宝石の輝きの先に 6
フィアナさんの自室はアルマが想像する通りの、まさに貴族の部屋というような内装。
煌びやかで、だけどすっきりと整理されていて無駄がなく、刀の本質にも似た研ぎ澄まされた美しさを感じた。
秋用のふかふかカーペット。
天蓋付きのベッド。
金糸を織り込んだタペストリー。
整理整頓された机上には職人が情熱を込めて作った筆記用具がずらり並べられている。
部屋を見渡して、アルマの無意識が探すは本棚。フィアナさんの本棚にはどんな蔵書が収められてるのか。気になって気になって仕方がない。
吸い込まれるように本棚の前に立ち、上から下へと嘗め回す。
お気に入りの御伽噺の本。魔法の指南書。薬学書。偉人の伝記。鉱石図鑑。ジュエリー本。植物学の本。伝統工芸に関する図鑑。恋愛本。純愛小説。純愛小説。純愛小説。純愛小説。純愛小説。純愛小説。純愛小説。純愛小説。純愛小説。純愛小説。純愛小説。純愛小説。純愛小説。純愛小説。
なんだこのほぼピンク色の壁はっ!
金と白を基調にした部屋の本棚に、パッションピンクが埋まってた。
これにつっこみを入れるとアルマのMPが消耗しかねない。ここは無視が合理的。背後にお気に入りの純愛小説の話しをしたくてたまらないオーラを放つ怪物がいても、無視しなくてはならないっ!
「それではさっそく、宝石魔法のお話しとまいりましょうっ!」
振り向きざまに叫ぶと、なぜか肩を落としてがっかりするフィアナさんがいた。なぜか意気消沈してる。もしやすると、スイーツでお腹いっぱいでそれどころではないのかもしれない。ないのかもしれないっ!
「そ、そうですわよね。宝石魔法の研究を進めましょう」
声のトーンが低い。ヘリで楽々帰宅したとはいえ、サマーバケーションのあとなのだからお疲れなのかもしれない。お疲れなのかもしれないっ!
窓際に北欧家具と、揃いの椅子が2つ。そこにフィアナさんがいつも使ってる机から椅子をひとつ持ってきて、フィアナさん、アルマ、カルティカの3人が机を囲む。
天上まで届きそうなちょーーーー長い窓から差し込む光は、カーテンの光によって柔らかく差し込み、フィアナさんの作った資料を照らしてくれた。
「宝石魔法。古より在りながら、未知の部分を多く残した秘術。ついに我々は閉ざされたベールの先へと赴こうとしています。そこで、まずは目的の再確認を行います」
目的とは、『願い』である。
こうなってほしい。ああしたいこうしたい。そうであってほしい。人類が望む最終地点。フィアナさんの願望は――――。
「わたくしが宝石魔法に求める目的は、精霊界に赴き、彼らと友達になること」
子供っぽい夢。だけどそれこそが彼女を突き動かす原動力。
「素敵です。アルマも精霊さんたちとお友達になりたいです。そして精霊界に伝わる魔法を教えていただきたいっ!」
人間と違う存在なら、人間と違う魔法が使えるかもしれない。
人間と違う感性なら、人間と違う魔法を生み出したに違いない。
「アルマさんもとっても素敵な願いだと思います。さて、次は目標です」
目的のための目標。階段で言えば、目的が屋上であれば目標は踊り場。ひとしきりの段階と結果が得られるステージを示す。
「ひとまずは、『低位の魔法の行使』です。これについては現存する魔法で確認がされています。我々はそこからさらに一歩踏み出して、どの宝石がどの魔術回路に適しているのか。内包する魔力の色に依存するのか。結晶構造に依存するのか。振動数は関係しているのか。4Cは魔法の威力、精度、練度、耐久力に関係するのか。これらの疑問に答えを求めます」
ここで勢いよく手を挙げたのはカルティカ。
「4Cってなんですか?」
「いい質問ですね!」




