宝石の輝きの先に 32
疑問符を浮かべる我々をよそに、シェリーさんと暁さんは決意と諦めの混じったため息をついた。
これからなにが起ころうと言うのか。
ワープの魔法とやらで秘匿主義の倭国に転移するのか?
巻き添え的な形で倭国の謎の一端に触れてしまうのか。
あまり世界のダークなところに触れたくないものです。
命がいくつあっても足りないので。
さて、とシェリーさんと暁さんが全員に向き直って口を開く。
「本日の昼食はメリアローザでとります。が、いろいろとアレなやつで、バレると困るのですが、マギ・ストッカーが衝撃的で、アレなやつで、困っちゃうので、もういっそメリアローザに跳んで、全員の口封じを計ろうと思います」
珍しくシェリーさんからまるで内容のない言葉が放たれた。最後のひと言があまりにも不穏すぎて、前半の言葉が意識からぶっ飛んだだけかもしれませんが。
沈黙して、最初に言葉を発したのはアルマ・クローディアン。
「今日のお昼ごはんはなんですか?」
聞くことそれじゃなくね?
「牛肉の漬物を使った牛鍋焼きうどんと牛丼だ。ライラさんが狩ってくれた牛肉がまだ余っててな。早めに食べないといけないんだ。あとは肉厚しいたけとかカボチャの煮物とか、旬の食材を使ったおばんざいだ」
「ひゃっふぅ~♪」
アルマ、お品書きを聞いただけでテンションアゲアゲ。
「わし、90になるけど歯が全部あるのが自慢なんじゃ」
エイリオスおじいちゃん、そんなことは聞いてない。歯が丈夫でも頭は大丈夫じゃないらしい。
「それでは、シェリーさんと暁さんのお許しが出ましたので、間髪入れずにわぁ~ぷ♪」
軽快な言葉とともに、ペーシェさんの失態を帳消しにするための魔法が放たれた。
♪ ♪ ♪
軽快な掛け声とともに景色が変わった。匂いも変わった。影の位置も変わった。なにもかもが変わった。
ワープはテレポートの上位互換魔法だというのか。ビザとか持ってないけど大丈夫だろうか。
周囲の家屋は木造建築ばかり。屋根には倭国の旅行パンフレットで見た瓦が並ぶ。
呆然とする我々の意識をよそに、アルマに向かって駆け寄る女性の姿がある。
長い髪は血で濡らしたように赤い。朱色の着物を着た、倭国の観光パンフレットでよくみるモデルさんのような姿。
「アルマ、大丈夫!? 暁にひどいことされなかった!? ああもう、本当に心配ばかりかけるんだから。魔法が大好きなのはいいけど、無茶ばっかりしないでっ!」
涙を浮かべてアルマを心配する女性はアルマのお姉さんか母親だろうか。ハグして頭をなでなでされたアルマの顔がこわばる。
「す、すみません。以後、魔法をぶっぱする時は周囲の状況をよく観察いたします」
ぶっ放さないという選択肢はアルマにはないらしい。
アルマの背後で、腑に落ちない暁さんが腕を組む。
「まるであたしがアルマにひどいことをするような言い方じゃないか」
「だってものすごい剣幕だったもん!」
たしかにとんでもない覇気でした。
和服の女性がもう一度、アルマを強く抱きしめて立ち上がった。
「見苦しいところを見せてしまって申し訳ございません。お客人ですよね。どうぞ、フレナグランへお入りください。お昼ごはんは済ませましたか? まだでしたら、ぜひご一緒に」
ワープに巻き込まれたことに、アルマに泣きつく美人に、呆気にとられるまま、促されるまま暖簾をくぐった。
くぐって、最初に目に入ったのは両腕を真横に伸ばし、両腕に2体ずつ、頭の上に1体、合計5体のお人形さんを乗せた美少女。金髪碧眼。ノースリーブの黒ワンピース。10年後は世の男どもを魅了する美女になるだろう少女がいた。
暁さんの姿を見るなり、6人はおかえりなさいと言って飛びついた。
6人が!?




