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星に願いを

照明、エアコン、扇風機、スマホ、etcetc...。

この世はボタンだらけであると。いや、いい意味でです。素晴らしいことだと思います。

ワンタッチでなんでもできる時代。今は話しかけたら言葉通りの行動を実行してくれるってんですから凄い時代が来たもんです。

作中の小鳥遊すみれは、風呂は薪、ご飯はお釜で炊く、掃除は箒、照明は吊るしてある紐カチカチ引っ張るという、高度経済成長期の古き良き田舎っていう感じの生活から飛び出してきた少女なので、これからも衝撃と目移りの日々が続きますよ。




以下、主観【小鳥遊すみれ】

 夕暮れも近づき、ティレットさんたちとお別れして新たな我が家へ戻る。

 大量の買い物を自室に運んで、片付けるより先に夕飯を食べた。

 みんな初めてのことばかりで疲れてる。それに、キッチンの使い方もマスターしなければならないので、今日のところはスーパーの惣菜コーナーからおいしそうな物を選んでレンジでチン。


 箱に入れてボタンを押すだけで食べ物が温まるなんて、まるで魔法みたい。

 5人は窓から見えるほんのり明るい個室を覗いて料理を見守る。

 本当にあったまるのか。オレンジ色の光が点いただけで、特に変わった様子はないのだけれど、中ではいったい何が起きてるのか。

 終わりを告げる音が鳴って扉を開けると、隙間から湯気が漏れ出てきた。

 ごろごろ野菜のスープカリーはおいしそうにふつふつと私のお腹を誘惑する。

 温かくなった。本当にアツアツになってる。凄い!

 こんな便利なものが世の中にあるだなんて知らなかった。

 世界は驚きと興奮で満ちてるんだなぁ。


 お湯を淹れてボタンを押すだけで、冷たい水が沸騰する電気ケトル。

 ボタンを押すと部屋が明るくなる室内照明。

 ボタンを押せば、部屋に暖かい風や冷たい風を送って温度を調節するエアコン。

 まるでこの世は、ボタン1つでなんでもできちゃうんじゃないかといわんばかりのボタンの多さ。

 夕飯そっちのけでキキちゃんが部屋中のボタンを押しまくる。


 風が吹いたり止まったり。

 部屋が明るくなったり暗くなったり。

 インターホンの応対ボタンを押してみたり。

 好奇心が彼女を突き動かす姿は微笑ましく思える。

 ひとしきり満足すると、嵐が過ぎ去ったように静かになって、もくもくとご飯を食べ始めた。

 なんていうか、とっても自由奔放で無邪気なんだなぁ。

 それをそばで支えるお姉さんのヤヤちゃんは妹のことが大好きなんだな。


「すみれお姉ちゃんはスープカリーが好きなの?」


 アルマちゃんの言葉からは、食べてみたい。気のせいか、そんな声が聞こえた気がした。


「ううん。初めて食べるんだけど、お野菜がいっぱい入ってて、綺麗だったからおいしそうだなーって。アルマちゃんのそれは?」

「これはムールフリット (蒸しムール貝とフライドポテト)です。そしてこれにマヨネーズをかけるとさらにおいしくなります」


 黄色いソースをうにょにょと絞り出してジャガイモに添えていく。ワイン蒸しされたムール貝をジャガイモと一緒に刺し、大きな口へ放り込んだ。

 お互いのご飯を取り換えっこして、オススメのマヨネーズとやらを試してみる。ワイン蒸しされたムール貝のふわっとした上品な香りと、ほくほくのフライドポテト。濃厚でコクの強いマヨネーズと相まって、口に入れた瞬間からおいしい。

 噛めば噛むほどムール貝の旨味が広がって2度おいしい。


 スープカレーはピリ辛スープと甘みの強いカボチャやパプリカと相性抜群。そこへアルマちゃんの魔の手が伸びる。

 マヨネーズが…………マヨネーズが襲来してきました!

 マヨネーズはなににかけてもおいしいよ、と言うけれど、とりあえずそこは好みで。

 辛いカリーにマヨネーズを入れるとマイルドな味わいになる。だけど突然奇襲されるのはちょっと困る。

 しかし満面の笑みの彼女にそんなことを言えるはずもなく。私はただ食べ続けるのであった。

 でもおいしい。


 ご飯の後はお風呂の時間。なのだけれど……使い方が全然わからない。

 今までは薪に火をくべて桶に湯を張っていた。お風呂場と言って紹介された部屋は見たことのない形。

 薪をくべる穴と思ってた空間は排水口。

 お湯を張るらしき凹みは木製じゃない。

 こんな空間でいったいどうやって体を洗うというのか。

 辺りを見渡すと、また例のあれが突き出してる。


 ボタン!


