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魔獣来たりて、ぶっ殺す 8

「今年のベルンで開催されるオータムフェスティバルに、アルマたちはパレスミステリーを開催するのだっ! お題目は5つ。【お菓子の家】【勇者カブトの冒険】【ミストタウン】【いたずら小妖精(フェアリー)とお化け屋敷】【ヘラクレスの塔】。クリスタルパレスの魔法で構築した建造物に魔法で作ったギミック盛りだくさんのアトラクション。ベルンにあるエキュルイュ所属の職人さんとか、芸大の学生さんとか、スイーツ店の人とか、いろんな人を巻き込んで、世界中の人々に笑顔を届けるのだっ!」


 鼻高らかに笑うアルマの言葉を補足するように、ペーシェさんが現況報告をする。


「もうほとんど実証段階に入ってるんだよね。元々あった技術を流用できるから、箱は速攻で組み上がったって。内装は芸大の人たちが、ハードのギミックはベルン公立高校のミステリー研究会が、ソフト面のギミックはアルマが担当したんだよね?」

「その通りです。みなさん面白いアイデアばっかり出してくれるので、わくわくしっぱなしですっ! アルマはあんまり小説って読まないんですけど、ミステリー研究会が担当した【ミストタウン】のストーリーが本当によくできてて、最後のどんでん返しと結末にはあっと言わされました!」

「あれはあたしも感嘆したな。ものすごく上手に作り込まれてて、伏線を伏線って気づかせないさりげなさはプロの技って感じだった」

「ちょっと待ったーっ!」


 カルティカがアルマとペーシェさんの会話に割って入った。口を塞ぐようにして手を前に突き出す。


「それ以上、興が乗るとネタバレしそうなのでそのくらいで! 面白いのは後にとっといてください!」


 カルティカの心配は最もだ。でも大丈夫。その辺はわきまえてると諭して苦笑いしてみせる。


「そんな心配しないで。期待感を煽ってるだけだから」

「それはそれでなんかヤダ!」


 そういうもんなの?

 よくわからないが、ミストタウンの話しはこのくらいにしておこう。

 次にがっついてきたのはアクエリア。お菓子の家に食らいつきたいみたい。


「その話しをする前に、子持ちのライラさんにセールスしたいから席を移そう。ランチを持って」


 なぜなら、お菓子の家は小さい子供のいる家族向けのアトラクションだからだ。

 料理を持ってライラさんのところへ行くと、例にもれず、ケインくんとフィオンくんがランチを堪能してた。満面の笑みに癒される。


「お、アルマたちじゃないか。魔獣討伐ご苦労様。私になにか用か?」


 ライラさんはサンドイッチをピンチョスのようにして、多種多様なお肉とスパイスの組み合わせとお酒を旦那さんと楽しんでる。


「お菓子の家にぜひともお越しくださいっ!」

「急にどうした? そしてお菓子の家ってなんだ。詳しくっ!」


 掴みは上々。隣に座って語りましょう。


「お菓子の家とは、オータムフェスティバルで開催するパレスミステリーのひとつです。小さなお子さんのいる家族向けのアトラクションで、お菓子の家に住むお菓子の妖精たちからお願いされるミッションをクリアして、彼らのおやつを作っていきます。最後にお礼として、小袋に入ったキラキラなお菓子をもらうという流れです」

「なんだそのファンシーでガーリーな世界は。絶対に子供が喜ぶやつじゃんっ!」

「大手お菓子メーカーが2社、スポンサーについてくれました。仲介してくれたシルヴァさんとグレンツェンの飲食店組合の方々とヘンリーさんには感謝感激です!」

「まさかの(身内)が絡んでるやつ!」

「出口の先には協力会社のショコラやベルガモット・フレイが作ってくれた、秋の食材を使ったスイーツを並べてガーデンテラスにします。そちらで極上の紅茶とスイーツをご堪能ください!」

「最後に恐ろしく現実的な営業を入れてきやがった! 子供にスイーツをねだらせて買わせるスタイルじゃん。やりかたがえげつねえ。だがそういう情と理を持ち合わせたアルマのやり方は結構好き!」

「ありがたき幸せっ!」


 おっと、カルティカや他のボーイ&ガールたちはアルマのことを守銭奴を見るような目で見てるぜ。

 だが、利潤を求めることは悪ではない。

 今回のやり方は自分でもかなりえげつないとは思ってるけどね!


