宝石の輝きの先に 15
懺悔のために半泣きの少女をベンチに促し、落ち着いたところで口が開いた。
「宝石魔法に刻んだ特製のフレイムスピアをぶん投げたら、ストーンウォールと演習場の結界と森林地帯の樹木と魔導防核とお空の雲を貫通して飛んで行ってしまいました」
マジかーー…………。
どんな威力で飛んでったんだーー…………?
「フレイムスピアに貫通とスパイラルの魔法を付与しました。宝石が耐久可能な魔力量と練度量いっぱいまで出力上げてぶん投げました。大は小を兼ねる理論で」
「大が特大すぎて小を薙ぎ払っちまったか。それにしても3種類の魔法をかけ合わせた複合魔法とは。よかったら宝石魔法で使ったマジックアイテムを見せてもらってもいい?」
「もちろんです。ぜひともご覧になってください」
得意満面で渡されたそれは八角形の水晶。内包された魔術回路はフレイムスピアと貫通とスパイラル。それぞれが理想的な形で組み合わさり、無駄なく効率的な造形を成す。
芸術的と言ってもいい。一切の無駄を取り払い、攻撃力を研ぎ澄ました激槍。
なるほど。シェリーちゃんがレナトゥスに勧誘したのもうなずける。
数種類の魔法を同時に扱うのには慣れが必要。中途半端だと魔法と魔法の相乗効果がうまく発揮されない。それどころか、お互いの長所を殺し合う結果にもなる。
もう一度、宝石に刻まれた魔術回路を見てみよう。完璧に折り重なった3つの魔法は実践で洗練されてきた証。つけ焼き刃や机上の空論で組み立てたものじゃない。
この形を知っていて、本人が魔術回路に刻んだというのなら、宝石魔法無しの状態でも三重魔法が扱える証拠。
実務経験も魔力の練度も、魔法への造形も騎士団長クラスとは恐れ入る。
フィアナちゃんが研究してる宝石魔法も驚異的。
宝石に刻まれた魔法は魔力を流せば誰でも使用できる、魔術師垂涎のマジックアイテム。耐久力も威力も抜群。小さくて持ち運びに苦労しない。
まさかここまで研究が進んでたとは思いもよらなかった。実証実験は魔法兵科を専門とする第三騎士団も交えたほうがいいかもしれない。
状況を整理しよう。
一つ、魔導防核がぶっ壊された問題。これについては人的被害もなく、今後の課題が浮き彫りになったのでよしとしよう。
アルマちゃんが研究に参加することはレナトゥスも認可してる。ので、彼女個人の責任ではなく、安全管理を見誤ったレナトゥスのせいにできる。
一つ、宝石魔法の攻撃力高すぎ問題。場所と人員の採用を見直すことで改善できるでしょう。これに関しては朗報ですらある。魔導防核をたやすく貫く攻撃力があれば、大型魔獣に対抗する手段として申し分ない。
一つ、魔法研究職が集まる第四騎士団。団長のエイリオスおじいちゃんがベルンに帰国してること。ガッツ無限少年じじいがこのことを知ったらたいへんなことになる。
その時はもう、諦めるしかない。
「今しがた魔導防核を貫いた魔法を放ったのは誰じゃっ!?」
あ、やべえ。見つかる前に3人を隠しておきたかったのに、手遅れだった。齢90の行動力じゃねえ。




