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魔獣来たりて、ぶっ殺す 4

「まずはキバーランドから本土までの直線上を驀進。イルカのエコーロケーションで探査して、違和感がないか探るよ!」

「細かいことは分からんが、そのへんのあれこれは任せた!」

「エディネイは目視確認よろしく!」

「時速80キロで海中を走りながらなにかを探せるかどうかは分からんが、頑張ってみる!」


 島を離れて約2キロ到達。しかし違和感を感じるようなものはない。時々海面ジャンプをして水面に浮かぶブイのようなものがないか探すも、それらしい影はひとつもない。

 かわりに、後方遠くに我々を追いかける影を見つけた。さすがエリート集団というべきか。2日程度でほぼ完璧にメタフィッシュを使いこなすとはさすがのひと言。


 奴らより先に紋章を見つけ、誰よりも先にキバーランドへ戻り、超速でシェリーさんが生成したゴーレムをぶっ壊して一番になるのだっ!


 がっ!

 どういうわけかなかなか見つからん。

 そんなに難しいところに隠してるとは思えないのだが。

 シェリーさんが鬼だから。容赦ないから本気で隠してるのか。魔法的な迷彩でもかけてるのか。もしや、チェックポイント自体が動いてるとか?

 考えすぎかもしれん。しかし可能性は考慮しなくてはならない。


「仕事中のシェリーさんのことはほとんど知らないんだけど、シェリーさんの性格からして、どういうところに隠してると思う?」


 エディネイに問うと、首をかしげて眉間にしわを寄せた。


「シェリーさんが物を隠すとか、そういうの考えたことないから見当もつかん。シェリーさんの場合、隠すというより、見つけられるところにはあるけど、距離が遠くて水深の深いところに置いてるんじゃないかな。堂々として難易度が高いってイメージ」

「アルマの印象もそんな感じ。そろそろ本土とキバーランドの中間地点なんだけど。あんまり進みすぎるとリゾートエリアに入っちゃう。さすがに一般人がいるエリアにチェックポイントを設置してないだろうから、そろそろ旋回してみるか」

「どっちに旋回する? 西側と東側にしても確率は半分なわけだが」

「ふっふっふっ。こんなこともあろうかと、きちんと手札は用意してあるのだよ」

「手札?」


 広く深い海を探索するのに有効な手段はやはり人数の多さ。というわけで、アルマは秘密裏にディピカ&フィティチームと手を組んだのだ。

 彼女たちに東側を、アルマたちが西側を探索。どちらかがチェックポイントを見つけたらお互いに知らせるという手筈なのだ!

 アルマの作戦に隙無し。完璧な作戦である。


「こちらアルマ。フィティはなにか見つけた?」


 念話を飛ばすとフィティから返答がきた。


『こちらフィティ。ティカが鮫の嗅覚で探してるけど、それらしいものは見つからない。どうぞ』

「アルマは超音波で探知してるけど違和感らしいものはなし。そろそろ一般エリアに近づくから旋回してキバーランド方面へ向かおうと思う。アルマが西側、ティカたちに東側の探知をしてもらいたいんだけど、どうかな? どうぞ」

『オッケー! 二正面作戦を決行しよう。オーバー』

「というわけなので、アルマたちは西側を探索します」

「アルマの念話を聞いてたわけじゃないから、どういうわけなのか知らんが分かった」


 これはタッグ戦。しかし、効率を取るなら談合もやむなし。

 他のチームが同じようにしてるか知らんが、アルマは暁さんの背中に学び、敵も味方にして利用するのだ。


「だけど一番を取る確率が下がるんじゃないか? フィティたちに先を越されるんじゃ」


 心配するエディネイに安心を与えよう。


「全部で8チーム。つまり敵は7チーム。7チームのどれかがアルマたちより先にクリアする確率と、アルマを含めた2チームが先に到達する確率を天秤にかけたら、手を組んだほうが合理的。もちろん、それでも先を越される可能性はあるけどね。それを考えたらキリがないから」

「なるほど。たしかに人海戦術で探したほうが効率いいわな」


 エディネイの疑問が晴れたところで探知に集中。

 するとすぐに違和感に気付いた。アルマたちと同スピードで潜航する物体を発見。距離はかなり遠いものの、キバーランドから一般エリアに向かって進んでる。

 一般エリアの人間がレジャーをしてるわけではない。彼らは決められた区画から外に出ることはない。

 他チームの寄宿生でもない。アルマたちが最も外側を泳いでる。影はさらにその外側から南下してる。

 おそらくキバーランドを中心に円を描くように動いてたのだろう。なるほど、チェックポイントは動く系だったか。運のいいことに他の連中には気づかれてないみたい。

 つまりアルマたちが最初の発見者。

 つまりアルマたちが一番にゴールできる可能性大。

 とりあえず協力者のフィティチームに連絡しよう。


「こちらアルマ。チェックポイントらしきものを発見。目標はキバーランドからリゾートエリアへ南下中。時速およそ50キロで移動中。これから接近する。どうぞ」

『こちらフィティ。チェックポイントの発見了解。アルマの魔力反応を追跡して合流する。オーバー』

「フィティたちもこっちに来るって。とりま移動してるチェックポイントを追跡しよう。接触すればいいだけなのか、なにかをもぎ取ったりするのか、もしかするとチェックポイントをぶっ壊す必要があるかもだしね」