 どこもかしこもボタンだらけ!

 この世はボタンによって作られ、ボタンによって支配されてるのではないか。そういえば、トイレにも何やらボタンらしきものが便座の隣にあった気がする。

 いやいやちょっと待って。

 必ずしも敵とは限らない。

 今日のこれまでにボタンにお世話になってきた。困ったことになんてなってない。むしろ大助かりだ。

 きっとこれもそうに違いない。快適な暮らしを実現してくれる友達に違いない。


 ぽちっとな。

 天井から勢いよくスコールが直撃。絶叫!


「すみれさん大丈夫ですかッ! すごい悲鳴が聞こえてきましたけど!」

「空から……空から雨が降って来た!」

「これは……あぁ、このボタンを押されたのですね」


 ボタンに裏切られて驚愕する私。

 臨戦態勢のアルマちゃん。

 冷静に状況を観察するヤヤちゃん。

 呆然と立ち尽くすキキちゃんとハティさん。


 殺人現場を見渡すように壁、床、天井、そして問題のボタンを見つめ、人差し指を突き立てたヤヤちゃんのドヤ顔が炸裂。

 さっき押したダイヤル式ボタンはシャワーの水を流すもので、本来はダイヤルを左右に回し、温度を調節したうえでボタンを押すのだそう。

 お風呂のボタンも湯沸かし機能から屋内乾燥まで取り揃えられていることを解き明かした。やっぱりボタンは味方なのだ。

 使い方を間違えてしまっただけだったんだ。

 よかったよかった。


 ともあれ、うまく操作ができる自信がない面々の心情を慮って、ヤヤちゃんは説明も兼ねて一緒にお風呂に入ることを提案する。

 誰かと一緒に背中を流すなんて初めてで、裸を見せるのはちょっと恥ずかしいけど、これから寝食を共にする、家族みたいな仲なんだからいいよね。

 それに、こういうふうに大勢で一緒に何かをすることに憧れていた私としては、なんていうか、上手に言葉にできないけど、すっごくドキドキする!


 下着よし。

 パジャマよし。

 バスタオルよし。

 心の準備よしっ!


 いざ、未知なる世界へ!


 露天風呂を待ち遠しくしていたキキちゃんは湯船に浸かって星を眺める。ヤヤちゃんも一緒に星を眺めてくつろいだ。

 ハティさんはアルマちゃんの髪を洗っている真っ最中。アルマちゃんはハティさんのことを心から尊敬していて、人生の師匠だと自慢する。

 物腰柔らかで、女性らしくて、優しくて、穏やかな表情は神々しく見えた。


 髪を洗ってもらってるアルマちゃんは、お昼に見た時より一段といい笑顔をしている。

 両腕のないアルマちゃんは、魔法で道具を動かして体を洗ったり食事をこなしたりできる。ないからこそ、こうやって誰かに頼って頼られたりすることの素晴らしさを知った。

 それはとても素晴らしいこと。とっても幸せなことなんだって話してくれたのは本当みたい。

 だから頼って、頼られて欲しいと言われた時は、必要とされてるようで嬉しかった。私を認めてもらえたようで心が温かくなった。

 きっとアルマちゃんも、こんな感覚が微笑ましくて、愛おしくて、大事にしてるんだろうな。


 露天風呂に体を沈め、見慣れない不思議な光景に驚きと、ドキドキをもって我思う。

 島を、おばちゃんたちと離れてしまったのはとても寂しい。だけど、そこには新しい出会いがあって、素晴らしい出来事が起こって、刺激的な素敵が待っている。

 ただこうして、みんなで星を眺めてリラックスしてるだけなのに、胸が高鳴るのはなぜだろう。

 やっぱりまだ言葉にできないけれど、いつかきっと言葉にできたらいいな。


「すみれさんはこういうお風呂に入るのは初めてなのですか?」


 体を洗い終わったヤヤちゃんが隣に来てくれた。


「うん。今までは薪に火をくべて沸かしてたから。ボタン1つ押しただけで温かい雨が降ってきたり、湯船に水を張ってお湯を沸かしてくれるなんて想像もしてなかった」

「実は私もなんです。こういうハイテク機器の取り扱いは初めてで。でも固有魔法(ユニークスキル)のおかげで苦労しなくて済みそうです。しかし私もできないことは沢山ありますので、何かあったら頼らせて下さい。私のことも、遠慮なく頼って下さい」