「ま、まぁ……子供たちからしてみれば、夢のような体験のあとにおいしいスイーツが食べられるなら、とても素敵な思い出になると思います」


 アルマに好意的なベレッタさんがフォローを入れてくれた。あざす。

 ちょっと顔が引きつってるように見えたのは気のせいでしょう。


「うちの兄貴も飲食店を経営してるけど、それ聞いたら爆笑しそうだわ……」


 シェンリュから謎のフォローが入った。とりあえず、誉め言葉として受け取っておこう。


「いま、ショコラが協力してるって聞こえたんだけど?」


 ショコラファンのアクエリアが食いついた。圧がすごい。


「スイーツカフェの運営にあたって、【アトリエ・ド・ショコラ】【ベルガモット・フレイ】【紅葉庵】【ルゥリエ】【フィエリテ】の5店舗が新作スイーツを提供してくれることになったよ。スポンサー企業は乳幼児のお菓子を作ってる【ペティテ】。“ドライフルーツで人生に潤いを”がキャッチコピーの【モイスチャーフルーツ社】の2社」

「すっご。どっちもみんな知ってるお菓子メーカーじゃん。人脈が金脈という言葉が骨身に沁みる。で、どんなスイーツが出るの? 極上の紅茶って言ったけど、リリさんとマルグリットさんが来るの!?」


 アクエリアの圧が相変わらずすごい。鼻息が荒い。顔が近い。とりあえず距離をとって落ち着いてもらおう。


「スイーツはまだ試作段階らしいから分からない。リリさんとマルグリットさんは今のところ参加予定」

「リリさんとマルグリットさんって誰?」


 アクエリアの隣にいたフィティがアクエリアの導火線に火を点けた。


「リリさんとマルグリットさんは紅茶のエキスパートなの! 彼女たちは紅茶マイスターを持ってるスーパーレディーなんだから! 彼女たちが淹れた紅茶を飲んだら、もう他の紅茶なんて飲めないんだからね!」

「あれ、前にティーパックで紅茶飲んでなかった?」


 不遜な言葉を口にしたマルコの顔面にアクエリアの渾身の一撃が炸裂。

 なにごともなかったかのように振り返って話しを続ける。いつもの猫なで声芸は置き去りだった。


「で! お菓子の家のカフェテラスはアルバイトの募集をしてるの!?」

「本題はそれか。残念だけど募集はしてない。意見交流も兼ねて、それぞれのお店からスタッフが派遣されることになってる」

「ガッ!?」


 硬直して、優秀な頭脳が爆走する。


「意見交流するなら、スイーツ店のスタッフだけじゃなくて、ユーザーの意見も交流させたほうがいいんじゃないかな?」

「そうきたか。アルマはそのへんに意見する立場にないからなんとも言えないな。でもさ、オータムフェスティバルって、ベルン寄宿生一年生の歓迎会と親睦会を兼ねたイベントの企画があるじゃん。それはどうするの?」

「ガッ!?」


 オータムフェスティバルは寄宿生にとって結構大事なイベントのはずなんだけど。絶望の淵に叩き落されたアクエリアの脳内にあるシナプスが全力で仕事を始めた。

 そして、満面の笑みで仲間たちにこう言うのだ。


「1人くらい抜けてもぉ~、問題ないよねぇ~♪」

「「「「「おいッ!」」」」」


 秒で断られた。

 アクエリアは音速で反論する。


「だってだって、これを逃したらシルヴァさんと一緒に仕事できる機会なんてないんだもん!」


 すかさずフィティが反論。


「いやいや、そういう問題じゃないでしょ。一応、あたしたちはお給料もらって勉学に励んでるんだよ? 一般的な公立校とか大学ならともかく、レナトゥスはそういう機関じゃないから。今だって、実際は給料が発生してるわけだし。実績出せなかったら除籍なの、忘れてないよね?」

「ぐっ……………………」

「え、そうなの?」


 そういやなんかお金が出るって言ってた気がする。

 しかし実績を積まないと除籍になるのは初めて聞いた。そりゃ勉強しながらお金が貰えるなんて旨い話しないわな。


「そうなると、いよいよサボタージュしてよそ見してる暇なんかないじゃん」


 しょんぼりするアクエリア。ここでアルマの商売人としての顔がひょっこりぽん。アクエリアに恩を売っておけば、なにかしらよい見返りがある可能性は高い。

 彼女はサンジェルマンさんの英才教育を受けたマルコを差し置いて、寄宿生一年生のクラス委員長。アクエリアを釣り上げるということは、その他大勢の大魚がくっついてくるということ。

 餌を撒いておいて損はない。ふふふのふ♪


「アルマがまたいやらしい顔をしてやがる」

「失礼なことをっ!」


 まったく、フィティには困ったもんです。親しき中にも礼儀あり。言わなくてもいいことは言わなくていいんですよ。


「ねぇねぇ、アクエリア。今年のハロウィンって、ちょうど休みじゃなかったっけ?」

「え、えっと、うん。今年のハロウィンは休みだから、グレンツェン(実家)に戻って家族サービスするつもり」

「シルヴァさんから聞いたんだけど、ハロウィンの日はスタッフもお祭りに出かけたがるから、人数が足りなくなったらアルバイトの募集をかけるんだって。当日限りのワンデーアルバイトだけど」


 伝えると、アクエリアは目を見開いて沈黙。あまりの衝撃の事実に、たったひと言だけを言い放った。


「マ?」

「ま」


 ほんとにひと言だった。


「シルヴァさんに連絡しなきゃ!」


 ダッシュで電話をかけた。行動力がすごい。

 いつものおっとりふわふわ女子は見る影もない。

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