雀がどこかへ逃げてった
麻雀回です。
作者が麻雀を好きなので、どこかでやりたいと思っていました。
本格的なやつじゃありません。
麻雀は確率のゲームです。何が起こるか分からないので面白いですね。
特に確率を相手にするゲームは、とても理不尽な現実を突きつけられるので、負けるのが嫌いな人とか確率にバランスを持ち込むタイプの人には難しいかもしれません。
以下、主観【ヤヤ・ランヴィ】
晩御飯を済ませてしばらくくつろいでると、お菓子を携えたティレットさんたちがお越しになられた。
なんでも、お昼に会った際、麻雀をして遊ぼうと約束をしたらしい。
なので炬燵の中に足を入れてお菓子を広げた。
ソファーの前にある机は掘り炬燵にもなる仕様。肌寒い日なんかはおこたの中でぬくぬくと温まる。
まさに魔性のアイテム。
ひとたび入ってしまえば抜け出すことは極めて困難。
ひと通りのルール説明をしてもらい、じゃらじゃらと牌と呼ばれる四角い石をかきまぜたのち、山と呼ばれる塊を積み上げる。
順番は反時計回りに、山から牌を引いてきて、1つ捨てて手持ちの13牌を整理していく。
1・2・3のように順番に並んだひと塊。1・1・1のように同じ数字のひと塊。これらをそれぞれ4つ作って、頭と呼ばれる同じ数字か文字を繋げたものを揃えることでアガることができる。
通常は手持ちが常に13牌。そこからさらに、誰かが捨てた牌、あるいは山から引いた牌の1牌を含めた14牌でアガる条件を満たしていれば勝ち。
ざっくり言うとそんなゲーム。
4人かあるいは3人で1つの卓を囲んで遊ぶ。
テーブルゲームが大好きなティレットさん。
麻雀の経験が豊富というすみれさん。
よくこのゲームに付き合ってるというウォルフさん。
そしてわたくしこと、ヤヤがお送りいたします。
私はこのゲームをするのは初めてですが、説明も丁寧にしていただいて、さらには固有魔法・見れば分かるの能力で初めての卓上遊戯の特性も丸わかり。
私の固有魔法は人や物、魔法を問わず、状態や特徴、どんな過去をもって生きてるのかも分かる。
人であればその人が何を考えてるかも分かる。言動の本質も見ることができる生粋のチート能力。
勿論、むやみやたらに使用はしないよう心掛けてる。こんな代物を持ってると悪人に知られれば、悪用しようという輩が出てきてもおかしくはない。
金庫の解錠の方法から、あの子の好きな子まで知れてしまう。
キキを守るために発現した能力とはいえ、末恐ろしいですな。
この能力を使えばどんなゲームにだって勝利することはたやすい。
しかしそれではイカサマをしてるのと同じだ。そんな無法をするほど心は腐ってない。
遊びとはいえこれは社交場と同義の席。後々のことを考えても、使用はルールの把握に留め、『ヤヤちゃんは飲み込みが早くて凄いのね』と褒められる程度がお互いのためなのだ。
ふふふのふ♪
ゲームを始めた時はいつも通りそんな風に考えてた。緊急時でもなければ自分の固有魔法を使う場面なんてそうそうない。そう思っていたのに――――この時はまさか、ユニークスキルを連発するだなんて思ってもみなかった。
そしてこのゲームが併せ持つ確率という名の理解不能な現象に、私は頭を悩ませていくだなんて微塵も予想してなかったのだ。
ゲームが始まって、流れを掴みながら徐々に慣れていく。
ここまではいい。確率のゲームと言うのなら、妙にすみれさんの手が良いというのもありうることだろう。
しかし異変に気付いたのはゲームを始めて小一時間が経った頃。ウォルフさんがおトイレに行って牌を倒し、呆然と全体を眺めた時のことだった。
すみれさんの捨て牌の中身に違和感を感じる。
何かがおかしい。
さっきまでの様子とは少し違うような。
なんだろう。1枚多く捨ててるとか、順番がずれておかしな並びになってるとか、そういうのではない。
何か見落としてるような、そんな違和感。
手が止まったところを見計らい、キキが素直な疑問をティレットさんに投げかけた。
「ねぇねぇ、なんで棒がいっぱい並んでるのは竹なのに、なんでこれだけ雀なの?」
「なんででしょう。もしかしたら麻雀って、はじめは麻竹で作られたのかもしれませんね。名前の中にも雀って入っていますし、竹藪に雀がちゅんちゅん鳴いている景色も風情がありますわ。それに、竹が1本だけだと少し寂しい感じもします。だから雀をあてはめたのかもしれませんわね」
「そっかー。キキはどっちかっていうと、雀は丸焼きにして食べたいなー」
「えっ、ま、丸焼きですか?」
雀の丸焼き。タレをつけて頭からぷちゅっと……って、それはともかく。キキの何気ない指摘で思い出したことがある。
すみれさんが捨てた上段右端の牌。たしかあそこには雀の牌があったはず。それが今は豆腐のように白い牌が置かれていた。
記憶違いだろうか。いや、雀を捨てた時、キキがちゅんちゅん鳴いたから間違いない。
…………牌がすり替わっている!?