固有魔法(ユニークスキル)?」

「ヤヤはねー、すっごいんだよ! 見たものが何でもわかっちゃうの!」


 次はキキちゃんがやってきた。双子にサンドイッチされる。ちょっと楽しい。


「ヤヤちゃんの固有魔法は見れば(ビューティフル)分かる(・ビュア)。さっきみたいに、ボタンを見れば、それがどんなものかが分かるんです」


 体を支える両腕のないアルマちゃんは湯船に入る時、まずは魔力で水の上に立ち、ゆっくりと体を湯船に浸けていく。

 まるで忍者のようだ。


「ええ、ですからこの家の電化製品はもとより、使い方が分からないことがあったら言って下さい」

「すごいすごいっ! ヤヤちゃんすごいっ!」

「うん。ヤヤは立派なお姉ちゃんだね」


 ハティさんも湯船に浸かる。と、湯船の水が一気に溢れた。体積が大きいからお風呂に入るとお湯が増えたように感じる。

 ちょっと楽しい。


「そんな、私はこの中では一番年下なので。その、よろしくお願いします」


 頼れるお姉ちゃんと言われた嬉しさと恥ずかしさで赤面するヤヤちゃんがかわいい。

 頼るのはいいけど、頼られた時はどうしよう。私にできることってなんだろう。まだわからない。分からないけど、これから見つけていけばいいよね。

 幸せで胸がいっぱいになると、海の向こうの景色を心に描いて空を見上げ、心の中でつぶやいた。


 あぁ、お星様、お星様。

 どうかよろしくお伝え下さい。

 あなたを見ている、遠く離れた私の大切な人たちにお伝え下さい。

 私を大切に育ててくれた人たちに。

 愛して私を生んでくれた両親に。

 すみれを生んでくれてありがとう、と。

 すみれは今、とっても幸せです、と。




~~~おまけ小話『チャレンジ!』~~~


アルマ「総菜コーナーにはいろんな料理があったね。仕入れによって毎日違うみたい。今日選ばなかったサラダが明日もあったらいいんだけど」


ヤヤ「素揚げの野菜のサラダもおいしそうでした。今度はあれが食べてみたいです」


キキ「キキはねー、キノコたっぷりのグラタンが気になった。今度はあれを食べたい。すみれさんはほかに気になったのはある?」


すみれ「総菜もなんだけど、箱とか袋に入った料理らしきものが気になった。中身がどうなってるのか気になる。今日開けたやつはかぼちゃのスープ。中身が粉だった。お湯を注いだらちゃんとかぼちゃのポタージュだった。グレンツェン、すごすぎるっ!」


ヤヤ「透明な袋に入ったお菓子もいっぱい置いてありました。棚いっぱいに。信じられません。全部食べてみたいです!」


ハティ「全部食べてみたい。1個ずつ食べていこう」


すみれ「せっかくだから郷土料理が食べてみたい」


キキ「いいですね。総菜コーナーのお姉さんに聞いたんだけど、天然酵母を使ったバゲットがちょ~おいしいらしいよ。電車に乗って遠出してでも買いに行くんだって!」


ヤヤ「それはぜひとも食べてみたい。ふっくらカリカリのバゲットにあまあまなジャムを乗せて♪」


すみれ「ガーリックバターも捨てがたいね」


キキ「キキはサンドイッチがいいな。カリカリベーコンとレタスと卵♪」


ハティ「お肉をいっぱい乗せよう」


アルマ「アルマはアンチョビとアップルバターを乗せたい。あまじょっぱくておいしいと思う」


すみれ「あまじょっぱくはあるかもだけど、それっておいしいの?」


アルマ「多分!」


キキ「どうなるか分からないけど、どうなるか分からないからやってみよう! レッツ・チャレンジっ!」




暁「後日、アルマはとても後悔するのだった」

家に露天風呂。いいですね。願望全開ですね。

ノズルシャワータイプじゃなくて、天井からシャワーが出てくるとかセレブかよって感じですね。

作中では紹介していませんが、ヒートショック対策に風呂場を暖めるスチーム機能もあります。

天井はマジックミラーで曇り止めがしてあります。バブル機能や微弱な電気も流せます。浴室乾燥機能は本当に便利ですね。雨の日でも洗濯物が干せます。でも備え付けの洗濯機はドラム式で乾燥機能がついている設定なので使う機会が少ないかもしれません。

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