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わくわくお忍び散歩

タイトルでなんとなく分かっちゃうと思いますが、お姫様が出てきます。

やっぱりファンタジーと言えばお姫様です。

それもおてんばなお姫様です。王道ですが面白いキャラクターなんですよね。

ついでに執事。セバスチャンです。おてんばなお姫様のために執事は超人になります。というか超人でなければ務まらないので、勝手にそうなるのだと思います。




以下、主観【シャルロッテ・ベルン】

 窓を開けて新緑の空気を部屋に取り込む。

 お城に住む私の部屋は城下と中庭の花々を見下ろせる絶好のロケーション。

 なんてすがすがしい春の陽気。柔らかな春の風が頬を撫でる。

 なんて素敵な日曜日。家の中に閉じこもってなんかいられない!

 午前の授業も終わったし、早めの昼食を終えてお散歩へと繰り出しますか。


 そのためには従者を呼ばなければならないわ。

 なんていったって私はお姫様。普通の人の散歩とはわけが違う。

 庭師が毎日毎日手入れをする豪華な庭園。季節の花々に囲まれた噴水には、芸術家が魂を込めて掘り出した彫像が並ぶ。

 誰もが見上げて羨む景色を独り占めしては、お姫様らしく花を愛で、木漏れ日の中でまどろみ、午後のティータイムを楽しむ。それがお姫様の優雅な生活。

 今日も今日とて執事とメイドを従えて、楽しいティータイムとしゃれこみましょう。


 お姫様の替え玉がねっ!


 老いた執事はセバスチャン。今となってはよぼよぼのおじいちゃん。20年ほど前までは、勇者とともに魔王軍と戦ったナイスシニアだったのだとか。今ですらシニアなのに、20年前もシニアとかいつまで現役なのでしょう。

 しかし屈強な過去は見る影もなく猫背になって、蓄えたヒゲと眉毛が垂れ下がっていた。

 幸いなことにボケてるわけでもないし、気が利くし、いつも私の唐突な要求には、『こんなこともあろうかと』と言って秒で差し出してくる。

 超能力者なんじゃないかと本気で思う。


 侍女 (アルバイト)にして親愛なる友、ソフィア・クレール。

 ひと回り年上の彼女は包容力も良識も、知識も経験も豊富。憎らしいことに胸も豊か。

 困った時は傍で支えてくれる頼もしい隣人。

 きっと私よりも先にお嫁に行ってしまう。それは仕方のないことなのだけれど、だとしても誰かのものにしてしまうのがもったいほどの良い女。

 それほどに私は彼女のことを気にいっている。

 いっそのこと本当の姉だったらいいのにと思ってしまうほどに。


 最後にこのお散歩の肝となる彼の名はジェイク・ドゥーチェ。

 数年前、避暑地に遊びに行った時、偶然出会った庶民の男の子。

 貧乏な生活に嫌気がさして家出したというので、心のままにキレると、私の檄にいたく感じいったらしく、その後、家族とも仲直りをし、土下座して私の傍で仕事をさせてくれとまで言うのでお試しで雇ってみたのだが、これが大当たり。

 ジェイクは私が出す無理難題を難なくこなし、最高の替え玉くんとして高給取りになったのでした。

 職務上は執事ということになってる。一応は。


「さて、遊び(お散歩)に行くわよ。セバス、ソフィア、ジェイク。準備はいいわね?」


 3人を見渡して、びっと指を差す。


「こんなこともあろうかと、いつもの場所にタクシーを用意してございます」

「さすがセバス。怖いぐらい用意周到ね」


 なんでお忍び散歩するってわかったのだろう。第六感のチャクラが開いて未来が見えるのだろうか。


「もう就業時間が終わるのですが、残業代は出ますよね?」


 疲れた顔で手を挙げたのはメイドのソフィア。


「あくまでプライベートだから出ないわ。ごめんね(てへぺろりん)

「……………………はぁ。半休とはなにか」


 ため息が聞こえた気がするけど気のせいね。


「いつも通りお任せ下さい。お帰りは何時頃を予定されてらっしゃいますか?」


 対してジェイクは元気いっぱい。私のために働けて幸せなのね (主観)。


「時間は未定よ。グレンツェンまで行くから、もしかしたら明日になるかもしれないわ。一応言っておくけど、女装用に用意してある下着や洋服以外を着たらぶっ殺すから気を付けてね」