「にしてもだよ。水中を移動できるほど軽量のゴーレムなんてシェリーさんは作れないだろ」

「魔法生物なんじゃない? ユノさんもベレッタさんもいるし」

「魔法生物か。フィアナもいるし、その可能性はあるな」


 魔法生物。動物の形を魔法で造形する魔法。簡単な命令を与えることもできる。視界を共有して索敵することもできる。練度の高い魔力で生成できれば、海中を高速で移動させることもできる。

 数人の術者で構成すればより強力な魔法生物を生み出せる。キバーランドに残ってる人たちは、サンジェルマンさんを筆頭にみな魔法の扱いに長けた人たちばかり。

 龍脈の魔力が満ちる海だってなんのその。ぜひともアルマも魔法生物を生成する輪に加えて欲しい。


 時速70キロで接近。ここで妙な違和感に気付く。一般エリアまで残り数キロ。だというのに、チェックポイントは減速も進路変更もしない。このままでは一般エリアに突っ込んでしまうのではないか。


「おかしいな。リゾートエリアを避けるなら、そろそろ進路を変更してもおかしくないのに。西側の遠洋に出るとキバーランドから離れるから、アルマたちがいる東側に進路変更してランデブーすると思ってたのだが」

「こっちに来る気配がないな。競泳みたいに反転してキバーランド方面へ帰るんじゃないか?」

「それならいいんだけど。万が一のこともあるから速度上げるよ。エディネイの魔力ももらうね」

「おうよ。レナトゥスの魔術を疑うわけじゃないが、念には念を入れておかないとな」


 これより数分後。アルマたちがたいへんな目に遭うことを、まだ誰も知らないのであった。


 ★ ★ ★ 【シェリー・グランデ・フルール】


「誰も、帰ってこないな」


 マーガレットたちになかばむりやり着せられたおしゃれ水着を輝かせて仁王立ち。私は地平線を眺めながら寄宿生たちの帰りを待つ。


「どうしましょう。この調子だとお昼ごはんの時間を一緒にできそうにありませんね」


 レナトゥスが食事の依頼をしたすみれが心配そうに尋ねてきた。予定では13時頃にトライアスロンを終えてランチ。そのまま荷支度を済ませて帰路へ着く。その際、すみれたちも一緒に連絡船に乗せる手筈。

 つまり、彼らの演習が終わらないとすみれたちも帰れない。彼女たちに急かされてるわけじゃない。が、しかし、彼女はあくまで一般人。迷惑をかけるわけにはいかない。


「うぅむ。チェックポイントを地下洞窟にしたのは意地悪だったかな」

「灯台下暗しというやつですね。逆に難しかったのかもしれません」


 今回のサマーバケーションで印象的な出来事だったから、彼らとしても最初に訪れて、無かったら遠洋へ探索に出かける。そういう流れで動くと思ってた。

 するとどうだ。全員本土めがけて疾走していった。こうなるとしばらく戻ってこれんかもしれん。

 うぅむ。こんなはずでは。


 正直言って、私も腹が減ってきた。


「シェリーお姉さま! 今日のランチはすみれさん特製のサンドイッチですよ!」


 マーガレットから暗に『お腹減った』のサイン。


「す、すまない。寄宿生たちがいつ戻ってくるか分からないから待機なんだ。先に食べててくれ」

「ぐ、ぐぬぅ……」


 マーガレットは唸って砂浜に大の字になって倒れた。彼女なりの不機嫌を全力表現。

 見かねたライラさんがマーガレットを持ち上げて空へ掲げた。


「ゴーレムを作るのはあいつらが帰ってきてからだろ。それまでサンジェルマンに監視させとけばいいじゃないか」

「自分では、ないんですね」

「子供がいるからな」


 そりゃそうかもしれませんが。


「僕なら問題ないよ。嫁もグレンツェンに帰ったし、今は特にやることはないからね」

「そ、そうですか。それではよろしくお願いします」


 サンジェルマンさんの厚意で監視を交代。マーガレットは満面の笑みを咲かせて手を引いてくれた。

 まんざらでもない。気の置けない仲間たちと楽しくランチ。素晴らしいじゃないか。

 すみれの料理はどれもおいしい。今日のランチもみなを労うと言って、初日同様に数十種類のソースと各種パテ。レタスやピクルス、色とりどりのチーズを用意してくれた。

 さながらサンドイッチバイキング。どの組み合わせにしようか迷ってしまう。

 パテは自分で焼くスタイル。熱々ジューシーなお肉を包むサンドイッチなんて初めてだ。

 楽しみだなっ!


 よし。そうとなれば彼らが戻ってくるまで堪能しようじゃないか。

 今、寄宿生たちが海の上でたいへんなことになってるとも知らず、我々は楽しいランチに舌鼓を打つのだった。

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