我々がどこに立っているのか 1
見ようによっては後半は作業です。
作業ですが、とても大事なことだと思っています。
前回でマルタ・ガレインが楽しく暴走しました。
お金をいっぱい貯めてバッ●モービルを作ろうと夢見ている夢見る女性です。
作者もバッ●モービルが欲しいです。
ウィンカーを出さずに車線変更をするやつにミサイルをお見舞いしてやりたいからです。
なんちゃってね
以下、主観【エマ・ラーラライト】
グレンツェンの市街地は自転車以外の車両の乗り入れは禁止されている。
自動車のない時代に整備された道だから、自動車が通る余地など考えて作られてない。
景観の問題や車幅拡張の工事ができないなど、諸々の事情も重なって、グレンツェンへ自動車で来る人は一度、郊外の専用駐車場へ乗り入れる必要がある。
フュトゥール・ストリートの東側。新興住宅街の外に私用車やシャトルバスが集まるエリア。
グレンツェン内では見られない、整然と並ぶ車両の絨毯。ある意味ではこれもグレンツェンの見どころかもしれない。
マルタさんも例外なくパーキングスペースへ停めるはず。
そこから市内へ行こうとすると、真っすぐ西へ進んでエンド・ステーションで路面電車に乗る必要がでてくる。
そこまでは初心者でも大丈夫なのだが、慣れてないと迷子になってしまうかもしれない。
複雑な路地なんかは入り組んでいてわかりづらい。迷ってしまってもいけないということで、私ことエマ・ラーラライトとすみれさん。それから仕込みの終わったマーリンさんが出迎えに赴いた。
予定時刻より少し早めに到着すると、遠くから物凄い勢いの赤色のスポーツカーがぐるぐると回転して駐車スペースに収まった。
世の中には無駄に凄いテクニックを持った人がいるんだなぁ、と感心しながらも、絶対に関わり合いにならないようにしようと他人事のように思う。
思った矢先、そのDQNカーが我々の待ち人の乗り込む車だというのだから、世の中とはとても面白い。
「はぁ~い。お待たせしましたぁ~。ユノ先輩と愉快な仲間たちが到着でーす!」
激甚に荒い運転主とは思えない柔和な表情の女性が現れた。
彼女が電話口で自己紹介されたマルタ・ガレイン。ほんとうに、世の中って面白いですね。
「あ、はい。遠いところからわざわざありがとうございます。ユノさんは…………これは、さっきのスピンで気絶してるのですか? それと後部座席の2人は?」
「ユノ先輩は昨日からおねんねしてます。後ろの2人もお肉を食べる仲間ですよ」
お肉を食べる仲間?
はて、私はそんなことを誰からも何も聞いてないのだけれど。
「あくまでメインのイベントは屠殺の見学なのですが。あとその、お肉を食べる仲間というのはどういうことでしょうか?」
「うん? この子たちはキッチンのメンバーか何かじゃないんですか?」
「んん?」
どういうことだろうか。少なくとも私は面識がない。キッチンのメンバーではないことは確かだ。
誰かが特別ゲストで呼んだのだろうか。それならリーダーである私にひと声かけるはず。
今まで何かをするに関して情報共有を怠った人はいなかった。追加の参加者がいるだなんて話しは聞いてない。
ベルンから来たということは、ユノさんの助手か何かだろうかと思うも、マルタさんも彼女たちとは初対面。
彼女は昨日に出会った老人の言葉のままに、彼女たちと同乗してやってきただけ。
もしかして空中散歩チームのメンバーだろうか。今日はマーリンさんとベレッタさんが掛け持ちしている空中散歩チームにも声をかけてるのだ。
ハティさんたちとシェアハウスをしてるということもあるし、なによりアップされたお散歩動画がすごく楽しそうだった。
本番のお祭りでは自分たちの企画が忙しく、彼女たちが催すイベントをゆっくり楽しむ時間がないかもしれない。
だから今日、前祝いのご飯を提供する代わりに、アクティビティを楽しませてもらおうということなのです。
連絡をとっても、そんな人たちは知らないと返ってきた。
ついでに誰かご存じかと思ったけど、誰もそんな子たちのことは知らないという。
意味が分からない。
なんでここにいるの、この人たち。
「あの、失礼ですが、あなたたちは誰ですか?」
癖のある赤毛の髪の女性は、車内でシェイクされて死にそうな茶髪の女性を肩に担いで満面の笑み。
「私はジュリエット・ロマンス。こっちのグロッキーになってるのはフレイヤ・パッショーネ。珍しいお肉が食べられると聞いて、地獄を通り過ぎてやってきました」
「地獄? えっと、その、食べられるというのは誰から聞いたのでしょうか? 仲間内でしか話しを回してないはずなのですけど」
「うっ……それは…………」
当然、仲間内で回した情報をハッキングして、勢いでここまで来てしまったなんて言えるはずもない。
そんなことをされただなんてことは想像の外にある私には、ただただ不思議な光景でしかない。
どういう経緯で知ったのかは分からないが、はるばるグレンツェンまで来てくれたのに申し訳ない。
申し訳ないけど、リーダーである私の了解がない状態では参加の許可を出すわけにはいかない。申し訳ないけど。
もしも無条件に許してしまうと際限なく人が入りこんでしまうからだ。
それを伝えると、死ぬ思いで地獄を通り抜け、楽園にたどり着いたのに入国拒否をされた女性は、それはもう人目もはばからずに大号泣。
大粒の涙を流して地に膝をついて崩れ落ちてしまった。
どうしろというのだ…………。
困った我々の間にマーリンさんが提案を割り込ませてくれる。
「うーん、まぁ、ユノちゃんの介抱、付き添いってことで来たってことならいいんじゃない? 幸い、前祝いで出す料理の量は十分あるし、女の子が2人増えたくらい問題はないよ。屠殺ショーについては、ある程度の覚悟を用意しておいてもらわないとだけど」
「そうですね。まぁそういうことなら。ユノさんはまだ気絶したままですし。マルタさんの話しによると、目覚めるとゾンビのように動き出して仕事を始めるということなので、その押さえに入ってもらいましょう」
「ゾンビのように動き出すって、怖すぎなんですけど」
大人のマーリンさんもこれにはドン引き。
「大勢でご飯を食べるほうがおいしいよね。一緒に行こう!」
すみれさんはほっと胸を撫で下ろし、2人と握手しようと手を差し伸べた。
「いいの? お肉食べてもいいんだよね? やったぁーよっしゃあーありがとう! よかったねフレイヤ」
「もう…………どうでもいいです」
こっちの人もゾンビみたいに生気がない。
地獄を通って来たって言ったっけ。いったい何があったんだろう。
きっとマルタさんの運転に関してのことだろう。聞くのが怖いので聞かないことにしておきます。
「そっちの子は随分とテンションが低いけど、どうしたの? 車酔い?」
マーリンさんが心配したのはフレイヤさん。表情も酷く、見ると2人とも髪も服も乱れて整えた装いがバラバラに弾けてしまっている。
スピン駐車の様相から想像するに、道中はたいへんな道のりだったのだろう。きっとフレイヤと呼ばれた女性の青ざめた顔もそのせいに違いない。
まさか後門の茶色い悪魔を退治するため、友達の肛門に指を突っ込まされただなんて誰が思おうか。
一瞬とはいえ、それに触れさせられただなんて誰が思おうか。
真実を知ることはない。だとしても同情を誘う哀しみのオーラを背負っていた。




