくですが、コスパ的に考えられないでしょう。複数個持つなら、多様性を考えてバラエティ豊かなラインナップにしたほうが、どんな局面でも対応できますからね」
アルマの言葉の息継ぎを縫って、フィアナさんも饒舌になる。
「ペーシェさんが証明してくれたように、一定の魔素に満たされると瞬時に発動してしまいます。それはそれでメリットではありますが、魔術師のように溜めや、自分のタイミングで放てないというデメリットもありますね。保管についてもそう。アリメラの木の箱は魔力を遮断できるのですが、携帯性が弱くなってしまうことが難点です」
デメリットを説明して、待ったをかけたのは暁さん。
「それなら幾ばくかデメリットを軽減できる。アリメラの木は薄皮一枚でも効果がある。鉋で削った鉋屑でも効果があるから、保管の際は宝石魔法の周囲に鉋屑を敷き詰めておけばいい。それに、鉋屑を集めて圧着したものをなめして柔らかくして布のようにも加工できる。それを使えば持ち運びも楽になるだろう」
「運搬するための容器を軽量化できるのですね。それでしたら携帯性についてはあまり心配いりませんね」
アレって鉋屑でも効果あるのか。なんかいろいろと悪さできそうな予感。
その後もいろんな組み合わせの魔法とマナで試し、魔法を撃ちまくり、時間を忘れて研究に没頭。気付くと2時を過ぎていた。そろそろ片付けの時間に入らないと、3時のティーパーティーに遅れてしまう。
3時のティーパーティーにだけは遅れてはならない。絶対に!
「この時期はフェアリーのみんなが作ってくれたローズシロップがある。どれもほんとうにおいしいから楽しんで行ってくれ」
全員テンション爆上がり。フェアリー謹製ってだけでアガるのに、ローズシロップとか最高かよ!
片付けるに際してロリムが持ってきたアリメラの木の箱の中に宝石を詰めていく。ひとつひとつ丁寧にメモ紙にくるみ、どの石がどんな魔術回路を刻んでるのかを示そう。
アルマとエイリオス氏がとにかく魔法を付与したもんだから、なにがどれなのか記録してないとごちゃごちゃになってしまう。
にしても、宝石のぎっしりと詰め込まれた宝箱には、なんていうかこう、ロマンスを感じますな。
ロマンスを感じたのはあたしだけではない。シェリーさんの家族、プリマちゃんも宝石に興味津々。宝箱に入ってごろん。
からの――――――――ドカンッッッ!




