宝石の輝きの先に 24
「ところで」
と切り出したのはシェリーさん。暁さんの後ろに、どうしてペーシェさんがいるのか不思議でならない。
「ペーシェはどうして暁と一緒にいるんだ?」
「それなんですけど、昨日、暁さんがアルマから手紙を受け取ったそうで、あたしがワープの魔法を使えるようになったんで迎えに来てほしいと、ロリムから連絡をもらったんです」
「ワープの魔法が使えるようになった、だと…………ッ!?」
驚いて、論点はそこじゃないと気付いて話しを戻す。
「いや、ええと、つまり移動役として呼ばれた、というわけか。なるほど、理解した。ひとまず」
シェリーさんは両の手をパンッ、と叩いて意識を自分に集めた。
「アルマが魔導防殻を打ち抜いたことに決着がついた。それでいいな?」
「寛大なご処置、痛み入ります」
暁さんは再び大きく首を垂れた。
ひとまず嵐は去ったようだ。緊張で死にそうになったアルマも、肩の力が抜けてどろどろに溶けそうな勢い。
フィアナさんもほっと胸を撫でおろしてひと安心。
ティカもほっとひと安心。なにごともなく終わってよかった。
はふーっ、と安堵のため息を漏らしたペーシェさんが暁さんに提案する。
「せっかくですし、もしよろしければ宝石魔法の実験を見て行きませんか? 暁さんは出資者なんですし、そのくらいは融通利きますよね?」
ペーシェさんはフィアナさんにウィンクを飛ばす。アルマが宝石魔法に貢献できてると知れば、暁さんの溜飲も少しは下がるかもしれない。アルマに対する憤りを少しはやわらげられるかもしれない。
なんて機転の利く女なんだ。マルコの姉にしてサンジェルマンさんの娘なだけある。
「とても素敵なお考えですわ! 昨日はあんなことになってしまいましたが、ですが、宝石魔法自体は完成に向かいつつあります。これもアルマさんがいてくださったおかげです。先のフレイムスピアは冒険者さんたちにも気に入っていただける代物のはずです」
畳みかけるようにシェリーさんも援護射撃。
「ああ、内側からとはいえ、魔導防殻を打ち抜いてしまう破壊力には目を見張るものがあった。エイリオス騎士団長もレオ副騎士団長も手放しで褒めてたからなっ!」
なんとしてもアルマを失いたくない2人の言葉の裏に、アルマを許してやってほしいという思惑が見え見え。
言葉の上では決着したとはいえ、それはベルンと暁さんの間でだけ。アルマと暁さんの仲とは別物。
言葉の裏を察した暁さんは了承を伝えた。そこまで言うならと、断るのは無粋と納得する。
背筋を伸ばし、足を揃え、両手を膝の上に置き、首を垂れて出た言葉は、彼女たちの心を安心させるに足るものだった。
「どうかこれからも、アルマをよろしくお願いします」
続いてアルマも頭を下げて希う。
そうして頭を上げて、暁さんはアルマを抱き寄せて小さくつぶやいた。
「アルマ、本当に愛されてるな。この御縁、大事にするんだぞ」
罪悪感に苛まれた少女の心を癒すのに十分な言葉と、笑顔と、温かな眼差しは神々しさすら持っていた。
アルマは大好きな恩師の表情を見て、満面の笑みで返す。
よすよす。頭を撫でて、暁さんはもうひとつ、言葉を与えた。笑顔で。
「次に問題を起こしたら、贖罪ののちに留学を中断して強制送還だ」
数秒、時間が止まったように世界が静止した。




