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シューティングスター・ティアドロップ 20

「ねぇ、ヤヤちゃん。ここに置いてあったワイングラスって、どこに行ったか知らない?」


 未成年のヤヤはお酒を飲んでない。かつ、ユニークスキルで行方を追える。ベレッタはそれを見越して尋ねた。


「そういえば、いつの間にかなくなってます。グラスを交換した時に引き取られたのでしょうか。でも中身の入ってるグラスは回収されないは、ず――――ッ!?」


 つまり、誰かが飲んだ!?


 ベレッタは、ヤヤがワインの中にどんな魔法を仕込んでるのか知らないと思ってる。だからこれ以上、彼女を巻き込むことはできないと思い、『ないならそれで大丈夫』とだけ呟いた。

 ヤヤは自分のユニークスキルのせいで、ワインの中に悪辣な魔法が仕込まれてることを知ってる。だから、ベレッタがもう大丈夫と言ったところで大丈夫ではないことを知った。


 マーリンとベレッタがアーディに対して仕込んだ(ワイン)。アーディが飲んだなら、それはそれでよし。知らんぷりをしても、責任はマーリンとベレッタが被る。

 しかし、もしも、彼以外の人が飲んでたら?


 知らん顔では許されない。少なくとも自分自身を許すことができない。

 間髪入れずに固有魔法(ユニークスキル)【見れば(ビューティフル)分かる(・ビュア)】発動!


 誰がワインを飲んだのか。その人の腹の中で蠢く悪辣な魔法のありかを探す。

 アーディとユーリィではない。体は正常だ。むしろアーディが飲んでてくれれば万事解決だったのに。

 マーリンとベレッタではない。仕掛け人が盛った毒を仕掛け人が飲むはずがない。ベレッタだけは良心の呵責に耐えかねて服毒する可能性があった。しかしそうでもないらしい。

 ガレットでもない。うっかり飲んでしまったとかでもなかった。

 すみれとイラも違う。彼らが卓につく前にワイングラスはなくなってた。

 ルーィヒも飲んでない。体調はいたって万全。ペーシェのせいでメンタルは不調。

 絶不調のペーシェはどうだろう。カクテルを飲み、すみれのピッツァを食べて少し調子を取り戻した。自称腹黒の素敵レディのお腹は真っ黒。


 ――――――――真っ黒ッ!?


 蠢いてる。ワイングラスに内包されていた意地悪な魔法が、機を窺うように渦巻いてる!


 解呪(ディスペル)しなくては。

 でもどうやって?

 自力では不可能。ヤヤはディスペルの魔法は使えない。

 マーリンとベレッタに懇願してディスペルしてもらうべきか。しかしそうすると、彼女たちの謀略を阻止することになる。もしかすると嫌われるかもしれない。

 だからって、見て見ぬふりをすると暁に嫌われるかもしれない。


 どうすればいい!?

 なにが正解なんだ!?


 悩み抜いた末、ヤヤが下した決断は――――。


「ペーシェさん、これを使ってください」


 紙袋を手渡した。目を逸らして。


「これは、紙袋? どうしてこんなものおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」


 手渡した瞬間、ペーシェの胃袋からなにかがこぼれ落ちた。あたかも滝のように流れ出すそれを紙袋(滝壺)に落として絶叫。


「「ぎゃああああああああああああああああああああああああッ!?」」


 次に絶叫したのはマーリンとベレッタ。自分たちが差し向けた毒が、最もあってはならない景色を作ってしまった。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああッ!?」


 続いて叫んだの小鳥遊すみれ。自分が作ったピッツァを食べた直後に吐き出した。まさか口に合わなかったのか。伝統的なピッツァから足を踏み外したから、体が拒絶反応を起こしたのか。

