宝石の輝きの先に 36
畳みかけるように、フェアリーたちはメインディッシュが終わって出てきた卵豆腐を囲んで喜び勇む。黄色いぷるぷるを讃える『揺れ動く卵豆腐の舞い』を踊り、自分のお皿に取り分けて堪能する姿は純真無垢の権化。
食べることを楽しむとはまさに彼女たちの姿のこと。
すると、バーニアが卵豆腐の入った器を持って暁さんの元へ駆け寄った。
この展開はまさか?
「暁、聞いて聞いてっ! バーニアも一句浮かんだっ!」
「バーニアも聞かせてくれるのか。ぜひとも詠んでくれ」
「うんっ! えぇ~、こほん!『ぷるぷるるん ぷるぷるぷるるん たまごどーふだいすき』。どうっ!?」
字が余るどころか弾け飛んでるっ!
しかしバーニアは自信満々の笑顔!
暁さんの評価やいかにっ!
「卵豆腐が大好きということと、食べる喜びとわくわく感がよく表現されてる素晴らしい詠だ。バーニアはバニラと同じくらい、卵豆腐が大好きだもんな。おかわりが欲しかったら遠慮なく言ってくれ」
「うんっ! ありがとうっ!」
お礼を言って、彼女は席に戻り、それはそれは楽しそうに嬉しそうに卵豆腐を口に入れた。
その笑顔たるや、世界の至宝!
「なんて尊いんだっ!」
「そうでしょうっ!」
ロリムが激推し同意してくれる。
「もはやここが異世界とかもうどうでもいいっ!」
メイドのノルンさんも脳が揺れ始めた。ティカの脳はもうすっかりぷるぷるるんである。
♪ ♪ ♪
異世界の街を歩く。衣服は誰もかれも整っており、物資は潤沢のよう。
機械類がないからして、我々の世界との文明の差は大きいかもしれない。
しかし、自由に空を飛べたり、生活の中にマジックアイテムが根ざしてるところは、ティカたちのいる世界と比べて寛容かつ、モラルの高さを物語ってると言えよう。
それにしても、異世界と聞かされて半信半疑だった。フェアリーを見せつけられて信じざるをえなくなる。夢幻の住人を目の当たりにして、しかし誰も騒ぐことはなかった。騒いで他の人に迷惑をかけてはならない。社会人としての規範がそうさせる。
それにフェアリーと触れ合える機会が得られたのだから、マギ・ストッカーの出自とか異世界の存在とか、口封じを要求するならなんでも受け入れよう。そういう心構えができてしまった。
食後の散歩と共にこれからの予定の確認をして、そんな話しを切り出したティカから視線を離した暁さんは、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「フェアリーを交渉の材料だとか、口封じのための手段とかに使いたくないんだが…………」
暁さんにとっても、フェアリーは尊い存在だということか。
シェリーさんも暁さんと同じ表情をする。
「前にも言ったが、フェアリーを交渉の材料に使われると手も足も出ない。今回のは完全に不可抗力っぽかったがな。既にセチアが待ち構えてたし。セチアがいるなら、フェアリーたちも一緒だろうし」
「そもそもメリアローザに連れてくる予定はありませんでした。まぁいずれ公開はするんです。フェードインできるように、幾ばくかの人には異世界の存在を認知させたほうがいいとは思ってました。しかしまさか一般人を巻き込んでしまうとは、想定外でした」
シェリーさんも暁さんも、なんか裏で画策してたらしい。出自秘匿の魔剣は倭国からのものと思ってたが、まさか異世界からとは。
異世界の技術も放出しながら、実用性を認めさせて、異世界の存在を公表した時に受け入れられ易くするための布石だったのか。
スケープゴートにされてる倭国はとんだとばっちりですな。
我々の勝手な勘違いとはいえ。
「一般人ではありません!」
暁さんの言葉に反応したのはきっかけをつくったペーシェさんではない。メイドのマリアさんだ。
「私はフィアナお嬢様のメイドです。ですので、一般人ではありません。なのでセーフです!」
言葉の裏に、『いくらでも異世界を渡りますよ。だってここにはフェアリーがいるんだもん』という気持ちが見て取れる。
つられるように、ノルンさんも、エイリオス氏の弟子のディアさんもラダさんも、ジャックさんも言葉を揃えた。
フェアリーの存在は偉大なり。彼女たちとともにいられる時間があるならば、異世界だろうが魔界だろうが関係ない。そのくらいの覇気を放ってる。
ティカも同じ覇気を出した。だって本当にかわいいんだもん!