いつの間に。プレイヤーが4人もいて、ギャラリーもいるこの観衆の中、堂々と、そう、イカサマなんてできるものなのか。
一流のギャンブラーは一瞬の隙をついてイカサマを成功させるという。よりによって人を騙すなんてことから最も縁遠そうなすみれさんがそんなことを?
いや、いやいや何かの間違いだろう。
とりあえず口外しないにしても確認のために《見て》みよう。
これですみれさんの潔白が証明されるはず。
この白い牌はどこから来たのか。それを見れば一目瞭然。
普通に手配から捨てたならよし。そうでなければ、信じられないがイカサマをしているということになる。
結果は…………黒!?
この白い牌はすみれさんが対面の山から引っ張って来た際、雀の牌と入れ替えるように手の中でスライドさせて置かれている。
そんな、まさか、バカな!
虫も殺せないような顔をしてなんということを!
まさか見間違いではないか。しかし何度見ても結論は黒。
我々が気付かないうちにイカサマをやってのけた。
正直言って、彼女をそんな不遜なことをする人として見たくない。見たくないし、場の空気に水を差すこともしたくない。
だからここは黙っておこう。何も見なかったことにしよう。
「どうしたのヤヤちゃん。このお菓子、あんまり甘くなかった?」
どうしたもこうしたもねぇーーーーーーーーッ!
よくもまぁそんな、そんな平然としていられますねッ!
本当の悪人は善人面をしてるという。
まさかそれが目の前に現れるとは。
こんなところに小悪魔が潜んでいたとは。
もうやめて。そんなふうにすみれさんを見たくないんです。
ゲームが続行して当然のようにすみれさんがアガる。
そして当然のように手配に雀が鳴いていた。
わぁー、この人、もしかして麻雀とか勝負事となると問答無用?
引きつりながら点棒を彼女に渡し、山を積み上げ直す。
自然な手つきでかき混ぜながら、適当に選んで積み上げる。のだが、またここで違和感。
かき混ぜるとなると、不意に誰かの手が当たったりする。こういう時、それは当然のこととして起こるのだから、いちいち謝ったりはしない。
それはいい。それは気にしないのだが、すみれさんの手が当たった瞬間、何か変な感覚があった。
なんだろうこの違和感。
まさか、まさかここでも?
