宝石の輝きの先に 25
最後の招待客が現れた。きっちりと着こなしたスーツはできるビジネスマンの姿。黒でもなく、ベージュでもなく、まさかの水色。水色のスーツ。シャツは青色。ネクタイは紺色。
顔立ちは整っており、男と言われれば美男子にも見え、女だと言われればボーイッシュなイケ女に見える。顔も声も中性的。初めに男性だとアナウンスされてなければ宇宙人だと誤解してたかもしれない。
「初めまして。私はジャック・オルレアン。国際魔術協会・宝石魔法研究所所長です。本日はお声がけいただき、誠にありがとうございます」
紳士的な人だ。
だけどどうにも身構えてしまう。
国際魔術協会の人間ってだけで緊張が走る。それは万国共通の認識。魔獣の殺し屋だとか、狂戦士だとか、魔獣絶対殺すマンとか言われるからだ。ひどいのは彼らがそれを自称してるところ。
人によってはプライベートの時でも殺気駄々洩れなもんだから、感情に敏感な子供は秒で泣き出したりする。
振り返って彼を見てみよう。物腰柔らかな印象。紳士的な態度。口調も丁寧でおだやか。柔和な笑顔は世の女性たちを熱狂させる、かもしれない。
全員が簡単な挨拶をしたのち、それではと切り出したのは暁さん。
フィアナさんが挨拶のために腰を上げようとして、それを制した。
「初めまして。紅暁です。フィアナが研究してる宝石魔法の出資をしています。彼女が使うほとんどの宝石や鉱石を提供しています。ちょっとした鉱山を持っておりまして、昨年は2トンほどの採掘量でした。しかし事情がありまして、これからの採掘量は半分以下になる予定です」
です。からの言葉が彼女の口から放たれない。
普通なら返す刀は『だから?』であろう。
では、なぜ採掘量の話しをしたのか?
齢15の青二才にも理解できる。出資者の意向に従え。でなければお前らに宝石魔法に使う石を渡さない。ということである。
これは国際魔術協会の実態を知っての脅し。と同時に、相手がどう出るのかを窺うための歯切れの悪い話し切り。
相手が下手に出てるとはいえ、国際魔術協会の人間相手に超強気。一瞬で緊張が走る。
ジャックさんは思考停止の末、一気に脳内フルマラソンを敢行。彼女の言葉の裏を読む。
冷や汗はない。むしろ楽しそう。
「2トンもの採掘量! それはすごいですね。暁さんとフィアナさんは出資者と研究者という立場とうかがっております。フィアナさんはベルン寄宿生で、精霊術師ですから、宝石魔法を研究してるのですよね。暁さんはどのような理由で出資をされてるのですか?」
良質な質問を繰り出す彼は、彼女にとってひとまず及第点の人物という評価になった。
「理由は3つ。ひとつ目は面白そうだから。新しいものにはいつもわくわくさせられる。どんなことが起こるのか。どんな未来が拓けるのか。楽しくて仕方がないっ!」
なんていい笑顔なんだ。まるで太陽のような明るい笑顔。屈託がなく、純粋に輝かしい未来に希望を持ってる。
「ふたつ目は冒険者の生存率向上に役立つと思ったから。攻撃手段は多い方がいい。それが、誰にでも使えて耐久力が高くて威力が強いなんて、夢みたいなアイテムだ。絶対に欲しいっ!」
暁さんが住む倭国は秘匿主義の強いお国柄。神秘の島にはいくつかのダンジョンがあるという。ダンジョンを探索する者を俗に冒険者と呼ぶ。暁さんは彼らを統括するか、支援する者なのか。
ティカと近い歳なのに、どういう人生を送ったら彼女ほどの覇気を放てるというのか。
めっちゃ興味がそそられるっ!
「みっつ目は、フィアナの夢を応援したい。宝石魔法の先、精霊との邂逅の先になにがあるのか見てみたいっ!」
暁さんは立ち上がって両腕を大きく広げた。応接室に差し込む窓の光が暁さんを礼賛するよう。
子供のように笑う暁さんを前に、ティカは初めて手を合わせて祈りたくなった。




