宝石の輝きの先に 8
アルマたちの目の前に、普段は滅多におめにかかれない品物が燦然と輝く。
占い師が持てば、威厳を高める証に。
貴族が持てば、格式を示す輝きに。
町娘が持てば、一目置かれる存在に。
それが今、消滅しようとしているっ!
「もったいなくないですか?」
カルティカの庶民的発言に、フィアナさんは苦笑いで返す。
「だからこそ、宝石魔法は研究されてこなかったのです…………」
地球が生み出した唯一無二の輝き。それを無に帰すリスクは大きすぎる。
宝石というだけで価値があるのに、リスクを伴う加工を誰がしようと思うだろうか。
目を細めたカルティカが、追い打ちをかけるようにつぶやく。
「金持ちの道楽」
一般ピーポーから見てそれは明らか。お金持ちのフィアナさんも例外ではない。
「暁様から託された宝石。ひとつとして無駄にはできません」
「大丈夫です。暁さんは宝石に興味ないです。先日の通り、客人が来ても装飾はおろか、私服での対応でしたから」
ほんと、よくまぁアルマに着たきり雀と言えたものだ。毎日毎日、同じような袴しか着てないっていうのに。
気を取り直して現物を確認しよう。
ひとつは水晶。パワーストーンの世界では、『水晶に始まり、水晶に終わる』と言われるほどの地位を獲得している。
2つ目は紫金石。一般的にブルーゴールドストーンと呼ばれる人工石。人間の作った石であるが、きらきらと輝く砂金石は輝きが控えめだということで人気がある。
ゆえにパワーストーンとして認められてる石なのだ。
3つ目は花崗岩。花崗岩とひと言に言っても、内包物によって多くの分類に分かれる。今回、サンプルとして採用されたのは御影石と呼ばれる類のもの。
アルマの見識から言うなら、墓石に使われてるやつである。なんかちょっと複雑。
4つ目は、ご存じダイヤモンド。4Cの評価基準の中でもそれなりにいい物を用意したらしい。わかってはいたが、いざ宝石を目の前にすると緊張する。これ1個でモツがどれだけ食べられるのか。
5つ目はスフェーンと呼ばれる宝石。聞いたことはないが、フィアナさんによるとダイヤモンドを凌ぐ屈折率を誇り、今大注目の宝石なんだとか。
そんなものを宝石魔法に使用するとか、大丈夫なのだろうか。
「今回はこれらで検証しようと思いますわ。古来から魔法石と呼ばれ敬われている水晶。人の作った人工石である紫金石。世界中のどこからでも採掘される花崗岩。宝石の代表格、ダイヤモンド。くさび型の結晶構造を持つスフェーン。結晶構造の違うそれぞれの石を同じブリリアントカットにしました。これらに同じ魔術回路を刻み、効果のほどを検証してまいります」
「ここで華恋さんの見地の出番ですね」
ここでカルティカのつっこみが入る。
「華恋って誰?」
そりゃそうだ。カルティカは知らない異世界の住人。
「華恋さんは宝石職人なの。エディネイの角飾りのデザインも華恋さんがまとめたんだよ。元のデザインはリィリィちゃんだけど、それを実際に形にしたのが華恋さん」
「エディネイがこれみよがしに見せつけてくる角飾りのことか。たしかにあれ、ちょー綺麗だよね。その人も宝石魔法が使えるの?」
「宝石魔法ってか、ユニークスキルが関係してる。その人は宝石に願いを込めることができる。今までは無意識にやってたんだけど、意識するようになってどういうふうに魔法を込めるかが分かってきたんだって。だからどういうふうに魔法を宝石の中に入れてるのか聞いてきた」
「おぉーっ! それ、値千金の情報じゃん!」
「しかし、これには問題があるのだっ!」
「問題、だとっ!?」
そう、魔法が達者では到達できない領域。
クリスタルパレスに共通する、知識の問題。