脳裏を穿つ閃光。
次はすみれさんの親番。
親番の時はいつも早いリーチを仕掛けていた。
それは単純に、山から持って来た最初の手配が綺麗な形に成ってるということだ。
効率厨の自分からすれば、それはとても理に合わぬ現実。
しかし確率というものは理論を無視する時がある。
それに勝つ時というのは、息をするように平然と勝ち続ける。
理解できないことに、これを人は《流れ》と呼ぶ。
そんなオカルトがあるわけない。
そう頭では思っていても、現実に起こってしまうのだから仕方がない。
仕方がないと言って自分を無理やり納得させるしかないのだ。
暁さんはこういう理解できないものについて寛容になるよう、『ヤヤは無駄と思うことを積極的にしてきなさい』と言った。
無駄なことに意味があるという理屈に無理があると思うも、他でもない暁さんの言葉だから我慢している。
このゲームもコミュニケーションツールの1つと思えば無駄ではない。
しかし、将来において意味があるのだろうか。その点について無駄ではないかと疑ったから、こうして掘りごたつに足を放り投げているのだ。
世の中、無駄なものは贅肉だけだ。
暁さんの口癖がよぎり、違和感の正体を探るべく、躊躇なく固有魔法を発動。さっきの感覚に無駄がないというのなら、すみれさんは何かをしている。何か意味のある違和感。
するとどうだろう。彼女は牌をかき混ぜる最中、自分の欲しい牌がどこにあるのかを把握。自分の手元にかき集めているではないか。
思い出してみれば、すみれさんの親番で振るサイコロの目はいつも5か10。
この出目の数によって、最初の手配を決める山が決定する。5であれば自分の積んだ山から。10であれば右側の山から摘み上げていく。それはつまり、必ず彼女の積んだ山を崩すということ。
もしも仮に、すみれさんが山の中身を狙って欲しい牌を並べているとしたら。
5の時も10の場合も親の山から親が8牌を持ち出す。つまり好きな牌を手持ち13牌の半分以上で始められるということ。
そんなことをされたら勝てるわけがない。
運よく別の人がそれより早くアガることもあるだろうけど、確率的に言って圧倒的にイカサマをしているすみれさんが有利。
なんという悪鬼。
なんという勝利への欲望。
しかも賽の目まで操作されてるなんてことになれば、もう太刀打ちできるはずがない。
しかも百戦錬磨のイカサマテクニック。絶対に本性を明かしたりボロを出すはずもない。
しかも我々は素人の集団。そういうことに免疫はない。脳裏の外の出来事。イカサマなんてものは漫画やアニメの世界の住人だと思っている。
しかも誰もすみれさんがそんなことをするだなんて夢にも思ってない。
なんてことだ。
無理ゲー。
無理ゲーでしかない。
イカサマを指摘したところで証拠はない。誰も信じてくれるはずがない。そうなれば、疑いを掛ける私がおかしな子として見られてしまう。
駄々を捏ねる子供だと決着が着くのがオチだ。
仮に信用されたとしたらすみれさんの立場が危うい。この麻雀以外でそんな悪鬼羅刹な性格は見てとれない。日々の行いも純粋な心から出たものだと確信している。
いや待て、この確信こそ彼女の策略なのでは?
でもそんな様子はない。ハティさんやアルマさん。キキだって彼女を信用している。
あぁ~、私はいったいどうすれば。頭を抱えがっくりとうなだれて、結果、見なかったことにしようと結論付けた。
私1人がスルーしてしまえば問題はなくなる。
世の中には見なくていいものがあるというのに、それを見ようとした自分にも責任があるのだ。
だから黙って、牌を捨てよう。
私は考えるのをやめた。
「ロンっ! チットイ・ホンイツ・ドラ3。親の倍満で24000点」
ふぶわぁッ!?
まだ、まだ3枚目を捨てたところなのに。なんでそんなに出来上がってるの?
みんなは凄い凄いと彼女の強運を褒め称えてるけど違います。
運も凄いけど技術の方がよっぽどです!
それにしても同じ牌を2枚ずつ揃えないといけない手で、しかもホンイツで、さらにドラと赤牌を持ってるってどういう確率?
イカサマしてるとはいえ、そんな出来レースあります?
サンマならともかく4人打ちでホンイツ?
3巡目でチットイとドラが乗ってるのはまぁ三千里譲っていいとしよう。
ついでにホンイツ?
3巡で?
イカサマをしていても、任意で手元に持ってこられる牌は8牌。残りの5牌ないし6牌は他人の組んだ山。たにんの……くんだ…………やま…………で、なかったら?
もしも、かき混ぜている最中に、牌の並びを変え、私たちが山に積み上げるために手元に並べる癖を見抜いているとしたら…………………固有魔法発動ッ!!
――――してるッ!
小指で牌を飛ばしたり、ティレットさんやウォルフさんが山を積む時に、雑な感じで手渡したりした時にも、故意に自分の欲しい箇所に欲しい牌を流している。
つまり、彼女は最初から全ての牌を操作していたのだ。しかも両隣は自分の手配を整理するのに精いっぱいな鴨2匹。
当然、イカサマの仕込みを手伝ってるだなんて微塵も思ってない。
ダメだ。ここまでされたら白旗を上げるしかない。
まるでサンドバッグ。サンドバッグにされた気分だ。
ただ打たれるためだけに存在している。
手配を操作し、サイコロを握りつぶし、ドラ表示牌まで思いのままにひっくり返す魔性の女。この女性の前では全てが徒労。無力。圧倒的に無力。
分かっていても止められない。暴力的なまでの嵐。荒波。熱風。
いまだかつてこれほどまでに絵にかいたような出来レースを経験したことはない。
失望とか、怒りを通り越して、もう、なんていうか、今日のことは忘れて寝たい。
でも最後にどうしても知りたいことがあった。これほどまでのことをして、彼女は一体何を思うのか。
してやったりと思っているのか。
優越感に身を浸して悦にいってるのか。
誓おう。見たとしても決して口外はしない。
誓おう。何を見ても後悔だけはしないと。
固有魔法・見れば分かる発動ッ!