「ぶっ殺されたくないので絶対着ません」


 困ったような笑顔で、やれやれ仕方ありませんねという顔をして準備に取り掛かる。

 少しは冗談を言ってくれたっていいのに。だけどそんな真面目で従順な性格のおかげで、お姫様が城を抜け出すだなんて無茶ができるのだから感謝しなくちゃ。

 それにしても、彼からしたら私のことはわがままな妹的な存在なのかしら。

 ちょっとでいいから女の子っぽい扱いをしてくれてもいいんじゃないだろうか。

 ラブまでいかないライクだけれど、そう考えるとなんだか女の子のプライドが傷つくわ。


「グレンツェンまでということは、何かお目当てのものがあるのですか?」


 ソフィアから当然の疑問。

 待ってましたのクエスチョン。


「おそらくフラワーフェスティバルで開催予定のキッチン・グレンツェッタでしょう。以前、動画で見た鯨肉が食べたいとおっしゃってましたからね。こんなこともあろうかと、今日、内輪で催されるイベントを調べて伝えておりますれば」


 セバス、知ってるからって横から入らないでくれますか?


「内輪で行われるイベントをどうやって調べたのかは聞きませんが…………それでは、さっそく出発の準備をしてきますね」

「そうだろうと思って、ソフィア殿の分の変装キットもクローゼットに用意しておりますれば」

「…………あっ。新品なんですね。てっきり私の家から持ち出したのかと」

「ほっほっほっ。さすがにそんな時間はありませなんだ」

「あったらやってたんですか?」


 しばしの沈黙。セバスは何事もなかったかのように視線を逸らした。


「それより早く出立されねば。予定時刻には間に合いますが、当日変更があるやもしれませぬからな」

「いつもいつもありがとうセバス。それからソフィアのために言っておくけど、私のためとはいえ犯罪行為はNGだからね♪」


 それから、と言葉を続けてセバスとジェイクに一礼を行う。お姫様という立場上、おいそれと誰かに頭を下げるというのはよくないことだ。

 それでも、私のために尽力してくれる人たちに感謝の言葉を贈らずにはいられない。

 自分の時間を、能力を、神経を、進退を天秤にかけて、私のわがままに付き合ってくれる。

 なんて恵まれた出会いなのだろう。

 こうまでしてくれる人が世界中に何人いるだろうか。


 私のお散歩という名の抜け出しは法に抵触するわけではない。

 しかし、それは王である父や私を愛してくれる人に対する裏切りでもある。

 無用な心配を呼び起こす火種になるのだ。

 だけど、それでも、私はみなが【普通】と呼ぶ日常の片隅を体感してみたい。

 お姫様じゃなくて、王族でもなくて、ただの女の子としての時間を過ごしたい。


 きっと結婚してしまえばこんなことはできない。

 だから今しかないのだ。

 こっそり抜け出して遊べる時間は今しかない。


 普通の暮らしの人々が、王族が堪能すると思うような豪華な暮らしに憧れるように、お姫様だってただの女の子に憧れるものですもの。

 周囲の人だって、その場に身を置いてるのなら全てを覚悟で働いてるはず。だったらお姫様が城を抜け出して、ひと時だけ羽目を外すってことも覚悟の上よね。

 心配するのが嫌なら私を止めてみなさいな。

 というのは、詭弁よね。

 心に思っていても、こういうことは口外しない。それができる大人の女。


 さぁさぁ時間も押してるし、クローゼットの中で変身しちゃうぞ。

 ガラスの靴を履いたシンデレラよりは時間に余裕はあるけれど、時間に追われる兎を捕まえるのはひと苦労。


 服は町娘的なカジュアルなスタイルに。

 毛先ふわりな金髪ストレートは癖っけの強い赤毛にヘアーチェンジ。

 変顔(チェンジングフェイス)で目元、口元、耳の形も別人に。あ、変顔って名前だけど、変な顔になるわけじゃないからね。顔を変身させるっていう意味だから間違えないで。

 胸元に缶バッジ。チェックのハンチング帽を被ればかわいい女の子の出来上がり。


 ソフィアは長い黒髪を茶色に変えて、後ろで結んで知的な女性に大変身。

 伊達眼鏡に白のつば広帽子で清楚感をアップ。

 さらに春色のワンピースで女子力もアップ。

 黒のヒールでセクシーさを足し算すれば、世の男どもの視線を独り占め。


 路地裏にテレポートして、用意してくれたタクシーに乗り込み、いざ、おいしいお肉っ!