 理由はわからないけどとにかく大惨事。


「うわああああああああああああああああああああああああッ!?」


 最後に発狂したのはユーリィ・サッドマッド。もしも自分が飲んでたら、彼女のようにリバースクライシスしてたのか。危ないところだった。ってか、惚れ薬じゃなかった。

 それはともかく、無関係の第三者に毒が回ってた。いつの間にかグラスの中身が空になってたから、ベレッタがこっそり捨てたものとばかり思ってた。

 目を離した一瞬の隙にペーシェが飲み干したなんて誰が思う。


「すみませんっ! 私が、私がマルゲリータに余計なものを入れたからっ!」


 すみれ、全くの的外れ。


「い、いや、マルゲリータはめちゃくちゃおいしかった。そうじゃなくて、これは、ええと、ちょっと疲れてたのかも」


 ペーシェ、必死の弁解。リバースした時、彼女は魔法のせいだと認識した。ディスペルが間に合わず、すぐさま吐いてしまう。

 すみれに気を遣わせないように、涙目の三色髪の少女をなだめた。


「だから言ったのに。疲れてるなら休めって。それとヤヤちゃん、ありがとうね。こうなるのが分かったから紙袋を渡してくれたんだよね。さすがヤヤちゃんは気が利くなぁ」

「そ、そんな、こんなことしかできなくて。すみません」

「なにも謝らなくていいんだな。リバースするのに、できることなんてこれくらいのもんだから」


 ルーィヒ、的を射るも的から矢が外れる。

 たしかにヤヤはこうなることがわかった。だけど親切心からきたものではない。なにもできない自分の無力さに対する罪悪感ゆえの行動である。

 本当は毒入りワインを発見した時から強硬手段をとることはできた。この結果は自分の優柔不断な性格と、嫌われたくないという子供心ゆえのもの。

 それを加味してもヤヤは立派にやりおおせた。きっと暁も褒めてくれる。


「ペーシェちゃん、ほら、水飲んで口をゆすいで。椅子に座って。落ち着いて深呼吸しよう!」


 マーリン、必死の介護。


「紙袋はわたしが処理しておくから。わたしので申し訳ないけど、カーディガン羽織って体を温かくして。なにか欲しいものがあったら遠慮なく言って。ね?」


 ベレッタも必死の介護。


「あぁ~、なんかめっちゃ優しくされて……ささやかなしあわせ…………」

「「……………………」」


 プラス思考のペーシェを前に、マーリンとベレッタは今にも吐きそうになる。マッチポンプもいいところ。2人は土下座するタイミングを失った。


 口の中をゆすぎ、おぼつかない足取りでバーベキュー会場をあとにしたペーシェはおとなしくベッドに入る。

 瞼の裏に浮かぶの片思いの彼の楽しそうな笑顔。

 素敵な彼女ができて、始終楽しそうにしてた。それだけで満足だ。自分には分不相応な恋だった。

 いつか自分にも、よいめぐり合わせがあるに違いない。その時まで自分を磨くのだ。全ての挫折を未来の糧に。

 素晴らしい未来があると信じて。


 ペーシェの頬に、一筋の流れ星が落ちた。




~おまけ小話『ピーチカクテル』~


ベレッタ「なんでわざわざワインをピーチカクテルにしたんですか!? ペーシェが間違って飲むかもしれないじゃないですか。実際、飲んじゃいましたよ!」


マーリン「皮肉のつもりだったのよ。彼女の大好きな桃を加えたピーチカクテルにしてやれば、私たちの真意がわかるんじゃないかと思って。単純に嫌がらせ。ちなみに、ヤヤちゃんは分かってた?」


ヤヤ「え、あ、はい。マーリンさんとベレッタさんがアーディさんに頼まれて恋の応援をしてたことも、アーディさんがペーシェさんに片思いだったことも。お二人になんの相談もなく、ユーリィさんとくっついたことに腹を立ててたことも」


マーリン「すごいね、ヤヤちゃんのユニークスキル。考えてることもお見通しとは。お菓子あげるから内緒にしてもらっていい?」


ヤヤ「え、いや、いいです。怖いです」


マーリン「大丈夫! 毒なんて盛ってないから! 子供にそんなことしないから!」


ヤヤ「お、大人には…………?」


マーリン「――――やっちゃうね。時と場合において」


ベレッタ「マーリンさん!」


マーリン「だって嘘吐いたってバレちゃうじゃん」


ヤヤ「大丈夫です。むやみやたらにユニークスキルは使いませんから」


マーリン「でも今回は使っちゃったのね」


ヤヤ「――――やっちゃいます。時と場合において」


ベレッタ「マーリンさん! 大人げないですよっ!」


マーリン「とにかく、なにか困りごととか、してほしいことがあったらなんでも言ってね。全力で協力するから!」


ベレッタ「く、口の封じ方がえぐい…………」


ヤヤ「それでは、意趣返しをしてもよろしいでしょうか」


マーリン/ベレッタ「「い、意趣返し…………?」」


ヤヤ「お二人が最も知りたくない情報を教えたいと思います。それで今回のことは手打ちということで。被害者のペーシェさんがいないのに、手打ちというのもおかしな話しかもしれませんが」


マーリン「最も知りたくない情報? なんかめちゃくちゃ怖いんだけど」


ベレッタ「そ、それでヤヤちゃんの気が済むなら」


ヤヤ「分かりました。ではご両人、御覚悟頂戴仕ります」


マーリン/ベレッタ「「ご、ごくり…………っ!」」


ヤヤ「ペーシェさんはアーディさんに片想いしてました」


マーリン/ベレッタ「「――――――――えっ!? 今、なんてッ!?」」


ヤヤ「ペーシェさんはアーディさんに片想いしてました」


マーリン/ベレッタ「「……………………」」


ヤヤ「お互いが知らなかったとはいえ、実は両想いだったのです。南無三宝」


マーリン/ベレッタ「「げろげろーーーーーーーーーーーーッ!」」


アーディ「マーリンさん! ベレッタ! 急にどうした! 大丈夫か!? もらいゲロ!?」


ヤヤ「アーディさんは近づかないでくださいっ! 殺されますよ!」


アーディ「なんでッ!?」

すみれはイラと心を寄せ合うことができました。

マーリンはなんとかサマーバケーションに駆け付け、おいしいご飯に舌鼓。

アルマは寄宿生たちと訓練を通して、同年代の人たちとの交流を楽しんだ。

ペーシェは見事に地雷を踏み抜き、ゲロ吐いて死にかけました。

強メンタル持ちのペーシェも失恋には耐えられなかったようです。残念ですが、現実とは非情なものです。


次回は、サマーバケーション最終日。アルマが寄宿生たちに混じってトライアスロンに挑戦します。事実上、アルマ対寄宿生たちの戦い。寄宿生たちは、あくまで一般人のアルマに負けたらシェリー主導の補講地獄。

アルマはアルマで補講地獄に叩き落してあげたいから容赦無し。

補講地獄が嫌な寄宿生たちは死に物狂いで勝利を目指す。

寄宿生たちはアルマの嫌がらせに似た本気を越えることができるのか?

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