『今まで年近い人と一緒に麻雀ができるだなんて思ってなかったけど、やっぱりすっごく楽しいなぁ。イカサマをしてるのは後ろめたい気持ちではあるけれど、今日くらいはすごーいって言って褒めてもらってもいいよね。でもこれが終わったらネタばらしをしておかなくちゃ。それまでちょっぴりだけ、この空気を楽しんじゃおう』
うううううううううおおおおおおぉぉぉおおうおうおおぉぉうぉうおぉううぅぅぅッ!
彼女の心の声が私の胸を貫く。
ささやかな願いを胸に抱いて、少しばかりの幸せを願ってる。
方法は問題だけど。
彼女の胸中を知ってしまったらもう何も言えない。そうとなれば私もピエロを演じるほかないようです。
全てを悟るのであれば、全てを赦す心を持ちなさい。暁さんはきっと、これを言いたかったんだな。
多分。おそらく。
それからも彼女は、面白いように秘技を炸裂させ、場の注目を一身に集めました。
理牌をしている最中の燕返し。
山を作りながらの積み込み。
山の麓を整える名目でエレベーター。
他山への千鳥。
息をするように何度も行われる拾い。
この人、想像以上に容赦がない。
かわいい顔をして躊躇も容赦も一切無い。
鮮やかかつ大胆に行われるイカサマの数々。
これはもうアレなのでは?
この事実を知って、これを見ている私はある意味、運が良いのでは?
正常な感覚がゲシュタルト崩壊を起こし、心が安らかになっていくのを感じる。
あぁ、暁さん。私は今、貴女の言葉の意味を理解した、ような気がします。
~おまけ小話『食べたいのは自分』~
暁「ほほう。面白い人と一緒に暮らしてるんだな」
ヤヤ「面白くて料理上手で、思いやりもあって素敵な女性です。イカサマには驚かされましたが」
暁「逆に言えば、大切な人を守るためなら容赦も一切もしないということだ。良い出会いに巡り合えたな」
キキ「すみれさんは本当に料理上手なの。お菓子もすっごくおいしくって幸せ。料理もいっぱい教えてくれるんだよ」
アルマ「毎日おいしいご飯をいただいてしまって、本当に感謝の言葉しかありません。バランスのよい食事を考えてくれて、魔法の研究に没頭できます。マジで。あ、もちろん、時々はアルマも料理しますよ。アイシャさんよろしく、強くて料理のできる女はいい女ですからねっ!」
アイシャ「わぁ! アルマさんにそう言ってもらえると嬉しいです!」
暁「料理も愛嬌もあるのか。ぜひとも礼を言いたいものだ。グレンツェンで行われるフラワーフェスティバルにはあたしたちも参加するから、その時にじっくりと話しを聞かせてもらおうじゃないか」
アルマ「その時はぜひとも空中散歩にもいらっしゃってください。それと、みんなチーズが大好きなので、手土産はチーズが喜ばれます。チックタックさんのチーズが絶品なのでそれが欲しいです。ほんのり炙ってとろ~りチーズが食べたいです!」
ヤヤ「とろ~りチーズもいいですが、私はチーズケーキが食べたいです。あま~いチーズケーキが食べたいです!」
キキ「ヤヤ、甘い物はほどほどにね」
今回はヤヤが主観で進みました。
彼女は固有魔法のおかげで何でも知ることができるため、日々、遠回りなどをすることはなく、一直線にモノゴトの正解を掴みとってきました。それはそれで素晴らしいのですが、それでは寄り道をするタイプの人の気持ちが分からないし、殆どの人間は色々と回り道をするものなので、留学を推した暁はヤヤに無駄と思えるものをしてこいと言いました。
効率厨のヤヤには最短で正解を導くことこそ正義であると信じているので、少し納得はいっていませんが、無駄なことをするために精進していきます。