 …………なのだが。乗り込んだタクシーは、普段、城から見下ろして見る色と全然違う。ベルンのタクシー会社はシルバーか黒で統一されてるはず。

 目の前の車体の色は真っ赤な赤。それに形も違う。タクシーというよりかはスポーツカーに似てる。似ているというかスポーツカーそのもの。

 それに助手席には誰かが乗ってる。ぐったりとして寝てた。寝てるというよりは、失神してると言ったほうがしっくりくる。

 シートベルトに縛り付けられてる女性。どこかで見覚えがあるような?


「あらあら、時間通りね。あなたたちがセバスさんの言ってた、キッチン・グレンツェッタに行く子たちね。一応、名前を確認させてもらってもいいですか?」


 幼なげな雰囲気が抜けきらないゆるふわレディがスポーツカーの持ち主。見た目に似合わずワイルドなのか。

 どっちかっていうと、かわいらしいピンクの小型車が似合いそう。


「あたしはジュリエット・ロマンス。こっちが友達のフレイヤ・パッショーネです」


 無論、両者偽名である。


「ジュリエットちゃんにフレイヤちゃんね。おっけ~。それじゃあ発進する前に、これを飲んでおいて。直線とはいえ、グレンツェンまでは距離があるから」


 車の持ち主であろう女性から手渡されたそれは酔い止め薬。なるほど、確かにベルンからグレンツェンまでは200km近くある。制限速度が80kmだから最短でも約2時間半の道のり。

 途中で吐き気を催すかもしれない。グロッキーになってしまっては、楽しいお散歩も台無しになってしまう。

 そうとは知らないにしても、女性タクシードライバーさんの心配りたるや感嘆に値する。

 こういう細かな気配りも、できる女の要素なんだな。


 シートベルトをしっかり締めて、いざ、楽しい楽しいお食事会へ!


「さぁ、それじゃあさっそくレッツゴォー! それにしてもタイミングが良かったですね。本当は昨日の内に出発しようと思ってたんですが、エンジンが無くなってて動けなかったんです。そしたらセバスさんが現れて、ちょうど新品のエンジンが余ってるからって貰っちゃったんですよー。代わりにあなたたちを乗せて欲しいって頼まれました。素敵な偶然ですね〜。それではでは、今日は1日、よろしくお願いします♪」


 私は表面上は元気よく挨拶をして、さも何も疑問に思わなかったような雰囲気を作り出す。

 そうと気付かれないように、青ざめるソフィアの顔を覗き込むと、悪い予感が的中したことを確信してしまった。


『エンジンが無くなった』


 聞き間違いではないようだ。きっとセバスがどういう方法かで、彼女の車のエンジンをぶっこ抜いたに違いない。そして、新品と交換で我々を同乗させる手筈を整えたのだ。


 超能力者を通り越して、サイコパスかっ!?


 やり方がギャグ漫画に出てくるとんでも行動をするボケキャラレベルだよ。

 しかも彼女が昨日のうちにベルンを出発するって何で知ってたんだ?

 あのおじいちゃん、未来予知でもできるのか!?

 出発する前にエンジンを取り出したのだろうけど、どうやったし。

 そしてなんでこの人は、都合よくこの車に合う新品のエンジンを知り合いのおじいちゃんが持ってたかについて疑問に思わないし。

 偶然で片付けていい問題じゃなくない!?


