宝石の輝きの先に 35
正直言ってシェリーさんの言葉に真実味がない。
彼女が嘘を言うはずがない。だが、しかし、それでも、異世界なんてファンタジーの世界の御伽噺。フェアリーなんてファンタジーを超越した夢幻の住人。まだ夢の中ではないかと疑ってしまうのは猜疑心が強すぎでしょうか?
「信じられないなら、みんなで同じ夢を見たってことにしといてくれると助かるぅ~」
ペーシェさんがしれっと責任逃れ発言をする。なんか一気に現実味を帯びてきた。否、現実であってほしい。フェアリーが本当に存在していてほしい。
彼女たちは全人類が求めた究極の存在なのだからっ!
本当に彼女たちがフェアリーなら話しかけたい。しかしいざ目の前にして、なんて話しを振ればいいのかわからない。
みな沈黙を守る中、アルマがティカの肩を叩いた。
「ティカもモツ好きでしょ。牛すき焼きうどんに追加してモツを入れてもらえるけど、どうする?」
こんな時にもブレずにモツ。こやつ、今までフェアリーと一緒に過ごしてきたからティカたちの困惑を理解できてないようだ。する気もないだろうけど。
「モツが食べられるなら、ぜひとも」
とりあえずモツは好きなので追加してもらおう。
運ばれてきたご飯は醤油ベースの麺料理。見た目は故郷の牛肉麺と似てる。モツが合わさっておいしそう。
かたわらには焼きしいたけ。軸を取ってみじん切りにしたものを、しいたけをひっくり返してその上に置く。海産物からとった出汁を少し足して焼く。するとしいたけの出汁が沁み出して小さな湖のように湖面を描く。
「なんという質素かつ大胆かつ素朴かつ素材の味を求めた料理。倭国料理に似てる。もしや、メリアローザは倭国の中にある秘匿された土地なのかっ!?」
「違うよ。異世界は異世界。倭国はベルンのある世界の国のひとつ。環境が似てるらしいから料理とか建築物とかも似てるらしい。特にモツがうまいっ!」
「それはたしかにもぐもぐっ!」
飯がうまい土地はいい場所だ。つまり、メリアローザはいい場所だ!
フェアリーたちもおいしそうにランチを楽しんでいる。純粋無垢な彼女たちが柔和な笑顔を見せる土地・メリアローザ。ここは素晴らしい楽園に違いない。
楽園を見るように、恍惚な笑顔を向けて食を止める少女が隣にいる。ロリムがフェアリーたちを見てうっとりしてた。
「ロリムってフェアリーが大好きなの?」
「フェアリー大好きですっ! かわいくてぽかぽかしてて、イイーキルスとは正反対。見てるだけで幸せになりますっ!」
相当に入れ込んでるようだ。おっと、ローズマリーがしいたけの入った器を持って暁さんの前に躍り出た。なにかを見つけたのだろうか。
「暁、聞いて! しいたけを食べてたら一句浮かんできたっ!」
「それはぜひとも聞かせてほしいな」
「うんっ! えぇ~、こほんっ。『秋香る しいたけ食べて しあわせだ』。どうっ?」
まだ秋じゃないし、夏だし。
しいたけ食べただけで幸せって、幸せハードル低すぎない?
それに全くひねりとかないっ!
感性の薄弱なティカの脳内つっこみは低レベル。
果たして、暁さんの返答やいかに。
「しいたけを食べて秋の喜びを感じる気持ちが存分に表現されてる素敵な詠だな。今日のしいたけは蝶で作られてる中でも一番肉厚で旨味が強いものだ。ぞんぶんに堪能しておくれ」
「うんっ! わかったっ! 聞いてくれてありがとうっ!」
満足した彼女は席に戻ってしいたけをほおばる。肉厚ジューシーなしいたけを口いっぱいにもしゃもしゃすれば、秋の香りが心を満たす。
なんて感性豊かなのだろう。これがフェアリー。夢幻の住人。
「いや、別に人間でも同じことを思うけど。フェアリーだからってわけじゃなくね?」
アルマから容赦ないつっこみがティカのモツを串刺し。
「あぁ~~~~、フェアリーの純粋な想いが心に沁みる~~~~♪」
ロリムは感動のあまり涙を流す。さすがにそこまでの感性はいきすぎではないだろうか。