 どうりでおかしいと思ったよ。

 だってベルンから出るタクシーなんてないよ。遠いもん。

 定期的にシャトルバスが出てるし。変装ができるならそれに乗ればいいだけじゃん。

 そりゃあ乗車時間を自由に選べるタクシーの方が利便性に富んでるかもしれないけど…………てかタクシーじゃないし。私用車だし。


 いやいやそんなことよりも、問題なのは助手席で瀕死になってる人とハンドルを握ってる彼女。

 どっちも宮廷魔導士の人じゃん。どおりで見覚えがあると思ったよ。

 HPが0に近い人はユノ・ガレオロスト。15歳で宮廷魔導士寄宿生になり、17歳になると龍脈と魔獣に関する論文が評価されて宮廷魔導士見習いに登用。

 19歳になる頃には、先輩魔導士の助手を務めながら自らの研究を深化させ、その実績と貢献が評価されて最年少宮廷魔導士の称号を得た超才女。


 そして隣に鎮座ましましていらっしゃいますはマルタ・ガレイン。

 ユノ氏とまではいかないが、それでも22歳という若さで宮廷魔導士見習いになり、あと5年も研鑽を積めば正式な宮廷魔導士になると期待されている超新星。

 ユノさんとは違い、実戦派の彼女は攻撃魔法を得意とする。特に雷撃魔法に自信があるらしい。

 雷霆の姫巫女の異名を持つベルン騎士団第二騎士団団長と相性がよく、一緒に仕事をするほどの実力をも兼ね備えていた。


 しかし、問題なのは、問題なのは彼女がモンスターカー愛好家の父を持ち、彼女自身もその血を色濃く受け継いでいるということだ。

 一輪車から戦車まで、なんでも乗りこなすと言われるマルタ・ガレイン。まだ持ってないのは400tダンプとスペースシャトルの免許だけだと噂されている。

 ということは、ということはつまり、この車もヤバいのでは?


 一見するとただのスポーツカー。なのにボタン1つでモンスターカーに変身するという、ロマンスたっぷりな車をお持ちの遊び人は多いという。

 社交界で相手をする貴族のボンボンなんかに、『自分は凄いスピードの出せる車を何台も持ってるんだぜ』って興味もない自慢話をされたっけ。

 そういう車関係の話しで出てくるのがゴールド・ガレイン。マルタ・ガレインの父。彼の数多残してきた伝説を耳にタコができるほど聞かされた。


 ベルンでは改造車に関する規制が緩いからなぁ。

 なんせモンスターカー発祥の地だからなぁ。

 ぶっちゃけ、目の前のベルンからグレンツェンまでの直進コースはそのためのものだからなぁ。

 普通車とレース用のレーンがあるくらいだからなぁ。

 しかも、レース用の道路は許可証があればいつでも使えるんだなぁ。


 で、でもまぁ、改造車だとしても一般人を乗せてるわけだし、道路はレース用に特別に規制されてるわけではないし、大丈夫だよね。

 そんな無茶はしないよね。

 そんな心配に対して覚悟を促すかのように、ソフィア、もといフレイヤは私にあるひとつの事実を告げるのだ。


「私の記憶が正しければ、キッチン・グレンツェッタで行われる解体ショーって、午後の2時だよね。つまりあと1時間以内にグレンツェンに到着しないと間に合わないと思うのだけど…………」


 不安の入り混じった疑問を運転席の女性に投げた。

 キャッチした言葉が刃付きで返ってくる。


「大丈夫。安心してください。1時間くらいで着く予定ですので。駐車は市外だからそこからは徒歩だけど、十分間に合います♪」


 生返事を返して、同時に頭の中で算数をしてみた。

 200kmの道のりを1時間で踏破しようとすると、いったい何キロの速度を出せばいいでしょうか?

 時速xキロをあてはめてみる。えーっと…………時速っていうのは1時間で進むことのできる距離だから――――――あーなるほど超簡単。

 答えは時速200kmってことだね。


 うん、完全に理解した。

 彼女が間に合うと言った理由も。

 これから私たちが受け入れなければならないであろう未来も。

 セバスが彼女を選んだのも…………全て。


 とりあえずアレだな。

 胸の前に手を組んで祈ろう。

 この旅路の無事を。

 今ここに鼓動する命に感謝を。

 そして、無事に戻ることができたなら――――セバスを殴ろう。


 マルタさんの右足が踏み込まれた。加速と同時に重力の衝撃が精神を穿つ。

 魂を置き去りにして、肉体だけが走り出したかのような錯覚を覚えた。

マルタ・ガレインが連続で登場しました。

最初は普通にバスに乗ってグレンツェンへ向かう予定でしたが、それだと面白くないなぁと思って、セバスチャンにエンジンをぶっこ抜いておいてもらいました。

彼女は免許マニアで暇があれば乗り物の免許を取りに行っています。

いつかさらっと出そうと思っていますが、グレンツェンとベルンでは自転車に乗るためには免許が必要です。分類上、あくまで車両という扱いなので、自転車に関する法律やルールを義務講義で学びます。


外国の自転車文化は詳しくありませんが、少なくとも日本における自転車のルールが徹底されていないことに関する警鐘になればいいなぁ、なんて考えています。

知らなかったで通らないのが世の中です。自分と相手の身とお互いの将来を守るため、交通ルールを守る前にまず知りましょう。知ってないと守りようがありませんからね。

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